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9 低ランク用階層②


side 勇次


前回[低ランク用階層]を作る上で必要な項目について考えたので、次は迷宮の細かな構造を決めよう。


まずは、入り口と出口の関係を詳しく考える必要がある。

入り口と出口の関係、つまりその2つが分かれているのか、それとも出入口のように1つになっているのか、ということだ。


まずは、2つに分かれている方を考えよう。

実際にある建築物から想像してみると、例外はあるだろうがお化け屋敷は一本道だ。

入り口から入り、進むごとに、お化け達が順番に出て来る。

それにリアクションをして、涙目になりながら、入り口とは別の出口から出ていく。

ここでは、それをお化け屋敷方式と呼ぶことにする。


次は、出入り口のように、入り口と出口が一緒になっている方を考えよう。

実際にある建築物から想像すると、コンビニが思い浮かぶ。

入り口から入り、目的の物を発見して、手に取る。

そしてその帰り道に、ついつい目に入った物まで、手に取ってしまうという罠を踏んでしまう。

肥るなぁとか、数分で忘れることを考えながら、カウンターに行き会計をする。

その後、再び入ってきたドア、つまり今は出口となった所から出ていくのだ。

これを、ここではコンビニ方式と呼ぶことにしよう。



次はこの2つを、ダンジョンに置き換えて考えよう。

お化け屋敷方式では、同じ道を通らない構造になっている。

つまり冒険者にとって、行き止まりまで来たら引き返す、ということをしなくていいし、中で他の冒険者と正面から鉢合わせすることもない。

もし正面から鉢合わせした場合、お互いが来た道はすでに宝箱を開けているため、すれ違った後は、宝箱の中身がないことになる。

それに、モンスターも倒された後のため、経験を積むなら、モンスターが復活するまで待たないといけない。


つまりこのお化け屋敷方式は、工夫することによって、進めば宝箱やモンスターが必ずいるという構造にすることができるのだ。

工夫の仕方としては、中からしか出口が開かないようにしたり、入り口から入る人の人数制限をしたりするなどといったことが思い浮かぶ。


これを応用すると、冒険者のレベル上げがしやすいルートができる。

なぜなら、入り口から入れば必ずモンスターがいるのだ。

復活するモンスターを変えなければ、冒険者は自然とこのルートの対策を行い、何度も繰り返し挑むことでより短時間でレベル上げと金策ができるようになる。


これをさらに発展させて、難易度や傾向が違うルートを複数作る。

そうすることで単純に身体的なレベルを上げるだけでなく、特定のスキルレベルを上げさせるよう促すことができるかもしれない。

例えば、炎属性に弱いモンスターのみ出現するルートを設置すれば、冒険者は炎属性の攻撃を鍛えようとするだろう。


属性に関することだけではない。

[低ランク用階層]に設置することを考えれば、剣士や魔法使いなど職業ごとに、レベル上げしやすい環境を整えてあげるのも重要だろう。

例えば、冒険者が減る要因として、もちろん一番は戦闘による死亡が多いだろうが、別の理由として、初心者が自主的にやめてしまう、というものがある。

近接武器必須、魔法必須、というモンスターが現れるルートを必ず通らなければならないとして、様々な理由からその対策が取れない冒険者もいるだろう。

例えば、ソロでダンジョンを挑まざるおえない状況の中、剣士が挑んだものの対策をするすべがなく、結果ダンジョンで稼げないのなら、すぐに冒険者などやめてしまうだろうということだ。

剣士が魔法必須のモンスターが現れるルートを避けることができるし、魔法使いは動きの速いモンスターがいないルートを選ぶことができる、そういった細かい部分にも対応する。

結果、レベルが上がり、初心者を脱しさえすれば、対策がとれる手段も増えるだろうし、急に冒険者をやめてしまう者が減ることに繋がるだろう。

後半はお化け屋敷方式だけのメリットでは無くなってしまったが、話を戻そう。


さて、お化け屋敷方式のデメリットとしては大体3つある。

1つ目はスペースに関してだ。

入り口と出口を大通りから近い位置に作る以上、どうしてもルートを増やせば増やすほど、バームクーヘン状に横に広くなっていき、ルート自体も外側に行くほど長くなってしまう。


2つ目は冒険者が増えるに従って、周回できる回数が減っていくということだ。

冒険者が入り口から入れば、必ずモンスターに会えるという状況を作るなら、一度に入れる冒険者の数を制限するしかない。

出口から出た後、もう一度入り口から入ろうとしても、入り口に行列ができていれば、再び入るのに時間がかかることになる。

つまり、あまり周回できなくなるのだ。


3つ目は冒険者達に周回される以上、コストがかかることだ。

このお化け屋敷方式は、どちらかといえば冒険者のレベル上げのために設置することになる。

つまり、アイテムも取られることを考えると、やはりポイントがかかる。




次にコンビニ方式について考えよう。

お化け屋敷方式とは違い、ルートを放射状に延長させて行くことができる。

冒険者は行き止まりで引き返すという、時間的な無駄ができてしまうが、作る側としては、出口に向かうルートを作る必要がない。

つまり、スペースの観点からいえば、出口に向かうルートの代わりにそのスペース分の入り口と、奥まで行けるルートを増やすことができるのだ。

冒険者側からすれば、冒険者の数が増えるに従い、お化け屋敷方式と比べ、結果的に入り口と奥に続くルートが多い分混雑が少なくなり、収入増えることにつながるだろう。


コンビニ方式のデメリットとしては、引き返すという時間的無駄もそうだが、奥に行くほどモンスターが強くなるという構造上、引き際を見誤る者がいるだろうし、死亡率が上がることだ。

つまり、勝てるモンスターに何度も挑み、レベル上げをするという方法がとれにくいことになる。




まとめてみよう。

この2つの方式は、レベル上げしやすいか、混雑しにくいかの違いである。

これは、多少目的によって変わっていくが、スペースによる関係が強い。

具体的に言うと。

冒険者にとって、冒険者の数が少ないうちは、お化け屋敷方式の方が経験値も収入も手に入りやすい。

逆に数が増えた場合は、コンビニ方式の方が手に入りやすくなるということだ。

もちろん、実際にはそううまくことが運ばないだろうが、ざっくりとそう考えてみる。


両方の良いところを取り込みたい。

そうすると、基本的にはコンビニ方式で、中にいくつかお化け屋敷方式があるという構造にしよう。

中にお化け屋敷があるコンビニなんて、面白そうじゃないか、ということで。





出入口に関する基本的な考察は終わった。


次は奥に行くためのルートの構造について考えよう。

一般的に考えられるのは3つある。


1つ目は、基本的には一本道であり、途中、または隣接して部屋があるという構造。

2つ目は、植物の根のように枝分かれが多く、そのうちの数本が最奥までいける通路であるという構造。

3つ目は、網目状に通路が重なっており、階層の深部に行くのにルートが複数あるという構造。


とはいえ、ここは[低ランク用階層]だ。

冒険者の数が多くなることを考えると、網目状の構造の方がいいかな。

網目状の構造の方が、冒険者達にルートが知られたとしても、得意分野によって通りやすいルートが違うため、人をばらけさせやすいだろう。

もちろん、コンビニ方式の中身が網目状で、お化け屋敷方式の方は一本道にするけど。




つまり、今まで考えてきたものをまとめると、…これはとても難しいのではないか?


そもそも、通路をランダムに変化させやすい構造って何。

いくつかのギミックは思いつくけど、それをダンジョン内に無数に設置したとしても、管理するのは自分1人だし、ほとんどは機能しないものになってしまう可能性が高い。



…はぁ、とりあえずコーヒーを入れてこよう。


コントローラーをカタリと置き、アイテムボックスからホットコーヒーを取り出す。

インスタントコーヒーしか飲んだことのない俺には、コーヒーの違いなんてわからないが、この柔らかい苦味に目がスッキリした気がした。


つまり、この構造の問題点は…。


ちらりと、前飲んで、置きっぱなしのコーヒーカップが目に入る。

そういえば、このコーヒーを取り出すごとに、カップが増えていくのか。

このままでは何かもったいないな。

外れアイテムとして、このコーヒーカップも宝箱に入れてやろうか。

でも割れ物だから、嫌われそうだな…。



…さて、何かいいアイデアはないものだろうか。


通路をランダムに変化させやすい。

それでいて、変化させる通路が増えたとしても、管理しやすいものがいい。

管理しやすいとは、単純に数を減らすということ。

そして、複雑な構造は避けたい。

それなら、通路を繋げ直すという単純なものが多い方がいいか。


変化させる通路の数を減らすというなら、逆に変化させないところを増やせばいい。

つまり、大きな[区域]を作って、その[区域]間を移動するための通路を変化できるようにすればいいのか。

[区域]の中身は、例えばお化け屋敷方式の[レベル上げ用区域]や、単純に迷いやすい[迷路区域]のように、コンセプトを決めよう。


通路に関しては、同じ階層の[区域]同士を繋げるだけではなく、階層をまたぐのも面白そうだ。

例えば、2階層の[区域]から4階層の[区域]に繋ぐような、より複雑な構造がいいだろう。



なかなかいいアイデアだ。

この[低ランク用階層]は、[区域]というアイデアを使った構造に決定だ。




よし、さらに細かく決めよう。

[低ランク用階層]は、2階層から6階層までの全5階層で構成されたものになる。


入り口は2階層にのみ設置し、大通りから両側に2つづつの、計4つ作ろう。

入り口から入るとまずは、[発散区域]に繋がるようにする。

[発散区域]はそのままの意味で、入り口から入った人達がばらけるように、様々な[区域]に移動できる通路がたくさん繋がった[区域]だ。

まずは、[発散区域]から繋がれるような位置に、色々な[区域]を設置することになるが、もちろん[区域]間は通路を通すために、余裕を持たせる必要がある。


入り口から離れるほど、[区域]の難易度を徐々に上げることになるが、たまに[即死区域]や、[安全区域]の設置を作るのもいいかもしれない。


[レベル上げ用区域]を設置する場合は、関係ない人達がスルーできるように、他の[区域]に繋がる通路に行きやすい構造にすること。



こんなところか。

やっと、[低ランク用階層]の構造が決まったな。


手に持ったコーヒーを一気に飲み干すと、早速作業に取りかかった。



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