第二十二談『勘案』
A「……なぁ、何かない?」
B「土台は固まってるんでしょう?これ以上何を求めるんです?」
A「最近特に思うのよ。何か芸がないなって」
B「導入部にインパクトのある状況を作って、
プレイヤーを追い込む事で強制的に連帯感を持たせ、
パーティーの土台を一気に固めるのが、
初対面のプレイヤー同士のセッションでは常道だって
仰ってましたよね?
「絶望の幕は既に上がっていた」のナレーション、
嫌ってほど聞かされてますよ」
A「考えてみりゃわかるでしょ?
キャラクター的にもプレイヤー的にも手探りの状況からの開幕は
展開が遅くなりがちで、会場を借りる時間内に
クライマックスまで持っていくのが難しくなるって」
B「……そうですね。私もGMを任されて
途中で打ち切って再開されないままの作品がありますし、
打ち切り後に真相を聞かれて
「実はあれはこうだったんですよ~」ってネタ晴らしをするの
自己満足に浸ってドヤ顔しているみたいで
好きになれないんですよね」
A「でしょう?
でも、言わなきゃこっち側がモヤっとするから言っちゃう悪循環」
B「連続ドラマ形式のセッションなら見せない部分は
そのまま伏線になりますからOKなんですよね。
単発セッションが続くと、フラストレーションが溜まるんですよね」
A「誰もやりたがらないから、週に3本GMやって[[rb:PL > プレイヤー]]は0。
花村ちゃんが入ってくれて負担は減ったは減ったけど、
大変な時はウィークデイでGMやらされたんだから」
B「唯でさえ認知度が低いTRPGの業界で、
GMができてしかも女性。レッドリスト入りも確実ですよ」
A「女性キャラクターが多いはずなのに、演じているのはほぼ男性で、
これは暗黙の了解になってるけど、女性口調でやりとりをする男同士って
客観的に見たら、ちょっとゾッとする時があるもの」
B「キャラクターが恋人同士のシチュエーションになると」
それっぽい雰囲気を出さなきゃいけませんから余計にね」
A「そんな手練れに言わせれば、
オンラインゲームのネカマなんてまだまだって鼻で笑ってるもんね」
B「本気で相手を落としに行こうかって豪語して、
文字のやり取りだけで落とす寸前まで持って行って、
カミングアウトのタイミングを失って大事にもなりました」
A「その悪ノリ、結局どうなったの?」
B「どうもこうも……平謝りですよ。
ですけど、その後の後日談があるんです」
A「えっ?後味が悪くなったオチで終わらなかったの?」
B「折角だからオフ会で謝ってくださいって話になって、
会ったら妙に馬が合って、年に1度は飲み歩いているんですって」
しかも、方や姫路、方やナイロビです」
A「ナイロビ?ケニアの?」
B「それ以外の何処にナイロビがあるんですか?
通信インフラ網の構築に奔走しているのだとか」
A「オンラインゲーム好きが高じてそうなるのも縁なのかもね。
あ、そうそう。今年はやる予定あるの?」
B「何がです?」
A「はぐらかさないで。来月のガイダンスの件」
B「勿論、ご登場いただきますよ。我々の顔役なんですから」
A「やっぱり?」
B「そりゃ、チームの強みは全面的に押し出していかないと。
前回のオープンセッションの時、雰囲気が変わったの気付きませんでした?」
A「GMやってたらプレイヤーの言動や動向を全部拾うつもりで挑んでるから、
周りを見る余裕なんて全っ然ないんだけど」
B「ギャラリーの数が増えたのもありますけど、
女性が見学に来られる機会が一気に増えましたよ」
A「結構な数の雑誌取材も受けたし、
紙上でもオンライン上でもGMやったり、本当に便利遣いしてくれて……
まさか「シナリオは5分でできます」って盛ったのを真に受けて、
「じゃぁ、お願いします」って笑って言われた時の
やっちまった感は、自分史上5本の指に入る程だったし」
B「それをおくびにも出さずにこなすから、
余計に周りをビックリさせるんですよ。
5分で作ったシナリオで、週跨ぎに延長になった時は
「これ、本当に5分で作ったの?」って誰もが思ってましたよ」
A「コツさえ掴めれば、意外と簡単にできるって前にも言ったよね」
B「聞きました。参加者のキャラクターシートを集めて
じっと眺めて僅かなフックを吸い上げて、
あとはアドリブで何とかするって力業ですよね」
A「慣れれば誰だってできると思うけどなぁ」
B「別名ハッタリとも言われ……」
A「言わないで」
B「誉め言葉ですよ。1度真似てみたら冷や汗かきっぱなしで、
よくこんな状況でマスタリングできるなって改めて脱帽しましたよ」
A「そりゃそうでしょう。
簡単にできてしまったら、1シナリオ5分の立つ瀬がないじゃない」
B「おっしゃる通りでございます」
A「こっちもちゃんと配慮してるのよ。
シナリオ作りに専念するのに周りの雰囲気を壊さないように
別室に移動してるんだから」
B「別件で不用意に話しかけに言って、カミナリ落とされたのは私でした」
A「あの時は険悪なままでセッションに入ったから、
全然物語が前に進まなくって、後味の悪いまま散会したのね。
あれはちょっと反省した」
B「それにしてもですよ。よく見つけてきますよね、絶妙なフック」
A「それは発想の転換」
B「と言いますと?」
A「参加するつもりもないのなら、
わざわざ時間をかけてキャラメイクなんてしないでしょ?
簡単なシステムでも30分はかかるし、
複雑になれば1日かけても全然時間が足りないじゃない?
それなのに作ってくるって事はやる気の表れだし、
何度も消して書き直した跡が見られるシートは
一種の芸術品だから、一層やる気をかき立ててくれるの」
B「プレイヤー側としては、何処かで使ってくれるから
作り甲斐を感じるんですよね。
ただ、考えなしで書いただけの設定を拾われて冷や汗もかきました。
【片付けが苦手】から片付ける必要のない屋敷を手に入れて、
バトラーさんとのハーレムエンドまで持っていくって。
その後の火消しが大変でしたよ。
真面目な顔で「相当な変態なんですか?」って[[rb:方々 > ほうぼう]]で聞かれて」
A「そう?ノリノリだったようにしか見えなかったけど。
バトラーさん10人のイラストをバストアップと全身の2パターン用意された時に、
これは本物だって腹をくくって、
十人十色の性格まで真面目に考えたじゃない」
B「深夜のテンションって怖いですね。
キャラが被らないように徹底的に性格を調べて設定を組むなんて、
大学の履修科目から受講する講義を選択して
独自の時間割を組む並に難しかったですね」
A「それでもやった分だけ良かったじゃない。
10人にスポットを当てたセッションで10回分稼げたのは
他のマスタリングで立て込んた中では大助かりだったもの」
B「間口を広げるって意義で始めた週末公開セッションが始まって、
初心者向けのセッション数が急激に増えて
他に気を回せる時間が減った時期とも重なりましたしね」
A「セッション当日の30分ぐらい前まで
「ネ~タ~が~な~い~~~~」って机に突っ伏すほど困ったもの」
B「初めてプレイされる方にキャラメイクを教えますけど、
出来上がってくるものってありきたりで収まっていたり、
良い所ばかりを集めた優等生ばかりで、
進んで悪い所を拾おうとしないから、面白いキャラクターになってこないし
流石にこりゃ厳しいだろうなって思いましたよ」
A「そんなの誰かに見せるわけにはいかないでしょ?
それが広告塔としての私の役割だから」
B「その皺寄せがレギュラー参加組にダイレクトに響いて、
「相当フラストレーション溜まってるんだろう」って、
セッションそっちのけで、どうにか負担を軽くできないかって
プレイしながら筆談を交わしているうちに、
舞台と現実がごちゃごちゃになって、
セッション失敗というオチまで付きました」
A「時間に制限があるセッションで、それやったらダメでしょう。
報酬が0になる程度だから良かったけど、
人質救出系だったら問答無用で全員死亡ルートに行ってたよ」
B「その時期のリプレイ音源聞きました?
あの頃から絶望スタートが始まったんですよ。
一般市民の数多くいる噴水広場に、いきなり地下道から
大量のテロリストを送り込んで立て続けに人を虐殺してみたり、
小さな村に並の冒険者じゃ到底歯が立たない
ドラゴンを飛ばして村を焼き尽くそうとしたり」
A「レッサーだから知恵と戦術次第で何とかできるんじゃないかな~って」
B「無茶言わないでください。一発で全滅させようとしましたよね?
運良くリザードマン語を話せるキャラがいて穏便に済みましたけど」
A「勿論、ちゃんとリサーチしてるから出しただけで、
気付かなかったら、「あぁ残念」って思って、
派手に大暴れさせて消し炭になってもらおうって」
B「笑ってえげつない事言わないでくださいよ。
開始10分も経たずに全滅の危機なんて横暴にも程があります」
A「それを言うなら、お互い様でしょ?
「俺たちは冒険者であって勇者じゃないんだ」って、
村を焼き払っている隙に全力で逃げて、何処かで落ち合う作戦を取ろうとしたじゃない」
B「最悪を想定した行動を考えるのは基本です。
そうなったらセッション失敗も受け入れますよ」
A「コンピューターゲームで慣れている人は
生死の感覚がマヒしてて、絶望的な状況でも突っ込んでくるから、
余計に困っちゃうんだよね。
「生き返るアイテムってありますよね?」とか
「教会にお金を払ったら生き返りますよね?」って、
そんな救済措置はないって結構強めに言ったつもりなのにね」
B「逆手に取ったシナリオもありましたよ。
【1度死んでいる】って設定のキャラクターを作って、
生き返らせるのに背負った借金の完済が土台になったキャンペーン。
完済までは持っていきましたが、
最後は戦闘で手を下した相手の子供が敵討ちに来て、
もう1度殺されたのがラストシーンっていう結末は
美しいバッドエンドでしたよ」
A「彼女がそう考えているだろうから誰も止めなかったって
誰もその決断を非難しない様子には、
パーティーに対する義務感の完成形を見て泣かされたもの」
B「そのシリーズが跳ねて、コンペの参加希望が一気に増えましたね」
A「会議室1室ぶんで事足りたのに、今回はワンフロア借りたんでしょ?」
B「それでもほぼほぼギリギリでしたよ。
「流石にやりすぎでしょう」って渋ってた会計の礒部さんが
逆に目を白黒させてました」
A「その皺寄せもこっちに来てるよ。
開始と終了に登壇して挨拶するなんて全く知らなかったもの」
B「そこは顔役として立ってくださいよ。
その代わり負担を軽くしますから」
A「何卓立つの?」
B「にぃ……しぃ……ろぉ……7卓ですね」
A「ギャラリーの方に観てもらう用のセッションを担うのは知ってるけど、
面子は?レギュラー陣で固めるの?」
B「安全策で行くならそれでも構いませんけど……
今回は初めてプレイされる方を数人入れて
面白さを味わってほしいそうです」
A「なるほどね……貴方は?」
B「何も言われてないですが……多分1卓GMをするんでしょう」
A「却下。こっち入って」
B「と言いますと?」
A「最近、数値の大きさで押し通すパワープレイをする人が増えてきて、
【交渉術】の判定で成功して、
「じゃぁ、具体的に説得してください」って尋ねたら、
「判定に成功したから説得できたんじゃないんですか?」って返されて
醍醐味を損してるんじゃないかって感じてね、
中盤あたりで説得シーンを入れるつもりでいるんだけど、
やった事のない人が入ると、どうしても進行が止まっちゃうから、
長けている人は押さえておこうかなと」
B「確かに場数は踏んでますけど、得意ではないですよ?」
A「1対1で終電近くまでやったじゃない?
久し振りにダイスの目の大きさだけでは推し量れない
真剣な演技勝負を見せましょ?」
B「わかりました。もう1人システムを解っている人が就いた方が
スムーズに始められやすいでしょうしね。
早速連絡を入れておきます」
A「私からも頼んどく。だから何か考えてよ」
B「前もって組み立てても感性の人なんですから、
結局は5分間で閃いたストーリーに沿わせるでしょうに」
A「それもそっか」
B「じゃぁ、連絡をお願いしますね」
A「あれ?どっか行くの?」
B「何言ってるんです?紙上GMの企画会議ですよ。皆さん待ってます」
A「早く言ってよそれ……」
B「言われなきゃ気付いてなかったんですか?」




