5 異世界転生
side 勇次
次は[リスポーン部屋]を見てみよう。
この部屋の説明欄には、このダンジョン内で死亡した者を復活させることができる、としか書いていない。
ダンジョンの入り口近くに設置してみる。
設置した部屋をクリックすると、その部屋の情報が表示され、その中の[設定]をさらにクリックする。
出てきたウィンドウに[基本効果]と[個別効果]の2つが並んでいた。
…確かチュートリアルでも個別にも対応していると書いてあったな。
とりあえず、[基本効果]の方を選択すると、画面が切り替わり、大きな表が現れた。
[優先度][効果名][名前変更][効果範囲][適応範囲][復活状態][復活までの時間][1人当たり必要な合計DP・SP量]………。
とりあえず、細かい。
とりあえず、[効果範囲]は、場所に関するもので、ダンジョン全体や一区画のみなど選択できるとのこと。
[適応範囲]は、死亡した者のステータスやスキル、死亡時の状態などで、効果を発揮するかどうかを決めることができる。
[復活状態]は、復活時の体力の設定に留まらず、状態異常を付与したり、物を持たせたりと自由に設定できる。などなど。
一通り試してみた結果、簡単に言えば[合計DP・SP量]は、より侵入者側が有利なら増加し、ダンジョン側が有利なら減少するようだった。
ゲームでよくあることの1つに、復活時はHPが回復する代わりにステータス低下が付くものがある。
それをこのゲームでは、ダンジョン側が復活させる時に必要な[合計DP・SP量]を減らすため必要なことだった、ということになるらしい。
また、侵入者の死亡時にDP・SPが回収できることはわかっていたが、この復活時にも回収できるか試した結果、無理だとわかった。
復活時のバトステを重くすれば、復活時に必要なポイントが反転してマイナスになり、むしろDP・SPが貰えないかと狙っていたのだが…。
見落としがある可能性は高いが、この[合計DP・SP量]がマイナスの値をとる条件が、現段階では見つからなかった。
ただ、物やスキルを奪ったり、付与できたりできることが確認できたため、今後重要になるかもしれない。
…さて、気づけばもう午前7時を回っていた。
今は夏休みである。
本来なら、すでにこの時間になると、この部屋にもカーテンごしの日の光が差し込んで来てもおかしくない。
雨音はしないし、曇りなのだろうか。
いや、それにしても暗すぎる。
…この形のない違和感ではあるが、もう無視することはできない。
机にコントローラーを置き、かたりと音がしたそれからドアに目を移した。
……なぜか今なら開く気がした。
イスから立ち上がり、頭ははっきりしているはずなのに、何故か震えている気がする手を、ドアノブにかける。
ドアノブが回るのは前確認していたし、別におかしくない。
しかし、手をかけた時にわずかに動いたドアに、前とは違う感覚を感じ、それで…それから……。
開いたドアから見えたのは、何のへんてつもない部屋だった。
白い壁紙にフローリングの、広くも狭くもない部屋。
そして隅に上に開く型の大きなチェストが置かれていた。
見たことの無い部屋のはずなのに、見覚えのある、それでいて予想通りの光景に、むしろ安心するという奇妙な感覚を覚えていた。
…やっぱり、チュートリアルで設置した部屋、そのままだったな。
何かおかしいと感じたのが、いつかと聞かれれば、あの時ドアが開かなくなった時からと答えるだろうか。
他にも外が静かすぎるとか、管理者は自分自身だとあえて書いたような文章だとか……。
何より、このゲームがまるで現実であるかのように考えている自分に気づいていた。
…それがまるで当たり前のように。
これはいわゆる異世界転移だ、とかなんとか頭をよぎる。
そして、この今までの人生で経験したことの無いような静かな部屋が、もう1人なのだと言っている気がした。
とりあえず、現状必要なのは水と…。
いや、チュートリアルで必要無いと書かれていた。
後はお風呂とか…。
いや、やはり食料も一応必要か。
人に必要なものは衣食住。
必要無いと書かれていても、精神衛生上必要なこともある。
元の部屋に戻り、コントローラーを握りしめる。
いざ物を設置しようとすると、食料は別として、お風呂はまた今度、ポイントを貯めてからでいいかなとか、広いものが良いなとか、まだ設置リストに広いお風呂がないじゃんとか、あれこれ考え始める。
まるで何かから逃げるように。
ただ、友達はみんな帰省中だったなとか、親が夏休みぐらい帰っておいでと言ってたとか、頭の片隅に記憶が蘇る。
…最後に寂しさだけが残った。