表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

ギリードゥを統べる王

 この世界には魔術があり、魔術を扱える人達が居る。そう言う人を世間様は魔術師と呼んでおり、魔術師の殆どは国家公務員や軍人さんになる。

 そして、軍人さんの魔術師となるともうエリート様だ。


「はー……此処が陸軍幼年学校」


 恐れの多くも天皇陛下が鎮座されている東洋一繁栄している都市、帝都東京にそんなエリート様の中でもエリートである幼年学校出の将校様を育てる学校がこの陸軍幼年学校だ。

 入り口には小銃に着剣した兵士達が出入者をチェックしている。


「お、お疲れ様です」


 出入者をチェックしている兵士達は特別勤務者と呼ばれ彼等は衛戍地の入り口を任されているので、基本的には部隊長や自分より階級の高い特別勤務者よりも偉い。

 私が敬礼をして、身分証を提示すると初めて向こうはその厳しい表情を少しだけ緩めた。


「はい、確認しました。

 お疲れ様」


 警衛所にいる警衛司令にも敬礼をして中に入る。

 営門を潜ると警衛所の隣に屋根型天幕、つまりバーベキューや運動会などで使われる天幕が貼られており長テーブルとパイプ椅子が置かれていた。パイプ椅子には男女の士官が座っていた。

 長テーブルには《幼年学校新入生受付》とプリントされた紙が貼ってある。ここで報告だろう。


「名幼校校長より魔術将校課程への入校を命ぜられた御器所千種生徒です!」


 長テーブルの前で気を付けをし、背筋を伸ばして報告。敬礼をすると女性士官が答礼をしてから手元にあった用紙に目を落としそれから鉛筆で私の名前を探し出した。


「名幼のゴキソゴキソ……これゴキソって読むの?」


 女性士官は私の名前を指差して顔を上げた。


「はい!御器所千種です!」

「ん、よし。迎えが来るまで天幕の裏で座って待ってなさい」


 女性士官が後ろに広がる天幕とパイプ椅子の列を指差すので私はそこに移動する。

 パイプ椅子に腰掛けてすることも無くなったので、改めて自分の立ち位置というものについて考え直してみることにしてみた。


 私こと御器所千種は生まれも育ちも愛知県名古屋市だ。徳川家康が建てた名古屋城に司令部を置く第3師団のお膝元で母と父と私の三人で生活していた。

 父も母も軍とは無縁の社会人だった。

 なのに私がこの場にいるのは後にも先にも陸軍記念日に三師団司令部が一般開放されそこに訪れた中学校二年だろう。

 我が栄えある帝国軍は陸海空軍合わせて50万、内陸軍が25万で残りは海空軍に別れている。

 我が帝国軍はアメリカ、ソ連邦と並んで世界三大軍隊とまで言われ強大な海軍国でありながら陸軍までも三大陸軍に数えられるのは質より量の政策を取っているからだろう。

 有能な人材は性別、階級関係なく軍が召し上げ、その全てを大日本帝国の存続と畏れ多くも天皇陛下の為に軍に召し抱えられる。


「うぉ!?何だコイツ!?」


 ふと、前方に張られた屋根天を見るとギリースーツを纏った小柄の兵士が男性士官の袖を引っ張っていた。


「ギリードゥ!気をつけ!」


 ギリースーツの正体はギリードゥと言うと妖精種の生き物である。私が名幼校最後の卒業試験とも言える使い魔召喚の儀にて召喚した私の使い魔だ。

 使い魔は日本の魔術将校と他国の魔術将校を大きく分かつ存在だ。西洋の魔術将校は使い魔は使わず隷属させた魔物を使う。しかし、日本に於いて使い魔とは自身と契約をした様々な生物と対等か主従関係を結ぶものである。

 そのため、西洋魔術将校は自身より弱い魔物等しか使役出来ないが、日本の魔術将校は人によっては神種と呼ばれる神様クラスの存在とも契約することができるのだ。


「申し訳ありません!私の使い魔です!」

「大丈夫だ。少し驚いただけの事」


 男性士官は私の脇でびっしりと気を付けをしているギリードゥを見る。ギリードゥは背中に狙撃銃を背負っている。

 米国で作られたM14を発展改良したM21狙撃銃を背負っていた。


「ギリードゥ!何で出てきたの!

 良いって言うまで顕現しちゃダメって言ったでしょ!」


 私が起こるとギリードゥはピヨピヨと鳴き始める。ギリードゥの言葉は鳥の囀りの様にピヨピヨと喋る。内訳は凄まじい速さで英文モールスを言っているそうで、しかも、英語として喋る訳でなローマ字として聞き取るので面倒臭い。

 さらに言えばギリードゥのモールスを聞き取るには非常に訓練された、それこそ昭和初期から中期までの無線手で無ければ聞き取る事はできない程はやいらしい。

 しかし、私はギリードゥと主従関係を結んだ。ギリードゥ・クイーンと呼ばれ妖精王オベロンの輩と同じ様な存在になったのでギリードゥの言葉は勿論妖精達との会話も可能なのだ。

 で、ギリードゥは顕現した理由を述べる。

 

「はあ?メチャウマこんにゃく?」


 話を聞くと男性士官が、メチャウマこんにゃくなる物を食べていたので欲しくなったとか。


「ソイツは何と言っとるんだ?」

「は、はい。少尉殿がお食べになられていたメチャウマこんにゃくなる物が欲しかったそうです」


 メチャウマこんにゃく?と返されたが私も良くわからない。ギリードゥは4歳児位の言語で話す。また、何処から拾って来るのかネットスラングも交えて話すので高速モールスと合間って最早暗号なのだを


「もしかして、羊羹のことか?」


 女性士官が包み紙を私達に見せる。包み紙には一口羊羹と書かれた売店等で一つ100円で売られている小さな羊羹を見せた。コイツは演習等で非常にお世話になる。ポケットや弾納に忍ばせておいてコッソリ食べたりするのだ。


「これ?」


 ギリードゥに聞くとうんと頷いた。


「あとで買ってあげるから姿を消す消してなさい」


 指示するとギリードゥは飽きたからヤダと言って腹からゴソゴソと大きな羊羹の包を一本取り出して食べ始めた。ギリードゥは自身の腹から様々な物を取り出せる。

 私が与えた物なら最無限に取り出せるのだけど。どう言う構造なのかは不明で、兎に角凄い。

 これはもう魔法の域らしい。


「持ってんじゃねぇか」


 男性士官が何のコントだと呆れた顔をしていたが、ギリードゥはこう言う奴なのだ。


「もう、顕現してても良いけど勝手に移動したり触ったり美人の人や可愛い子に付いていったらお菓子禁止にするからね」


 私の言葉にギリードゥは私の言葉に頷くと、私の隣に腰掛けてモチャモチャと羊羹を齧りだした。目の前の士官達は振り返って唖然とした表情で私のギリードゥを眺めている。

 暫くすると後者の方から一人の上級生と思われる階級章が縫い付けられていない士官服を着た生徒が駆け足で来た。性別は女でその姿は私がよく知っている。


「先輩!」


 私は思わず立ち上がり駆け寄ってしまう。私が入学して一年間だけだったが、幼年学校は二年制なので当たり前と言えば当たり前だが、お世話になった上級生の高野宮史子先輩である。

 背は小さいがそのキリッとした顔立ちと濡烏の様に長く美し黒髪を忘れることは無かい。厳しくも優しい先輩だ。


「千種!」


 先輩も驚いた顔をしていた。それはそうだ。入校式を終えてから課業外で会おうと二人で約束していたのでこんなに早く会えるとは思っていなかったからだ。


「先輩、お久し振りです」

「ええ、久し振りね。

 アレが貴女の使い魔のギリースーツ?」


 先輩に抱き着く私を尻目に、先輩は羊羹をモチャモチャ食べる生物と化したギリードゥを見る。


「はい!ギリードゥって言います」

「何で羊羹を食べてるのよ」


 何とも答えづらい最もな質問をされた。なので先程のやり取りを掻い摘んで告げると、先輩は呆れた顔をして本当に自由ねと告げた。

 それから行くわよと私の所属する教室に向かう。


「ギリードゥ、ついて来なさい」


 ギリードゥはこれを食べ終わってからと言うので付いてこなかったらお菓子禁止にして置いていくと告げると食べかけの羊羹を腹にしまって立ち上がる。

 小銃を肩に掛け直し、私の隣に立った。


「じゃあ、行きましょう」


 こうして私は陸軍幼年学校本科魔術将校養成課程に入校を果たしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ