3 リバイバル
side 勇次
[あなたのダンジョンに名前を付けて下さい]
画面が切り替わり、再び文字が表示された。
1周目ではダンジョンに名前を付けた記憶は無い為、このゲームは2周目からが本番だったということだろう。
急に管理者というアバターが追加され、住居を整えるといったやり込み要素が出てきた。
さらには、装備品強化の概念や、よりこのダンジョンに適応していく侵入者の存在。
確かに面白そうだ。
もしかしたら製作者は、プレイヤーがやることが多過ぎて混乱しないよう、段階を経て、この本番のダンジョン経営を楽しめるようにしたのかもしれない。
それならこのゲームを売る時、2周目から本番だよって宣伝しろよ、と思ったが、アプリショップでこのゲームをダウンロードした時、ゲームの概要欄を読んだ覚えがないため、もしかすれば書いてあったのかもしれない。
こういう時、パッケージ版なら強調して書いてあるから楽なのに。
いや待て、ゲームの序盤でそういうことが書いてあったような気がしなくもないか。このゲームの細かい設定とか流していて覚えていない。
1周目もとても楽しかったです。
このゲームはとてと良いゲーム。はい。
まあ、冗談はそこそこにして、ダンジョンの名前か。
このダンジョンでは、新しく[リスポーン部屋]なるものが設置できるらしいので、単純に復活の意味を持つ英語から、リバイバルとかでいいか。
「ダンジョン…リバイバル」
あ、なんかそれっぽく感じてきた。
キャッチフレーズは「どっちがゾンビなのか」で決定だな。
ダンジョンの名前も無事に決まり、チュートリアルも終了したようで、これからダンジョン作成が始まる。
とは言ってもその前に、このダンジョンの方針を決めていこう。
このダンジョンの名前はリバイバル、つまり復活ということ。
そこから連想して、例えば宝箱に回復薬関係を入れる頻度を高くするのはどうだろうか。
なぜ連想するかというと、名前に関連する物の方が冒険者にとって、ここで何が手に入るのかがわかりやすいからだ。
そしてわかりやすいと言うことは、知名度も上がりやすいということに繋がる。
などと考えてみたが、さらにその前段階の方針を考えよう。
そもそも素人は失敗する。
特に、ある程度知識がある素人ほど大失敗するなんて事はよく聞く話だ。
それなら失敗する前提で、もっと大まかな方針の方が今後やりやすくなるだろう。
さっきの回復薬に関してもそう。
近くの町で大量生産されていたとすると、町で簡単に、安く買えることになる。
その場合需要がないため、ダンジョンにわざわざ行こうとする冒険者は少なくなるだろう。
そうなればこちらとしても早々に方針を変更することになる。
つまり、一度方針にそってダンジョンを作ってしまうと、それを作り直すのに時間とコストがかかる。
そうならないように、まずは具体的なものは避け、抽象的な方針を決めていきたい。
1つのことに特化しないような、様々なことを考える必要があるものがいいな。
とはいえ回復薬に関しては、1周目では低ランクの物ですら根こそぎ持っていかれていたため、その徴候は見られなかった。
だからといって2周目もそうとは限らない。
現段階ではダンジョン外の情報を手に入れる方法がないことが悔やまれるな。
なぜか目からは今までのように単純ではないような、嫌な予感がしているのだ。
ということで、まずは自信の持てる方針を決めたい。
では決める前に情報の整理と追加項目を使ってみることで、できるだけの考察をしてみよう。
まず、このダンジョンを作成する上で必要なポイントは2種類ある。
ダンジョンポイントであるDPと、ソウルポイントであるSPだ。
DPは侵入者がダンジョンに入った時だけではなく、スキルや魔法を使った時や倒された時にも得られる。
逆にSPは、侵入者が倒された時のみしか得ることはできない。
…2種類とも人によって得られる量は違い、レベルや年齢、職業などによって変わることがわかっている。
DPは行動するに当たってなにかと必要であるが、SPは主にモンスターの復活や一部のアイテム・装備品作成にのみ必要だ。
2つを比べると、今までの経験上、俺が自然にプレイした場合、SPの方がかつかつになる。
というのもこのゲームでは、時間経過で設置したモンスターは自動で復活するし、宝箱に登録されているアイテムも自動で補充されるようにすることができる。
それはとても便利な機能なのだが、知名度が上がり、侵入者が急に増えると大変なことになる。
みるみるプールしていたSPが減っていくのだ。
あの時はあわてて登録したアイテムを別の物に変えたり、モンスターの配置換えをしたな。
見落としがないか確認するのに、相当時間を使ったのが思い出される。
…設置したアイテムのランクが下がれば侵入者の数も減る。
他にも、冒険者を倒す比率をモンスターによるものから、罠によるものに変えたとしても、今回は冒険者も学習し、罠に適応してくることが考えられるため、時間が経つほどに罠の効果も無くなるだろう。
つまり、より侵入者の数が増えることを見越した場合、それらを十二分に対処するには、設置方法を工夫する以上に、根本的な対策、アイデアが必要かな。
今はそのことを心に留めておいて、次は追加項目の実験、特に必要になるDP、SPの量を調べよう。
…それにしても…。
目を画面から外し、自分が今いる部屋を見渡してみる。
特に変わったところはなく、時計は午前四時半を指していた。
しかし、何か引っかかる。この部屋は静か過ぎるのだ…。