魔術将校の使い魔との付き合い方と帝国軍の戦略におけるギリードゥの有用性
使い魔にも人格はあるし思考をするし感情もある。それは決して召喚者に従順なAIではない。魔術将校は使い魔を恋人の様に扱い、決して裏切ってはならない。
文句があるなら隠したり遠慮したりせずにはっきりと言うし、それは向こうも同じである。
そして、今、何を入れ知恵されたのかギリードゥがサンドイッチマンの状態で私の前に立っている。文字は凄まじい達筆でなんて書いてあるのか読めないが、最後の押印には平将門と読める朱印が押してある。
「ちょっと将門さん呼んで来て」
ギリードゥに告げるとギリードゥは頷き暫くして首を抱えた平将門を連れて来た。
「何用か若人よ」
「これ、達筆過ぎて読めないので読んで貰えますか?」
「ふむ、良かろう」
それから平将門は読み上げる。内容は一日中好きな時、好きなタイミングで好きなだけ菓子を食べてもいい権利を寄越せ。現在、ギリードゥは一日3つのお菓子を昼、夕方、夜に食べても良い。但し、食べる時には必ず私の前で許可が無ければならない。飲み物もお茶や水以外は同様だ。
「で、その権利を求めて貴方はどんな義務を果たしてくれるの?」
ギリードゥは暫く考えてから首を傾げながら言うことを聞く?と何故か疑問形で告げる。
「それは貴方と私との基本契約に入ってるでしょうが。
全く馬鹿な事言ってると、お菓子食べるのを週に一回だけにするわよ」
言うとギリードゥはサンドイッチマンを止めて、看板を脇に捨てた。何がやりたいのだ本当に……
「む、主君が呼んでいるから私は去るぞ。
余り自分の主にわがままを言うでないぞ、苔生した稚児よ」
平将門はそう笑うと去っていく。ギリードゥは平将門に手を振り、それから私のベッドに腰掛けるとゴロゴロ寝転がり始めた。取り敢えず、この達筆な看板を二つに折ってダンボール集積場に捨てておく。
部屋に戻るとギリードゥはテレビの前に寝転がって居た同室の同期が召喚した二股のネコに遊んで貰っていた。ギリードゥは何処から持ってきたのか猫じゃらしの雑草を猫の前でフリフリし、猫は面倒臭そうにその猫じゃらしを叩いていた。
やれやれ。
「おーい、ゴキ」
猫に遊ばれるギリードゥを眺めていたら名幼同期が入って来た。
「ちょっと!そのあだ名やめてよ!」
「良いじゃん。それよりも、何か生徒監探してたよ」
「えぇ!?何やったの!?」
ギリードゥを見るとギリードゥは首を傾げた。
取り敢えず、行こう。制服の上着を纏い、魔術刀をリボルバーを挿したホルスターに吊るす。魔術将校は腰に革や合皮のカウボーイの様なホルスターを提げている。リボルバーは右で刀は左だ。弾は左後ろか右前に専用弾納を付ける。
因みにリボルバーは男子は.44口径、女子は.357口径のリボルバーを推奨される。
基本的に銃は強装弾たるマグナム弾を発射するに耐えうる銃との事でリボルバーが多い。また、銃によってはカートリッジ式ではなく、パーカッション式のリボルバーも多い。
最もそう言う銃は規格統制の理由でカートリッジ式に改造出来るので、パーカッション式の者はまず居ないそうだ。だって、リボルバーは装填速度が自動拳銃よりも遅いのに、弾頭と発射薬に雷管が分離してるパーカッション式なんか持っていったら目も当てられない。
まぁ、それはそれで別の方法があるらしいけどね。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
ギリードゥに私が帰ってくるまで、飴舐めてて良いわよと告げるとギリードゥは早速口の中に飴玉を放り込んで動かなくなった。
ギリードゥはお菓子を食べてる時は基本的に大人しい。
廊下に出る前に帽子や制服を今一度姿見で確認する。よし、問題無し。
廊下に出る。生活隊舎は女子隊舎と男子隊舎に別れている。更にそこも魔術将校課程や一般課程で別れている。だから、私達の居る階は魔術将校課程だけで固められており、部屋も二人や三人、多くても四人部屋になる。
私の場合は豪華に二人部屋だ。廊下を歩き、生徒監室の前に。
「御器所千種将校生徒は生徒監に用件あり参りました!」
扉を三回ノックし、合図あってから入る。
「どうぞ」
扉を開けて中に入って扉を閉める。全て基本教練。
部屋は六畳程の部屋でベッドとテレビに電気ポット等が置かれているだけだ。本来は当直室と言うが私達の当直は生徒監だから此処は生徒監室と呼ばれている。
「ちょうど良かった。お前に用事があったんだ」
「用事ですか?」
生徒監はああと頷くと一枚のチラシを取り出して私の前に。チラシには海軍記念日と書かれており、横須賀鎮守府にて記念式典開催をやり、海軍省前で海軍陸戦隊の行進をすると書かれていた。
日時は一週間後。
「海軍記念日ですか」
「ああ。
そこの海軍陸戦隊の行進があるだろう?毎年我が校からも将校生徒を派遣している。一般課程と魔術将校課程の両方だ。
海軍共の祭典とは言え連中に遠慮するなぞ我等が陸軍にはあり得ん。お前の使い魔、かなり派手だろう?」
アレを派手と言っていいのか分からないが、確かに大勢出して隊列を組ませればかなり凄いだろう。壮観だろう。
「一個中隊程出し、お前が先頭で歩いてくれんか?」
「構いませんが、そんな大役私とギリードゥで良いですか?」
「ああ、高野宮もお前を勧めていたぞ」
高野宮先輩からの推薦!これは何としてでもやらねば!
「了解しました。御器所千種、是非その大役をお引き受けします」
「うん。じゃあ、明日から術科の時間は横須賀にいる陸戦隊と共に行進訓練してくれ」
「あ、明日からですか!?」
「ああ。
必要な物は殆ど無い。財布と身分証明書にその格好と、使い魔だな。当たり前だが陸軍将校生徒の名に恥じぬ格好で行けよ?」
「勿論です!帝国陸軍ここに有りと海軍連中に見せ付けてきます!」
私の言葉に生徒監は頷くと下がって宜しいと言われたので廊下に出た。廊下には同期連中が集まり何事か?と聞いてくるので自慢気に今の話をしてやったのだ。
そして、ギリードゥを呼び明日以降の話をする。正直、あんまり理解してなさそうに飴玉をコロコロやっていたのでスマフォで観閲式の動画を見せてやった。
「コレやるのよ」
ギリードゥはピヨピヨと頷きM14自動小銃を担ぐと行進のマネをしてみせた。まぁ、良いや。詳しくは明日教えよう。
上着をハンガーに掛けて、ベッドに腰掛ける。ギリードゥは私のスマフォをポチポチやり始める。
「こら!勝手にゲームやるんじゃない!」
私のスマフォには何故かゲームがインストールされる。消しても消してもインストールされたので、ギリードゥに聞くとコイツが犯人だった。
それからゲームに関してはお菓子以上に厳しくしており、勝手にやろうとしたら怒ることにした。
「全く。
明日は午後はずっと格好つけるんだから、ヘラヘラしたりしちゃ駄目よ?頑張ったらご褒美上げるわ」
鍵を掛けた冷蔵庫からゴディバのチョコレートを取り出してみせる。一つ1000円とかする奴。ギリードゥはすぐに手を差し出すので叩いてやる。
「頑張ったらよ。
一週間頑張ったら、これをあげるわ。頑張らなかったらあげないからね。良い?」
再度言うとギリードゥは首を大きく頷かせ、小銃を肩に担いだ。営内における火器の持ち込みは禁止なのだが、魔術将校は拳銃や使い魔の使用する武器等にのみ許されている。
まぁ、撃つのはもちろん駄目だけどね。
翌日、午前中の学科が終わり私達は食堂に居た。食堂は魔術将校の区画だけはゆったりとした空気が流れているが、一般課程は緊張と時間の無さに追われていた。三年生は再び一年生のように、下手をすれば一年生以上に厳しい環境で飯を食べて居る。しかも、学年合同だ。
「いやーあの光景には同情します」
演習も斯くやと言わんばかりの忙しさに思わず感想がでてしまう。
「そうね。私達はある意味で特権階級だからこうやってユックリゆったりしていられるけど、向こうは階級社会が始まっているもの」
高野宮先輩も私の言葉に頷いていた。
「と、言うか何でギリードゥはそんなおめかししてる訳?」
高野宮先輩の同期で恐れ多くも天皇陛下のお孫様たる菊花先輩が私の隣でねるねるねるねをモチャモチャ食べているギリードゥを見た。ギリードゥの今の格好は何故かイギリスの近衛兵の様に体のモサモサを赤色にし、頭にベアースキンキャップを被っている。
手に持っているのは現行で我が帝国陸軍の装備している49式突撃銃だ。小銃の左右に切り替えレバーが付いており、銃身部先端にも脚を取り付けて居るので陣地防御の際には精密な射撃が可能だ。
口径は6.5mmでアメリカが二次大戦後の1950年代に世界の共通弾薬に7.62mm口径の自国弾に使用と提案してきたそうだが、我が国とイギリスでは当時、ドイツ第三帝国が開発していたStG44と呼ばれる突撃銃の原型を目の当たりにして口径と薬莢長を一回りほど小さくした弾を新規開発した弾を採用したとか。
当初は24式自動小銃と呼ばれる、中国大陸での運用を目的とした長銃身の小銃を採用したのだが初の試みからか分解結合の際に工具を必要としたり、パーツの作りが甘く脱落が目立ち直ぐに改修が行われて24式自動小銃改と呼ばれる小銃を使った。
これは外観は余り変わっていないのだが、海外の有名銃器メーカーに改修させると同時に日本の技術者を海外に派遣して一から銃器の基礎基本を再教育させて当時日本が遅れていた重工業を含めたあらゆる分野の基礎基本を仕入れさせてきたのだ。
これが日本の経済を飛躍的に上げる事となった高度経済成長と呼ばれる時期である。
「海軍記念日の行進するからって昨日言ったらこの格好ですよ。
何でも形から入るんです、この子達」
肩を竦めると、菊花様は良いじゃないと笑った。
「良いなー私もこういう可愛い使い魔が良かったわ」
「そう言えば、菊花様の使い魔って何ですか?
高野宮先輩に聞いても恐れ多いって教えてくれないんんですよ」
「ああ、私の使い魔?
天ちゃん引き篭もり体質だからねー今も部屋でゲームしてるんじゃないかな?」
天ちゃーんと菊花様が告げるとドガンと食堂の扉が乱暴に開く。全員がそちらを見るとヤンキーと言うかヤクザみたいな格好をしたキンキラキンの服装をした奴が現れる。
「ヘイヘーーイッ!!
俺の姉貴の契約者は何処だぁぁ??あのクソ姉貴今ボス戦ラッシュで手が離せねぇとかでよぉ!」
滅茶苦茶ガラの悪い奴がテーブルの上に立ち上がって誰かを探している。
「ギリードゥ、あの馬鹿を捕まえて来なさい。
殺しちゃ駄目よ?」
ギリードゥに指示を出すとギリードゥは立ち上がって敬礼をし、それからスッと複数に分かれたと思ったら何時もでは考えられない素早い動きで浸透した。
そして、複数のギリードゥが一般課程の生徒たちに紛れて小銃に銃剣を取り付けた。そして、別のギリードゥが小銃を構える。そして、隣に居たギリードゥは私に親指を立てた。私は頷くと小銃を持ったギリードゥが銃を撃つ。
「うぉ!?メッチャイテェ!!何だこれ!?」
ゴム弾だ。そして、銃剣を付けたギリードゥがピーッと笛を吹きながら突撃してヤクザに殴りかかって行く。それに合わせて周囲の一般課程の生徒達も男に飛びかかって取り押さえる。
「あーあー千種ちゃん。彼は侵入者みたいに思えるけど、スサノオよ」
「スサノオ!?」
ギリードゥ!と叫ぶと笛を咥えたギリードゥがピーッと吹いた。すると、ギリードゥ達は立ち上がってワタワタと整列をした。
「いってぇ……
この苔生した奴強ぇ。え、何こいつ?スゲーな、おい。グレートだわ」
侵入者もといスサノオは服についた埃を払いながら立ち上がる。私は菊花様にもう土下座するしかない。
「も、申し訳ありませんでしたぁ!!」
「良いよ良いよ。スサ君は天ちゃんからも一兵卒みたいに扱って良いって許可得てるし。
と、言うか怪力自慢で有名なスサノオを複数人とは言え押さえ込んじゃうギリーちゃん凄いね!」
欲しい!と菊花様はギリードゥに抱き着く。ギリードゥは隙かさず腰に手を回そうとしたので、脇で突っ立っているギリードゥから銃剣付きの小銃を引ったくり、背中に突き付けた。
「ギリードゥ」
言うとギリードゥは直ぐに菊花様から離れる。
「取り敢えず、掃除。食事零しちゃった人にはカップラーメン配ってきて」
ギリードゥに指示を出すとギリードゥは頷いてテキパキと食堂の清掃と料理が無くなった生徒達に料理代わりのカップラーメンをポンポン渡し始めた。
こういう時にギリードゥは便利だ。
我が帝国陸軍は国内外の災害に於いて救援部隊を組み、派遣している。ことアジア周辺の災害に於いては我が帝国軍は必ず駆け付ける。環太平洋地域の安寧と平和は我が帝国の夢であり建国以来の、織田信長公以来の覇権者達の夢なのだ。
嘗ては剣を交えた米国、豪州那等の環太平洋国家とも協調しつつ、我々が主導の下で平和を手に入れるのだ。その為には環太平洋国家への我が国への信頼を勝ち取らねばならない。その為には、様々な国への物資的技術的教育的な支援は欠かせない。
その際にギリードゥは非常に有用だろうと、私は考える。