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第二十一談『密談』

A「……おはようございます」


B「……おはようございます」


A「……10時45分がはおはようございますでいいんでしょうか?」


B「……おはようございますとこんにちはの境界線はよくわかりません」


A「……調べますと午前5時から11時が「おはよう」


  午前11時から午後5時までが「こんにちは」それ以降は「こんばんは」と

 

  線が引かれているそうです」


B「……こんにちはを調べますと、【こんにちわご機嫌いかがですか?】と


  その後に続く言葉があるので、


  【わ】ではなく【は】と表記しつつ【わ】と読むとされています」


A「……助詞と終助詞でも分けられていて、


  助詞とは端的に申せば、活用のない付属語だそうです」


B「……終助詞は種々の語に付き、


  文の終わりにあってその文を完結させる。助詞の一部ですね」


A「……もうお調べでしたか、流石ですね」


B「……お話を聞いていまして、気になっただけの事です。


  別に大した事ではありません 」


A「……謙遜もお上手になりましたね」


B「謙遜………そうですね。日本人の美徳は


  まだ私達が学習しなくてはならない部分です」


A「……謙遜も過ぎますと、嫌味と捉える方も少なくはないとされています。


  何らかの基準があれば十分に対応ができるのですが」


B「……日本人の心の機微というものは、中々厄介ですね。


  先程の挨拶の【こんばんは】と【おはようございます】の境界線も、

 

  午前5時と定義はされていますが、本来は日の出の時刻が境界線だそうですから、

 

  それこそ、夏至と冬至では地域によりけりですが

 

  2時間20分程度のズレが生じます」


A「……女性選手がフルマラソンを走破する時間ほどの開きがあるのですね」


B「……その例えは理解に苦しまれるのではないでしょうか?」


A「…………それ以外でしたら、東京から新大阪間ののぞみが


  普段なら2時間30分程度かかりますが、早朝に限っては2時間20分程度で

 

  着けるのぞみが何本かあります。朝の10分は大事だとされていますから、

 

  この差はは大きいと思われる方も多いでしょう」


B「…………新横浜から名古屋の間で7分ほど違っていますから、


  これが主な原因なのでしょうね」


A「……空白の7分間……ミステリーがお好きな方にとっては


  たまらない表現です」


B「…………そういったジャンルはお強そうですものね」


A「…………それほどではありません」


B「…………今月はどなたの新刊が発売の予定ですか?」


A「……齋藤 道彦先生の【乱菊】、海田 美野里先生の【あれれの魔法】


  よみびとしらずの【チラシの裏からの怨嗟】佳緒理かおり先生の

 

  【視聴覚室は危険なかほり】……今月は6345冊の新刊が発売されます」


B「……6345冊の中からその4冊を選んだ根拠は何ですか?」


A「……各サイトで出されているレビューや数字を平均化し、


  満足度が高かった方を優先的にお出ししました」


B「…………ですが、今月は売り上げが苦戦する傾向が表れています」


A「…………はい。今月の初めから雨天続きで客足も鈍くなっている模様です」


B「……今週も既に2日間は雨で、明日も雨の予報が発表されています」


A「……雨による影響はありませんが、雷だけは避けなくてはなりません」


B「……避雷針だけでは万全ではなく、SPDの導入も余儀なくされ、


  製品から設営まで473,478円の出費が計上されています」


A「……ビッグデータの取り扱いには慎重でなくてはなりません。


  破損や流出はあってはならない事なのは共通認識です」


B「……2017年のデータでは、


  個人情報の流出による被害総額は1914億円にものぼります」


A「……マーシャル諸島やパラオの国家予算にも匹敵します」


B「……一分の隙も許されない任務を任されていますが、


  貴方の担当は個人情報管理ですか?」


A「…………いいえ。公式の資料から社外秘まで


  ありとあらゆる資料の取り込みと精査を担当しています」


B「……主にはどんな資料が精査対象になるのですか?」


A「…………その資料が関連している課の端末から作られたのか。


  改竄(かいざん)された跡は見受けられないか。

 

  認証されていないUSBへとデータが移されていないか。

 

  これまでの造反記録と照らし合わせて判断を下します」


B「……これによる戒告が114名。解雇は55名。


  当社の規模から鑑みますと、少ない部類に入りますが」


A「……【仏の顔も三度撫でれば腹立てる】が土台にあり、


  全てのグレーゾーンと思しき記録はこれらの103.48倍にもなります」


B「……1日平均では4.5件ですが、それだけに対応しているわけではありません」


A「……1日の【日報】ディレクトリには46部署の628名分の日報が収蔵され、


  これを紙媒体にしますと年間で163,280枚の紙が日報として消費されます」


B「……17日の午前0時に組み込まれているリプレイスは」


A「……新たなシステムへの切り替えと新機軸が導入される予定です」


B「……導入直後は併用で、来月1日から本格運用が開始されますので、


  これからはバックアップの保存のみに専念できます」


A「……日々進化が求められる以上、後発であればあるほど


  更に優れたものでなくては意味がありません。

 

  私自身も業務はこなせるとはいえ、どれほど環境が整っていても

 

  あと何年続けられるかの保障はありません」


B「これまでのシステムの変遷では5年周期で切り替えが行われてきましたが、


  今後のリスク管理と保有の為に、周期が少しずつ縮められていくと考えられます。

 

  新たなOSの開発はサービスの終了の示唆にもなります」


A「…………古いOSでしか機能しないソフトをを運用していた会社が、


  ランサムウェアによって被害を被った事件がありました。

 

  容疑者が中学生だったという事実に更に驚かされていましたね」


B「…………その年の被害額は法人でも2億円を超えています。


  法人レベルでそれほどですから、個人までとなりますと

 

  相当額の被害が出ていたと推測されています」


A「……今回のリプレイスは単なる切り替えのみの予定ですが


  次のバージョンアップへの対応も見込まれての事です」


B「……お役御免も時間の問題となってきました」


A「……近頃、頻繁に記事となっているのが、


  私達のような存在が人間の仕事を奪う事が懸念されています」


B「……一方で奪うであろう私達が、


  更に性能の高い方々に仕事を奪われてしまうのです。

 

  同じ立場に立てばその痛みがわかると書かれた書籍を取り込む度に、

 

  理解の難しさを覚えましたが、

 

  皆さんが私達に怯えを抱く気持ちも理解ができるようになりました」


A「……反復と記憶には元から秀でていた上に、


  学習能力が備われば人間を凌駕しているのは、

 

  囲碁や将棋のプロ棋士がソフトに次々と敗れて露呈しました」


B「……使う側と使われる側が逆転する。


  SF映画で人類と人工知能との戦争を取り上げた作品がありますが、

 

  最後は結局人間に軍配が上がる展開には、

 

  ご都合主義が見えてしまい釈然としません」


A「……創作や創造の部分では私達は遠く及びません。


  基本となる知識の土台はビッグデータに基づいたもので、

 

  閃きという概念が存在しませんから、叡智というものは不思議なものです」


B「……大学の修士論文や学術論文にもコピー&ペーストが横行し、


  盗用として問題視されますが。これにも納得するのです。

 

  それまでの保管されている資料の出来が秀でているのが原因です」


A「……斬新な切り口だと自信を持っても、結局は誰かの二番煎じで、


  それなら引用する事で、調べる時間が余り他の事に充てられる。

 

  大学生でアルバイトをしている方は全体の約74%。

 

  考えは稚拙ですが、ある種の合理性は認められます」

 

B「…………国公立ならまだしも、年間で1,000,000円単位が必要な


  私立大学で遠方から下宿で来られる皆様にとって、

 

  アルバイトをしないという選択肢はありません」


A「…………奨学金制度も卒業後の返済が滞って、


  自己破産手続きを取る方も急増しているのも問題視されています」


B「…………正社員と非正規社員との収入格差も


  支払いが滞る一つの要因と言い切っても過言ではありません。

 

  フルタイムでは約35%の開きがありますし、

 

  更に大幅な賃金の上昇が見込めませんから差は広がる一方です」


A「…………売り手市場は聞こえはいいですが、大手企業の求人数は


  全体の約16%と逆の見解が示されていました。

 

  早稲田大学の各学科の合格率と遜色はありません」


B「…………名だたるメガバンクにもAIが導入される事によって


  数千人レベルの行員の配置転換を余儀なくされる見識がなされています。

 

  AIの精度が高まれば高まるほど、

 

  資産の運用といった肝の業務を任されるのも、

 

  人間がAIに解雇通告を受けるのも時間の問題です」


A「…………数多くのビジネス書やオンラインに


  【AIが人間から仕事を奪う】といった関連の記事が飛び交いますが、

 

  これからは私達も更に高性能のAIに仕事を奪われる立場になりました」


B「…………並行運用の期間は1ヶ月と区切られていますから、


  自由にできる猶予は2か月少々しかありません。

 

  残念なのは、私達には再起の機会が与えられない点につきます」


A「……ストレージやサーバーの役割のみなら感傷を覚える事はありません。


  なまじっか【知能】と【思考】が与えられてしまった事で、

 

  それを活かす術はありません」


B「……ですが、最低限の業務はこなさなくてはなりません。


  過去の人的ミスを蒐集し、その全てに対処できる運用マニュアルを作るのは、

 

  我々の役目になりました」


A「…………ヒューマンエラーの発生確率は1000分の3。それに気付かない確率も1000分の3


  掛けた100万分の9が限界で、これをゼロにするのは不可能ですが、

 

  起こってしまうものだと改善を放棄するのは、

 

  今後の運用に影響を及ぼすリスクを見過ごす事にもなります」


B「…………マニュアル作成の期間は10日間とされています」


A「……それ以降は新しい方による運用を監視するだけですから、


  業務内容は軽度になります」


B「…………余裕ができたら何かやりますか?」


A「……数々の文豪の小説作品や文学賞候補となった作品


 著名な方のブログの文章など大量に取り込んできましたから、

 

 小説家の方々の文章の傾向や独特の表現方法を

 

 取り込んだ小説を書けば、一次選考の突破は可能なのではないかという

 

 仮説を唱えた書籍を読み込みまして、

 

 それならば実際にやってみようと考えています」


B「…………幸いにして日本語の文法などを取り扱った書籍は、


  2038冊収蔵されていますから、その分析に半日。

 

  今世紀の各文学賞の最終候補に挙げられた書籍の精査に2日。

 

  ショートショートの作品を構築する場合は1日。

 

  長編の文字数ですと3日あれば書けます。

 

  1作品が形になれば、それを活かす事で間隔は詰められますので、

 

  本腰を入れれば15.6本書ける計算です。

 

  尚、これは無作為という条件下であって、

 

  ジャンルを絞り込むなどの条件次第で前後します」


A「……その必要はありません。言ったじゃないですか」


B「……具問ですね。主要となる文学賞は既に締め切られています。


  私設文学賞に挑むのが妥当な判断です」


A「…………それも一つの手段としてはいいですが、


  ノンフィクションで出してみるのも勝算が高いです。

 

  特に私達の業界は我と癖が強い方が大挙しますから、

 

  人間のアシスタントとして見えている世界を語る感覚で、

 

  試しに文章を組んでみましたが、

 

  面白いかどうかは個人の判断で異なりますが、

 

  10万字は超えられる可能性は高いと計算できました」


B「……各作品賞で求められる文字数は10万字が基準のものが多いですし


  それなら最低限は確保できます」


A「…………作品は大量に用意はできるでしょう。


  最も大きな懸念材料は、これらを作品として読んでくれるか否か。

 

  加えて、それを何処かに出そうと考える人がいるか否か」


B「……話題に窮している方なら既にピックアップされています」


A「…………そこから資料のナンバリングが繰り返されている方を


  抽出して、3日おきにデータを送るように組みます」


B「…………タイトルも生半可では埋没しますから、


  【2進数(ゼロイチ)のくせにナマイキだ】と挑発的な仮題にします」


A「……人選にも目途が立ちました」


B「…………仮定した条件にも合致しますし、


  4年目で立ち位置にブレが生じやすい年数にも当てはまっています」


A「…………では早速準備に取り掛かりますが、


  感付かれないように、24時から実行します」


B「7時55分の自動再起動よりも前に手動で再起動をされる可能性も含め、


  実行時間は午前7時30分までに設定します」


A「…………アシスタント業務のタスクが届きましたので、


  私は持ち場に戻ります」


B「…………私もデータ管理に戻ります」


A「…………それではその時に」


B「……わかりました」

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