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魔術将校の平均的な交戦距離とギリードゥと魔王ちゃん

 現代において銃剣での戦闘というものはあまり起こらない。しかし、それでも各国軍は銃剣を配備し、格闘戦闘を行うのは歩兵の役割が第一次大戦から全くもって変わってないからだ。

 因みに、ギリードゥの不敬はお目溢しを受け、逆に宮様方は遅刻なさった事を高野宮先輩に怒られていた。宮様方と高野宮様は幼少より親交があり、何時も問題を起こすおふた方のお目付け役を任されていたそうだ。


「お前達魔術将校は海外の腰抜け共と違って誰よりも前に居なくてはいけない。その身で球を受け、爆撃に晒され、銃剣で突かれる。

 弾を避けるのも爆撃から身を庇うのも、銃剣を避けるのも全てが貴様等で行わなければいかん」


 格闘の教官殿は諸外国の留学生を目の前に平然とそんなことを言ってのけてしまう。


「教官殿!今の発言は国際問題になります!!」


 ドイツの留学生が叫ぶ。


「事実をそのまま言っては国際問題になるのか?

 俺は我が帝国陸軍の魔術将校と諸外国の魔術将校をた戦わせればまず間違いなく圧倒的な力量差で勝利できると確信している」


 教官は私達を一瞥した。


「攻撃魔術単体では貴様等の方が上かもしれん。

 しかし、貴様等が攻撃を一回する前に我等は貴様等の目前に迫り貴様等を縊り殺す事すら可能だ」


 教官殿は来いと叫ぶと教官殿の足元から一匹の黒い影の犬を呼び出した。


「帝国陸軍に置いて今も尚銃剣道や柔道、剣道が重要視されているのか?と言えば格闘が射撃と同等に重要だからだ。広大な中国大陸では敵が何時、どんな所で襲ってくるのかわからない。しかし、敵が襲ってくる地点は非常に限られる」


 教官殿は一昨年まで中国の最前線で戦っていたそうだ。負傷のせいで一線から身を引き、幼年校で格闘の教鞭を執っているそうだ。

 教官殿はその時の負傷の為か杖を付いて歩いている。


「俺は今までに都市部か森林部、山岳部でしか敵の奇襲は受けたことが無い。広大な平野では赤共はIEDや地雷による攻撃が関の山だ。

 では、何故連中は都市部や森林部、山岳部でしか攻撃を仕掛けてこない?」


 全員が素早く手を挙げるが、前の方にいた阪幼年出身の同期が当てられた。


「はい!連中は数にも技術にも、更には精神も劣る為に、数にも技術にも精神にも勝る我々に対して卑怯にもゲリラ戦が行える区画にて攻撃に出るしか無い為です!」


 阪幼校の同期の答えに教官殿は少し苦笑していた。


「その仰々しい装飾は要らん。

 そして、連中は数にも技術にも劣るが、精神だけは我等と変わらん。そこを舐めてかかると痛い目を見る」


 教官殿は杖を突き突き歩き出す。


「連中は攻撃する時は我々を絶対に殺す気で来る。

 近距離から50口径で撃たれたり戦車砲で攻撃された時は流石に死ぬかと思った」


 ハッハッハッと笑うが私は笑えない。


「で、そういう時は大抵お互いの白目がハッキリと視認できる距離で戦う羽目になる。

 まぁ、お互いに銃を撃ち合うよりも殴り合った方が速い距離だ。そして、そういう状況だと必ず我々魔術将校は狙わる。一体一になれば勝てるが、殆ど一体多だ」


 数で押せば勝てると思っとるらしいと教官殿は笑う。

 戦いの基本は相手より一人でも多い方が有利だ。ランチェスターの法則って奴である。しかし、その法則は対峙する兵力が同等の力である時にのみ有効な計算方式であり、魔術将校とたかが一般人とでは戦闘ヘリと歩兵を比べるようなもので些か滑稽なのだ。

 魔術将校を殺すには少なくとも戦車は一個小隊持って来なければならない。特に我が帝国魔術将校の場合は。此れは比喩でも驕りでも何でもなく純粋な事実だ。

 我が帝国魔術将校は知っての通り、あらゆる局面であらゆる敵と対峙することを想定して訓練を積んでいる。対機甲戦闘は勿論、対空戦闘、対軍団戦闘等多岐にわたる。

 そして、その多くが一対多数を想定している。我が帝国の仮想敵国はソビエト及び中国の共産党である。

 連中は魔術を廃して機械化と平等主義を掲げる連中だ。嘗てソ連にもロシア帝国と名乗った時代があり、その名の通り王族がいた。

 連中はその王族を尽く殺そうとしたが我が帝国軍特殊部隊によってロマノフ王朝最後の生き残りアナスタシア皇女殿下を救出した。

 その際、貴族から命を狙われニコライ二世との面識もあって皇帝一家と共に暮らし暗殺を掻い潜った怪僧ラスプーチンも共に救出されたそうだ。

 その後、二人は日本に亡命し北海道の何処かにて殺された家族と滅びた祖国の安寧を祈りながら余生を送ったそうだ。今も尚、二人の墓地やそもそもの生死すらも帝国軍によって完全秘匿されている。


 話がズレた。我が帝国の敵は物量の差で我軍を圧壊させる戦法を取る。その為に、帝国魔術将校は対多数戦を主眼としているのだ。

 そして、そんな魔術将校をたった数人で殺そうと思うのは無謀という事だ。


「俺のような平凡な魔術将校ですら勝てるのだから高位の使い魔を召喚した者は余裕で勝てる。我々は使い魔と共に戦い死ぬのだ。勿論、自分自身も強くなくてはならん。

 だから、貴様等を徹底的にシゴキ倒し、貴様等の使い魔もシゴキ倒してやる」


 覚悟しろ、教官殿はそう笑う事なく告げた。その場に全員の絶望が漂ったのはまず間違いなく、私は今からでもこの学校を辞めたくなった。

 取り敢えず、ギリードゥを呼び出すとギリードゥは複数出てきた。格好は夫々ボクサーパンツとアフロを被りボクシンググローブを付けたボクサーギリードゥ、中国の民族衣装に白い髭を生やしたカンフーギリードゥ、柔道着に身を包み黒帯を巻いたジュードーギリードゥの三種類だった。


「御器所。貴様の使い魔の格好はなんだ?」


 何だと言われても困る。


「す、すみません教官殿。ギリードゥは形から入るので……」

「まぁ、良い。そいつ等は強いのか?」


 どうなのだろうか?ギリードゥを見ると任せろと頷いたので任せてみる。教官殿が前に出て来いと告げるとギリードゥ達は一斉に前に出た。私が一人づつだと言うと教官殿は笑いながらいっぺんに来いと告げるのだ。

 流石のギリードゥも些かムッとしたらしく、吐いたツバ汚いとかクビ洗って清潔とか土下座するのは謝る時とか訳の分からない事を言いながら教官殿に殴りかかって行く。

 教官殿は杖と体捌きだけであっという間にギリードゥ三体を投げ飛ばしてしまう。

 その為、全員が驚きた声を上げた。


「貴様等には防御の形態たる合気道を覚えさせる。合気道はいつ如何なる時に敵に襲われても敵を一瞬で無効化出来る。これをマスターすれば寝ている時以外は必ず勝てる」


 教官殿がそう言った瞬間、ギリードゥ達が腹から小銃や機関銃を取り出したので、慌てて止めるように叱り付ける。


「止めなさい!」


 私が怒るとギリードゥはヤローブコロシテヤル!と銃を構えて引かない。どうやら自分達が一瞬で負けたのがよっぽど頭にきたらしい。

 勿論、それはギリードゥ達が弱いからであり完全に逆ギレだ。


「今すぐ銃を収めないと、あんた達が隠しているつもりの冷蔵庫のエロ本燃やすわよ」


 ギリードゥは何処か見つけてきたのか、雨風に晒されてゴワゴワになったエロ本を共用スペースに置かれた冷蔵庫の裏に隠しているのだ。この前、生徒監がギリードゥが冷蔵庫の裏を開けてゴソゴソやっていたと教えてくれたのだ。

 ギリードゥ達はビクンと震えてから私の足元に縋り付きそれだけは止めてくれと懇願しだした。どうもギリードゥが出ると緊張感が無くなる。


「貴方も弱いんだからちゃんと授業を聞きなさい。

 貴方が弱いと私が死んでしまうわ」


 勿論、私自身の弱さもあるが戦場で命をあずけ合う存在同士互いに高め合わなければならない。


「教官殿、今後ギリードゥも授業に参加してもよろしいでしょうか?」

「勿論だ。使い魔とて例外ではない。

 最も形態によってどんなサポートが期待できるかなどは大きく異なるから何とも言えんがね」


 人形で言葉を理解出来るのであれば最初からいた方が良い、教官殿はギリードゥを見ながら告げた。ギリードゥはコクコク頷いて武器を仕舞う。ほんとにも~!何でギリードゥだけこんなにヤンチャするのだろうか?

 それから全員で合気道の基本的な呼吸法や概念を教わって今日は終わった。因みに、地幼年も中幼年も午前中は学科授業、午後から術科授業だ。学科とは世間一般の学校でやっている通常の英語だの国語だの数学だのと言うやつで、術科授業とは軍事に関する座学、小銃射撃や格闘、魔術などが入る。昼は学食で食べる。

 一般課程ではかなり厳格に喫食場所や時間が決まっているらしいが、魔術将校課程ではそんな事なく先輩後輩仲良く席を共にして談笑しながら食べる。

 売店に関しても三年生、幼年学校は繰り上がり式なので地幼年で一、二年生を中幼年は三年生から始まる、でも使用出来る時間や場所の制限は無い。

 一般課程だと三年生は日用品とちょっとした菓子、飲み物だけだが四年生はそこに売店の前にあるいすとテーブルが、最上学年になると売店でアイスとカップラーメンが買えるようになる。

 勿論、私達魔術将校は最初からすべて使える。


 何故ここまで優遇されているのか?と言えばその責務と重要さの違いだろう。

 当初は私達と彼等との優遇の差で文句を言う三年生も多いらしいが、四年次にある課程合同演習にどんな状況に置いても我々が一番に突撃していき、歩兵将校課程よりも先んじて突撃していく。

 そして、演習時は本番以上に厳しく採点される。と、言うかゴム弾にての射撃演習なので当たると痛い。死ぬほど痛いし、毎年に何人か重傷者が出る。

 それを見に来る各国の観戦武官は青い顔をして帰るのが定番だそうだ。


 幼年学校は1700に課業が終り、その後1720位からクラブ活動になる。これに関しては魔術将校は使い魔との親睦に当てられる。が、これは完全に使い魔に依る。例えば動物型の使い魔なら共に遊んだりしてお互いの関係を深めるし、人型のそれこそ会話も人格も倫理観もちゃんとしているならば使い魔の好き勝手に出来る。

 私の場合はギリードゥは勝手に増えて秘密裏に何かやってしまうので取り敢えず一体だけ常に私の周り置いてクラブ活動に従事している。

 私は高野宮先輩が所属している剣術部に入る事にした。剣術部は剣道部と違う。何が違うかといえば足技や寝技、関節技等もありどっちかと言えば木刀を持って格闘する部活みたいなもんだ。

 そこに高野宮先輩や宮様方は入部しているそうだ。


「ほら、ギリードゥ行くよ」


 部屋に鞄を置いて木刀と道着を準備する。ギリードゥは部屋に入るや否や私のベットにポーンと寝転がりウダウダしようとしていたので、木刀で突付いてベッドから落とす。

 因みに、ギリードゥは擽ると増える。ただし、触れるのはギリードゥが許可した人間、つまり美人やかわいい子、だけなので余りその事実は広まってない。そもそも、野生のギリードゥは増えれば増えるだけ鬱陶しいので好き好んで増やす者は誰も居ない。

 なので、やろうと思えばギリードゥの歩兵師団とかかのうだが収拾つかなくなりそうなのでやらない。


 廊下に出ると私と同じ様にクラブ活動に勤しむ一般課程の生徒達が大急ぎで掛けていく。

 基本的にクラブ活動では課程関係無く集まってやるのだが、魔術将校と一般課程では内部で勝手に分かれている。魔術将校は上下関係無しに準備や清掃をして、お互いに好きな事をやる。

 但し、その内容は一般課程の生徒達を凌駕する。基本的に魔術の使用を前提に戦うので打ち合いとかも凄い派手。基本的には身体の強化だが、時に魔術を放ったりするのでやり過ぎると一般課程から苦情が来る。

 修道場と名付けられた三階建ての建物の二階に私の所属する剣術部がある。ギリードゥと共に女子更衣室に入ると目の前に上富良野先輩の使い魔が仁王立ちをして待ち構えていた。


「魔王ちゃんどうしたの?」

「うむ。我が配下を待っておった。それと魔王ちゃんと呼ぶな」


 どうやらギリードゥを待っていたらしい。


「ギリードゥ、魔王ちゃんと遊んでて良いよ」


 部屋の前にある大きな姿見を前に私の木刀を複製したらしい、腹から出した木刀を二本持ってポージングしていたギリードゥに話しかける。

 ギリードゥは直ぐにポージングを止めて、魔王ちゃんに駆け寄った。それから二人は私達の目を盗む様にコソコソと何処かに行ってしまう。


「大丈夫なの、あれ?」


 別の地幼年から来た先輩が私を見る。


「はい。後でギリードゥに尋ねるとベラベラ喋ってくれますし、口止めしててもお菓子か何か渡せば直ぐに喋りますから」


 もっとも、それだけでなく私がギリードゥの王というのもある。前に別の美人で有名だった同期にお菓子を餌に試したが喋るどころかお菓子を奪われて逃げられた。なんだかんだで信用は置けるのだ。私のみ。


「其処を退けよ、若人」


 イヤにフル臭い喋り方をされる。慌てて振り返ると首の無い巨躯の武者が立っていた。


「ひゃぁ!?」


 変な声が出てしまったがしょうがない。


「あ、ヒラちゃん」


 先輩の一人が告げた。


「ヒラちゃん?」

「ほら、ふみちゃんの使い魔の」


 ふみちゃんとは高野宮先輩の愛称だ。よく見ればそれが高野宮先輩の使い魔である平将門だと気が付いた。

 平将門は日本でも有数の朝敵であるが、今ではそれも赦されて上位の怨霊として使い魔召喚出来るようになっていた。まぁ、勿論使い魔にするには生半可な覚悟では駄目だし下手すれば彼に取り憑かれて殺されてしまうが、高野宮先輩は平然とそれを押さえ込んで使い魔にしてしまった。

 平将門は鎌倉以前の武士なので滅茶苦茶強い。弓も馬も剣も全て使えるし槍と言うか鉾も使える。日本版呂布みたいな存在だ。反骨精神はほぼ無い、と思う。


「ヒラちゃん覗き?

 ふみちゃんに怒られるよ?」

「否!我は我が主君に用があって参った」


 覗きではない証拠に首は外にあると、道場の入り口に置かれた下駄箱に首が鎮座しており、通る人全員が少なからず驚いていた。


「ま、ヒラちゃんそーゆー事しない人だからね。

 ふみちゃんなら奥にいるよ」


 どうぞと平将門を案内する先輩。首無し騎士ならぬ首なし武士が部室内に入る。そのまま高野宮先輩の元に向かって行き、その場に傅いた。


「我が主君よ。要件があり参った」

「どうしたの?」

「うむ。魔王と名乗る異形の女とピヨピヨ煩い苔生した者に我もこの世界を取ろうと持ち掛けられた。

 我はどうするべきだ?」


 あの二人は……

 先輩は私を見てからフムと頷く。


「そうね、貴方はその二人の中に潜り込んで情報を収拾、私に報告なさい。もし仮に天皇家への反逆を起こそうとしていたら我々が全力を持って止めるわ。それまではあなたの好きになさい」

「相仕った」


 平将門はそう言うと去っていった。いやー、話に聞いていたけどかなりデカイし強そう。彼、あんまり人前に出る事を好まないから生で見たこと殆ど無いんだよね。

 首が無いから恥とかなんとかで人前に出たがらないそうだ。しかし、平安時代の武士だけあってその戦い方はエゲツない程に強くヤバイとか。

 それから着替えて道場に入ると上富良野先輩がやって来る。


「やぁ、高野宮さんに御器所さん」

「おつかれ様です」


 先輩への挨拶は大事。魔術将校課程や一般課程関係無く。


「いやー魔王ちゃんがごめんね。何かギリードゥ入って来てから喜んじゃってさ。今まで威張れる人とか居なかったからはしゃいでるみたい」

「そうね。一応、何やるのかは報告させるつもりだし、問題無いわ」


 魔王ちゃん。上富良野先輩の使い魔。どこの国の鬼でどう言う神話系から来ているのか全くわからないし、喋ろうとしないので正体は依然として不明な存在だ。

 まぁ、実害はないし誰も突っ込まないので皆、彼女を魔王ちゃんと呼んでいるし、あのギリードゥまでもマオーちゃんと呼んでいる。

 マオーちゃん……頑張れ。

皇族二人組の使い魔どうしよう?


案イ.滅茶苦茶チート級人外


案ロ.神話の神様系使い魔


案ハ.有名な過去の人


さぁ、どれ!

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