1 初めからやり直す
初めての投稿です。
side ダンジョン
ダンジョンが生まれるとき、それを導くために管理者が選ばれる。
それは管理者が為に形を変え、導かれるために管理者を導く。
すべてはそれのために。そうあれと作られたのだから。
side 勇次
「スケa-5にスケb-23を合成して…、よし配置して終了」
俺は、最近はまっているダンジョン経営シミュレーションゲームで遊んでいた。
内容はシンプルで、ダンジョン内に通路や部屋、モンスターや罠を設置し、そこに冒険者が延々と出入りするというものだ。
ミッションクリアや知名度上昇などによって設置できるものが増えていき、ダンジョンをさらなる高みまで成長させていくのが目的となる。
ちなみに今やっていることは、モンスター同士の合成だ。
強いモンスターを作る為にはこの工程が必要で、要は限界まで成長したモンスター同士を合成し、ステータス上昇を図るものである。
合成する種類によっては別種のモンスターへ変化することもあり、その組み合わせを探していくのも面白いし、またはランダムで取得するスキルを引き継がせ、スキル構成を整えることで強くしたりと、奥が深いシステムとなっている。
つまり…強いモンスターを生み出すには、こつこつと他のモンスターを合成していくしかない。
ダンジョンを発展させる為の一つの要素でしかないが、ここを怠っては知名度の上昇率が変わるのも確か。
現状、欲しいモンスターを作るのに必要なモンスターを作るのに必要なモンスターに必要なモンスターが不足してきたのだ。
…何を言ってるのかわからないかもしれないが、作業すぎてむしろ自分でも何が必要かわからなくなっている。
「もう3時か。目が疲れてきた…」
大学の夏休みも後半に入り、暇潰しに始めたゲームにここまではまるとは思っていなかった。
疲れているのなら休めばいいとわかっているものの、やっていいのが夏休みだと誰かに反論してみる。
そんな頃、それは訪れた。
[おめでとうございます。このダンジョンの知名度が一位となりました]
ゲーム画面に突然文字が現れ、その下にはそのままプレイし続けるか、初めからやり直すかの選択肢が表示されている。
「ゲームクリアしたのか」
知名度が一位。とはいえこのゲームをプレイした全員の中で一位ではないだろうし、知名度が一定の値に達したのだろう。
ダンジョン同士の知名度を競ってたとか、今思い出した設定であるが、ここで一区切りというわけだ。
ここで達成感を感じるべきなのであろうが、俺はまだ満足していない。
何より、中途半端になってしまったモンスターやら、コストが足りなくて後回しになってしまった設備の数々。
そう、中途半端が一番気持ち悪いのだ。
まだこのゲームを続けたい。
とはいえ、特殊スキルを持ったレアモンスターを、他のやつに使ってしまっていたんだよなぁとか、細かい後悔があるのも確か。
このゲームにも慣れてきたし、ここは初めからやり直すのも有りか。
[初めからやり直す]をクリックした。
さて、オープニングが流れている間にコーヒーでも飲もう。
席を立ち、部屋から出ようとドアノブを回し、勢いのまま踏み出すが、つま先をドアにぶつけて悶絶した。
「痛っ。待ってドア開かないんだけど」
もう一度ドアノブを回して押してみるも開かず、試しに引いてみるが開くはずもない。
意味がわからないというか、むしろ俺は寝ぼけているのだろうか。
デジタル時計はすでに3時を周り、いつもなら…まだ起きている時間だ。
もしかすれば既に寝落ちしており、現在進行形で夢の中なのかもしれない、てことはないか。
いや待て、まずは冷静になれ。状況を整理しよう。
ここは田舎にある私立大学近くのアパートの二階。
一人暮らしにはピッタリの1LDKで、現在リビングともう1つの部屋とをつなぐドアが開かないでいる。
内装はこれぞ男の部屋という感じではあるが、掃除がしやすいよう床には物が置かれていないという工夫がなされていると自負している。
…逆に机の上に乱雑に物が置かれているが、それはご愛敬というものだ。
ドアは片開き戸で部屋からリビングの方に開くようになっており、可能性としては、リビングにある家具がドアの方に倒れたのだろうか。
いや、それなら絶対気付かないはずがないし、そもそも倒れてもドアまで届かないはず。
そうなると、このドアの立て付けが悪いということになるな。
確かほんの二時間前は開いていた。
しかし今はドアノブは回るものの、まるで釘で打ち付けたかのように全く動かない。
何か、気味が悪いな。
スマートフォンを取り出してみる。
アパートの管理会社への連絡先が書かれた紙はリビングにあるし、ここはとりあえず警察に連絡するか。いや、この場合は警察なのか?
他の対処方法としては、ドアを蹴破る、または財布にスペア鍵があるので、ベランダから外に出て玄関に回るという方法もある。
とはいえ、ここは二階であるし、実際にはやりたくないね。
今はまだ深夜3時で、日も登っていない。
今連絡しても、警察の方も迷惑だろう。
とりあえずこの寝ぼけた頭では…いやおかしい、なぜか眠くない。
ああ、この緊急事態にすっかり目が覚めちゃったのか。これはコーヒー必要ないか。
「仕方がない。とりあえず日が昇るまでゲーム進めとくか」
まるで自分に言い聞かせるかのように呟くと、コントローラーを握りしめた。