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死にたいときに読むテクスト  作者: 美凪ましろ
第三章 遠野の希死念慮
17/53

余談・遠野の人生史上最も痛かった体験



 小説のなかで情報を『散らす』ことはあったんですが。


 エッセイとしてぐわっとまとめるのはこれが初めてです。実を言うと結構。


 緊張しています……。


 リアル遠野を知っているひとが読めば特定できる内容なもんで。


 ここからはスプラッタな話が出てきます。苦手なかたは飛ばしてくださいね。



 鼻中隔湾曲症びちゅうかくわんきょくしょう、という病気でした。


 自覚したのは、働き始めてから。


 ハードワークを続けているうちに、なんか耳の奥に水が詰まったような、強烈な違和感を感じるようになったんです。車でトンネルに入ったり、エレベーターで高層階に行ったときに感じるあの感覚。あれが日常茶飯事となりまして。


 で。


 会社の近くの町医者にかかったら。


 どうやらわたしは。鼻の穴から耳に通じる管が、極端に細くて曲がっていて。そのせいで。


 耳が『詰まった』感覚がする……とのことでした。


 対処療法は、鼻の通気。治療法は、手術のみ。


『鼻の手術』って聞くと、皆さん鼻のかたちを整える『整形手術』のほうをイメージされると思うんですけど。そうではなく。


 湾曲しているその管を機械で『太くする』んです。


 入院して、一週間から10日ほどかかるとのこと。


 が。そんなに休める状況下になかったので。ひとまず。当面は。


 お昼休みにその医院に通って鼻に空気通してもらい(鼻の穴からシルバーの細長いクダを突っ込んで奥に空気を吹き込むんですよ)。「こんなもんほうっておいたら治るわけがない! はやく手術しなさい!」と毎日毎日怒鳴られる日々……。手つきも荒っぽかったですねー。ぐいーってやってはい終わり! みたいな。


 いくらドMな遠野でもメゲそうになりましたね。


 それでまあ。数ヶ月が経過し。火急の案件が次第に落ち着いてきた頃。


 そろそろ本気で手術してみようか。……と思い、入院することになりました。


 仕事という火事が完全に収束している状況下にはなかったので。直属の上司に、「ご迷惑おかけしてすみません」と詫びたところ、


「ましろちゃんが悪いんじゃないから、いいんだよ。入院したのはましろちゃんだけじゃあないんだから。気にせず、ゆっくり治しておいで」


 ジェントルマンな対応をされてキュンキュンしちゃいましたね(てか入院がわたしだけじゃないってどんな地雷……)。飲み会で「下の名前で読んでください!」ってわたしが絶叫したのを覚えていて、律儀にも実践してくれる、素敵な上司でした。いつか小説のネタにさせて頂きます。


 東京近郊にお住まいのかたは分かると思うんですけど。


 当時、わたしが拠点としていたのは山手線の左側。


 でも入院する病院は。山手線の右側。いかねえべそんなとこ。ってエリアだったんですよ。


 実際見舞いに来てくれた親戚にも。「まーちゃんなしてこんな遠いとこ入院しとるが?」って言われる有り様でした。


 西に住む者は西にしか行かない。


 横浜近くに住む人間が行くのは横浜のそごうや高島屋。


 小田急線沿線住まいであれば新宿以上右には行かない。せいぜい山手線沿線上。てのが鉄板です。なもんで。


 まったく知らない駅に降り。今後二度と行くこともない病院を訪ね。かつ。


 ……筆舌に尽くしがたい経験を、致しました。


 なに駅かもう忘れちゃいましたが、二度とごめんですねえ。なーんか医者が「とにかく治すなら○○病院が絶対だ!」って感じで紹介状他に書くなんて考えられない剣幕だったので、ひとまず従いました。


 前置き長くなりましたが手術ね。ググると。



 全身麻酔が主流、だと……!?



 調べてみて愕然としました。なに。なんだったんだわたしのアレは。


 施術後の痛みは同じにしても、それにしても、それにしてもぉお……!


 近所の信頼できる病院探してやってもらう。って手がなきにしもあらずだったのではないかという疑念が今更湧いてきました。まあほんと今更ですが。さて。


 手術の話をしますと。


 わたしのときは、部分麻酔でした。


 椅子に座らされ。鼻に、麻酔剤を染み込ませたガーゼを極限まで突っ込む。これも非常に痛かった。いえいえこんなのはまだ序の口。そいで。


 肉にその麻酔が浸透したらなにをするかといえば。


 ドリルみたいな機械のお出まし。


 肉を。……削るんです。これねえ。


 十年以上経ったいまでもヒエーッって思いますわ。肉が肉が肉が削れていくあの感覚。麻酔? どこが? 効いてないわ! あああ!


 あーって開いた口から鼻から血がどばどばと流れ出し。痛い、と思う前にまた新たな肉が削られ、機械が(たぶん)骨に当たり、ごりっ。……えぐられていくあの感触。うおおお!


 はいもう全身スプラッタです。どこでどんな事故に遭えばこんな血まみれになるんですか。


 失血死。ショック死、……なる単語が頭に過ぎりました。


 人生史上、最も痛い経験だと願いたい。


 いてえええ! って単語に変換することすら出来ず。心臓バックバク。ひたすら恐怖でフリーズし、ただ終わるのを待ちました。脳内パニック。


 細い管を削りまくって太くしたあとはなにをするか。


 また新たなガーゼを詰めまくって止血。……当然。


 抜く。


 抜いたとき、とんでもなく痛かったはずなんですが、あまりの超絶的な痛みゆえ記憶が消し飛んでいます。恐ろしすぎて思い出せない。自己防衛。


 術後。当時の彼氏が心配して駆けつけてくれたのをよく覚えています。


 こちらは痛みが酷すぎて意識が朦朧。豚みたいに顔がパンパンに腫れていて大変……、でした。


 ちなみに入院中。わたしに好意を抱いている男友達と彼氏が鉢合わせて、喧嘩はーやめてー的な展開が待っていました。二人には申し訳ないが、経験的には美味しかった。


 部屋は相部屋で。出口付近で通路が超・狭く。


 誰かが出入りするたびにわたしの左側のカーテンが揺れるんですよ。同じ、入院患者です。点滴のからころ音がうるさいし足音もうるさいしカーテンこちらに迫ってくるし。しかも。


 寝屁えだのいびきだの半端ない人間が同室で……



 どんな拷問だよ。



 と、思える九日間を過ごしました。風呂入れねーし。


 痛みですか。簡単には引きません。それにね。


 ドリルで削られた管はなかで血みどろのむき出しの状態じゃないですか。もう、半端なく痛いというレヴェルをとっくに超えている。しかも、外でむき出しっつうわけではないんで、治りにくい。医者的には治りが早いという見解なんでしょうが、患者視点では『遅かった』。で。


 毎朝毎朝検査があります。……なにをするか。


 鼻に、冷たいシルバーの棒を突っ込んで。


 べり。


 ……と、かさぶたを剥がすんです。


 何十回と。いや百回近く?


 これねえもう悶絶の痛み。痛すぎて痛すぎて気ぃ失ったほうが楽なんじゃないかって勢い。そのかさぶたが。


 日が経つごとに、少なくなり、減っていき、……あんまり取れなくなれば。かつ問題なければはい退院。……て流れなんですよ。


 暇で暇で音楽も聞けないし。ハリポタ持っていってもちっとも入り込めないし。慢性的寝不足。同室の人間のいびき。つかなんでこんな痛いんだよ。……発狂しそうになりましたね。


 あれに比べたら、どんななにでもましだわ。


 と思える経験をしたのは幸か不幸か。……まあネタ的には面白いけど。


 あんまり退屈なもんで見舞客にいろいろアレ持ってきてーこれ持ってきてーと頼む超ワガママ患者でした。……当時の皆さん。若かったゆえ、許してやってください。その節はありがとうございました。


 退院後、電車に乗って見た光景がいまも思い浮かびます。


 風呂入れる。風が気持ちいい。わたし。自由。自由……!


 受刑者が出所したときの感覚ってこんな感じなんでしょうね。


(↑病院関係者には申し訳のない表現ですけど)


 紹介してくれた耳鼻科医院には。退院後ちゃんと菓子折り持って挨拶に行きましたよ。そういう、人間性ってのは、大事。なくしたくないものですね。以上の話を読んで。



 こんな痛い経験してないんだから、わたし、まだマシだ……。



 と思って頂けたなら。作者冥利に尽きます。



 そういや、施術後は鼻の穴がおっきくなりました。


 けっ。美貌が台無しだぜ。ってのは嘘。



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