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魔術将校と天皇家の関係性とギリードゥの生態

 幼年学校は厳しい所だ、世間一般的に言えば。魔術将校課程の人数はは総勢が300名前後しか居ない。入学する際に一定以上の学力と帝国臣民として問題ないかどうかを調査され、魔術の素養を厳しくチェックされる。

 魔術というのはこの世で生を受けた人間ならば誰もが扱えるが、それは3つの魔法しかない。魔術と魔法は違う。魔術とは原理や術式等が解析され、一定以上の能力が在るものならば誰でも扱える魔の術を指す。

 対して魔法とは原理も術式も解明されていないのにも関わらず、一定以上の能力が在る者ならば誰でも扱える魔の理を指す。

 そしてこの3つの魔法は魔術将校には成れない一般人でも使える。一つは火とかライターだの火種と呼ばれる指先や手の平に小さな火を現出させる魔法だ。人の魔力値に依って大小は在るが基本的にライター程度の火を出すことが可能になる。

 次に光の魔法。これは頭の上や手の平に光を放つ光球を発生させる。火の魔法と違ってこれには温度は殆ど無く触ってもほんのりと温かいが、火の魔法よりもより強い光源になる。やはり、これも人によって大小は異なるが大抵は懐中電灯と殆ど変わらない性能を持つ。

 最後に水の魔法。これは凡そコップ一杯程度の水を手の平から出せる魔法だ。勿論、人によっては水の量は変わるが、質は誰もが同じである。


「で、このギリードゥは何やってるのかしら?」


 課業後、各地方幼年学校毎に集まって親睦会を開いているのだが、その席でギリードゥがワラワラと集まってきたのだ。因みに、ギリードゥは一個体が群であり、群が一個隊である。一人のギリードゥが経験し事は別のギリードゥも再現できるし、別のギリードゥに渡したものはまた別のギリードゥも所持している。ただし、一度腹に入れると言う動作を必要とするが、それでもほぼ無限に出てくる。

 私はこの能力を使ってギリードゥを移動武器庫、移動食料庫、移動弾薬庫にしている。名幼校の校長に直談判し、帝国軍の採用しているありとあらゆる個人携行火器、部隊火器とそれに関するありとあらゆる弾薬に戦車砲弾、榴弾砲弾等の個人で運搬搬入出来る兵器の弾薬もギリードゥに取り込ませることが出来る様にした。

 私の構想では、ギリードゥを各特殊部隊に配置して無補給での単独或いは少数潜入が出来る様にするものだ。ギリードゥならば妖精種なのでそこら辺に居ても可笑しくない。ギリードゥ自体はあまり頭の性能がよろしくないので高度な技術を必要とする特殊作戦には向かない為、飽く迄も補給支援全般をギリードゥにやらせて、作戦自体は人間にやって貰うという物である。


「わ、わからないです」


 そして、そんな重要な任務を将来帯びるであろうギリードゥは現在、お菓子が大量に並べられたテーブルに着席してコチラを見ていた。

 お菓子自体は名幼校の先輩方が用意してくれたのだろうポテトチップスに始まりありとあらゆるお菓子がおいてある。


「しかも、最初に用意したお菓子より増えてるし」

「あー多分、ギリードゥが用意したんだと思います」


 私の言葉にギリードゥが頷いた。


「おお、気が利くな!」


 座ろうと先輩が告げるので、全員が座ろうとしたら女性の先輩や同期以外の椅子を取り上げてしまう。

 前言撤回。ギリードゥはただただ女の子とお菓子を食べたかっただけのようだ。


「ギリードゥ!男女差別しないの!

 そんなに女の子とお菓子食べたいなら近くの老人ホームに連れて行ってお婆ちゃん達の相手させるわよ!」


 ギリードゥは可愛い女の子や美しい女性と甘いお菓子が大好きだ。ヨーロッパでは古くからギリードゥが水浴びを覗きに来たり、男性が美しい女性と連れ立って歩いていたらギリードゥに石を投げられたとか追い掛け回された、家までついて来たなんて話がゴロゴロありイギリスではギリードゥが家まで付いてきた女性は美人、石を投げられたらイケメンと言う一種のステータスまである。

 因みに、人間の美醜は体内に保有する魔力量に依って変わる。いわゆる不細工は体内保有魔力量が少ないが、体内保有魔力量が多い、例えば私達魔術将校はイケメンや美少女、可愛い娘しかいない。美少女や可愛い娘しか居ない。居ないのだ!

 まぁ、発育や身体の成長には関与しないので背の高低や胸の大小はある。


「本当にギリードゥは女好きだな」


 椅子を取り上げられた男の先輩が感心したように笑っていた。彼は二個上で私は面識がない。因みに、幼年学校では女子の入学者は少なく一般課程でも10名居れば御の字で下手をすると片手で済んでしまうこともある。そして、魔術将校になるとそれは非常に顕著であり、私の同性同期は僅か3人。最初は5人居たのだが幼年学校の厳しい規律と有名新学校以上の速度で進む授業について行けなかったり、ハードな体力錬成に完全に心を殺られた為に退学していった。

 私も高野宮先輩を始めとした各先輩方が居なければ多分途中で辞めていた。

 人数が少ない為に我々女性魔術将校の団結は男子以上に高い。名幼校を卒業した後も休暇等の機会を見つけてはちょくちょく自分の出身地幼年に顔を出して後輩達を元気付ける。私が名幼校に居た時も前線で戦って休暇で戻って来たという大先輩方がよく顔を出して下さった。

 そして、私達に前線での様々な話やどこの部隊の誰がカッコイイだのと話を教えてくださった。


「全く。本当にこんなんで使えるの?」


 高野宮先輩が呆れ顔で私を見るので正直不安になってきた。

 ギリードゥは慌てて男性同期と先輩を椅子に座らせて目の前にABCチョコの包を一つだけ置く。なので叱ると非常に渋々という感じで目の前にポテトチップスの袋を投げていた。全く……


「それじゃ、宮様方を差し置いて不肖上富良野衛戍が音頭取らせてもらいまーふ」


 音頭を取るのは変人として有名だった上富良野先輩だ。かわいい系男子で使い魔は異世界からやって来たと言い張っている中二病全開の鬼。褐色の肌にこめかみ辺りから二本の角が生えている。瞳はルビーの様に赤く綺麗だ。凄い不遜で傲慢だが凄く小心者と言う可愛らしい魔王様だ。

 指図したがりの見栄っ張りでよくギリードゥ達を集めて勝手に軍団編成して帝国を乗っ取るとか息巻いていたが、生徒監に睨まれて結局地元でくだを巻くヤンキーみたいになっていた。


「我等が後輩が無事に入校できた事を祝って」


 カンパーイと上富良野先輩がコップを掲げると全員がそれに倣ってカンパーイとコップを掲げた。

 他の地幼年も同じ様にワイワイやり始めた。人数の多い一般課程はグラウンドや体育館等でやっているが私達魔術将校は食堂でやっている。


「そう言えば、千種はちゃんと軍刀と銃は買ったのかしら?」


 隣りに座る高野宮先輩が私の腰を見る。今も勿論持っている。


「ええ、お父さんが買ってくれました」


 先輩のよりは数段劣りますが、と魔術刀を鞘ごと引き抜いてみせる。魔術刀は刀匠が文字通り自身の魔力と血を叩き込みながら作るので非常に高い。例えば、高野宮先輩が使っている魔術刀は一振り三億五千万するらしい。最も、高野宮先輩は魔術御三家と呼ばれる天皇家の縁戚であるためあの魔術刀も献上品みたいな感じらしい。

 しかも、高野宮先輩の同期には恐れ多くも天皇陛下のお孫様たるお宮様方も居られる。まだ会った事のない方だがなんでも凄いフレンドリーらしい。と、言うかあんまり会いたくない。ギリードゥが絶対に不敬を働くだろう。下手すると、私の首が飛んでしまう。不敬罪は厳罰だ。たまぁぁぁぁに天皇陛下に直訴しようとして近衛の魔術将校に阻止されている。

 そのまま憲兵隊に引っ張られ特高警察と共に厳重な取り調べを受けているそうだ。


「っ!全員気を付けぇ!!」


 突然そんな号令が掛かり、大慌てで立ち上がる。見れば件のお宮様方だ。


「宮様方にタァァイシッッ!!敬礼!!」


 全員が今入ってきたばかりの二人の女子生徒に対して私達は45度の敬礼を行った。ここが外なら抜刀での敬礼や挙手の敬礼を行うが、今は食堂で脱帽し刀を脇においている。


「もーそーゆーのやめよーよ!

 私達も君達と同じ魔術将校生徒なんだからさー」


 そう困ったように笑いながら答礼をするのだ。その後ろにはぼへーっと気を付けを命じた時のギリードゥのように棒立ちしている少女。お二人とも二卵性双生児だからあまり似ていない。

 しかし、お二人から漏れ出る魔力は天皇家のそれと同じだ。魔力の量は基本的に血統によって決まる。稀に突然変異で膨大な魔力量を持って生まれる者も居り、私はこのタイプだ。この血統系は子孫に遺伝していくので神代の時代よりその存在が確認されている天皇家は世界でもトップの魔力量を保有するのは、誰もが知っている。

 そして、その縁戚たる高野宮先輩も諸外国の王族等に匹敵する魔力量になっている。まぁ、何を言いたいかといえば日本の様な小国が何故大国に挟まれているにも関わらず平然と70年以上も戦争を続け、更にはその事を世界各国から表立って非難されないのか?といえば単に天皇家とその縁戚の存在に精強無比な帝国軍の存在があるからだ。

 アメリカもソ連も我が国と戦えば勝てはするだろう。国土の差、物量の差で。しかし、我々帝国軍は最後の一兵になるまで戦う所存だし、ドイツの様に帝都に敵を引き摺り込んでのゲリラ戦もする所存だ。まぁ、流石にそんな事になるなったら陛下が降伏をするだろう。陛下は大変にお優しいお方と利く。幾度と震災が我が帝国を襲い死者が出れば必ず宮城は勿論、可能ならば現地に行って直々に鎮魂の儀を執り行われる。

 皇族は臣民の為に死ぬ事を欲す、と明治天皇が仰られたそうだ。そして、明治時代より天皇陛下を始めその血を引く者達は皆一様に国民の助けになる軍人や医者等になるし、稀に出るとされる魔力が大きく少ない者も軍人かその他魔力を使わずとも国民のためになる職業に就くそうだ。

 国民あってこその国、国あってこその天皇家。そういうことだ。


「で、東幼年はどこかなぁ?」


 東幼年とは東京地方幼年学校、つまり東京にある幼年学校の事だ。幼年学校は全国に6つ在る。仙台、熊本、大阪、広島、東京、我等が名古屋の5つだ。大正時代に一度無くなったが支那事変が始まった昭和14年に復興して今に至る。

 因みに、東京地方幼年学校は私が入学した中央幼年学校の予科として同じ場所に存在しており、校舎こそ別だが普通に敷地内ですれ違うことが在るらしい。


「コチラです、菊花様」


 一人の生徒が手を挙げると別の生徒がすぐに椅子を用意した。菊花様、ぼへ~っとしてない方のお方でぼへ~っとしてるお方は桜花様だ。菊花様が姉で桜花様が妹だとか。二人が私達の横を通ろうとして脇でギリードゥがそろそろと出てきたのを確りと確認した。

 私はギリードゥの体を刀で押さえ付けて、絶対に前に出さない。ギリードゥはコチラを見るので睨み付けてやった。


「わ!何この子?可愛い!」


 しかし、私の努力は無駄に終わり、菊花様がギリードゥに抱きついてしまった。ギリードゥは邪魔だと私の刀を退かすとドコゾの夢の国にいるネズミも斯くやと言わんばかりに過剰なボディータッチで菊花様に抱き着く。私は直ぐ様高野宮先輩を見ると、高野宮先輩は任せろと私の前に出た。


「菊花様、幾ら菊花様が天皇家の直系とは言え他人の使い魔に許可なく触れるのは些か礼儀知らずなのでは?」


 高野宮先輩は刀で恐れ多くも菊花様とウチのスケベ甘党馬鹿の間に押し入れてそのままテコの原理で引き剥がすので私はすぐにギリードゥの頭部に刀を叩き込む。多分、人間だったら頭蓋骨骨折どころか頭が首にめり込んだんじゃなかろうか?と言う勢いで殴り付けてやった。

 ギリードゥは頭を抱えてその場にもんどり打つ。うむ。躾は大事。


「ギリードゥ。正座」


 私の指示にギリードゥは素早くその場に正座して土下座のポーズ。


「バケツに水を汲んできて、食堂の隅で両手を突き出して保持」


 ギリードゥは凄まじい勢いで腹からバケツを取り出すと水の魔法でバケツを満水にしてすぐに実行した。よし。


「菊花様、自分の使い魔が大変な粗相を致し、誠に申し訳御座いませんでした」


 その場に傅いて頭を下げる。取り敢えず、高野宮先輩に丸投げしておこう。もう、跡は野となれ山となれ。

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