100話目 そして、その後の二人
そして、クリスマスの翌朝、真央が居間に降りて行くと、
ソファーに眠りこんでいた夕貴と床に毛布にくるまって眠っている
文弥を見つけた。
昨夜は、文弥と話が弾み深夜になってしまったようだ。
真央は呆れて、文弥をゆすり起こそうとする。
『文弥、起きて』
『ああ、真央、もう朝なんか???』
『信じらんない。風邪ひくわよ。』
『ハイハイ、おっかないんやな。患者さんには、もうちょっと優しいしたりや。』
『大きなお世話!!』
まだ眠気眼な文弥、立ち上がるがよろけてしまう。
その様を見て、夕貴も笑っていた。
昨夜、一緒に部屋で眠っていたはずなのに・・と真央。
今も部屋に飾られている夕貴や修平の絵の前で
眠るのがやはり嫌だったのだろうか?と思う。
文弥は、文弥で思っていた。
(今も夕貴さんや、修平さんが真央の心の中の何割か占めてるんかもしれん)
(でも、それがなんや。今、真央の前におるンは、この俺や・・)
文弥は、真央を抱きしめながらそう思った。
真央が果てても、異様に気分が高揚して、眠れなくなったので・・
テレビを見ようと居間に下りてきたら、夕貴が一人で飲んでいた。
新しい小説の構想でもねっているのか・・と思ったが、
寸分の隙もなく美しい横顔に、男の文弥も見惚れた。
(俺は、この人に一生勝てないかもしれない・・)
そう思う文弥をよそに、実にくったくなく
『君も飲む?』と誘ってきた。
『今日は嬉しくて、眠れないんだ。』
夕貴なりに、自分の事で母娘が仲たがいしていることを
長年心配してきたのがやっと肩の荷がおりたと話す。
『君と真央ちゃんが一緒になってくれたら、僕も安心だ。』
『俺も、そのつもりです!お父さん。』
『え?お父さん?恥ずかしいな~。』
(まんざらでもないくせに・・)
文弥は夕貴と飽きるほど話し合って、夜が更けていったのだ。
文弥がトイレに行ってから、居間に戻ってくると、
真央と談笑する夕貴の二人の姿が目に入る。薫が夕貴のそばにいた。
(なんか、絵になる二人・・??)
『お母さん、ちょっと・・』と思い出したように涼子を呼び止める。
きょとんとした涼子に、カメラのアングルを示すかのように、真央と夕貴を
両手の親指と人差し指で囲って見せた。
『お母さん、真央が年の若い奥さん。夕貴さん、薫君の親子連れに見えません?』
『・・?あなた、何が言いたいの?』
『・・絶対、この図は二人で阻止しましょ。俺はお母さんの味方です。』
『あ、ありがとう・・それは、どうも。』
『俺は、ドクターの卵やし、お母さんの健康管理は任しとって下さい。
いつまでもキレイでいてくださいよ。』
『そう、頼もしい婿で嬉しいわ。』
涼子は苦笑いするしかなかった。
そして翌年の春、
峰夫の病院に、新しい研修医が来る。
『やだ、新任の研修医って、あんたなの!?』
波瑠が叫ぶ。真央は横で満面の笑顔で迎えた。
その先には文弥が立っていた。
『よろしくお願いします。研修医の矢上文弥です。
はるばる仙台に来てしまいました。がんばります!』
また、3人がそろったね・・
真央と波瑠は互いの顔を見合わせたのだった。
そして・・それからの二人・・
文弥は、2年の研修期間が終わると、真央を連れて帰京し、
都内の総合病院の勤務医とになる。そして28歳ごろ
真央と結婚し、数年後に開業医になる。
波瑠は仙台にとどまり、27歳に隆史と結婚。
峰夫の病院の看護師のまとめ役になる。
修平は、父親の知事立候補を手伝い、自らも地方議員になって
父を支える。
そして鮫島由衣と結婚し、鮫島の娘婿として、30代前半で
国会議員になる。
今井美帆は、夫神部が心筋梗塞で突然死去。
遺品を片づけていると、日記をみつけ、美帆の若い恋人を
殺害したことを知る。
その日記を焼却し、田舎の家を売却。
娘と二人、都内のマンションに移り住んだ。
出版社に、夕貴との共同小説の企画を売り込み、実現させる。
そして夕貴と美帆の連作小説が店頭に並んだ。
『ten LOVE』
誰かが、誰かを愛し続けた10年の物語。
その年のベストセラーになる。
2010/12/17 完結
読んで下さった皆さんに感謝します。