第11話 優しくなれなくて
しかし、いざ出来上がった今井の原稿は、
涼子の予想を超えていた。
南海の孤島に流れ着いたヒロインが、
内なる声を聞き、運命の相手を探す旅に出る。
サバイバルを繰り返し、様々な試練を乗り越えると言うもの。
涼子は単に、男女のありふれた運命の恋話だと
思っていた自分を恥じた。
サバイバルの相手は人間であったり、
自然であったりする。
単におしゃれな会話を交わす薄っぺらな恋愛でない。
そしてお決まりのように、ヒロインは心ならずも
悪役達に辱めを受ける場もある・・・。
(でも、私はピュア)
汚濁合わせての運命に翻弄されても、自分の内の声に従い
立ち向かう強いヒロイン。ファンタジーの色も濃い。
後は、無意味な死別はなしで行きましょうね・・と今井は言う。
もうそんなの飽き飽きしてる。書くのも、読むのも・・・と。
むやみに、腹を膨らませる事もしないわよと。
レイプ、妊娠、恋人との死別・・・
まだそんなワンパターンな話はあふれてはいるが。
(しかし、こんな話が受けるのだろうか??)
今井の意気込みが、まだ年若い読者に受け入れられるのか?どうか
読者の反応は、正直な所フタを開けてみないとわからない。
しかし、もう後戻りは出来ないのだと涼子は心に決める。
尚も仕事に明け暮れ、由子が退院したのにも無関心でいた彼女
でも少なくとも、真央が心細げに自分を待っていると思って
心乱される心配も無くなるので、涼子にとっては一安心。
母親の由子は子宮ガン。
子宮の全摘出手術を受けたのだ。
孫がいて、もう妊娠する可能性はないにしても
まだ50代の由子にとってはショックなことだ。
でも、その身体の傷だけだけでなく、心の傷を負った由子に
慰めやいたわりの言葉をかける余裕が、涼子にはなかった。
退院した由子も黙っていたが、もう諦めの境地で寂しく日々を過ごすが
真央の存在だけが、彼女の救いだったのだ。
真央は真央で、大好きな祖母の由子が家にいるだけで安心する。
そして弁当三昧の生活に飽き飽きしていたので、家で食事できるだけで
もう満足だった。
そうして、やっとの思いで発刊された新しい雑誌。
その本を片手に、涼子は感無量の思いで
夕貴に電話をかけた。
『ねえ、夕ちゃん。久しぶりね。明日会える???』
声が弾んでいた。