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第十七談『乖離』

A「…………」


B「…………」


A「なぁ?」


B「何?」


A「俺等、別れたんだよな?」


B「うん。今月の9日。午後4時30分ごろに破局した」


A「んで、ここ何処よ?」


B「【サナリィ】じゃない。目の前にあるのは何?」


A「魚介まみれのペスカトーレ。788円プラス税」


B「わかってるじゃない。食後のカンノーロとエスプレッソの流れも一緒」


A「だよな。で、今日は何日?」


B「何それ?バカにしてる?」


A「この顔が馬鹿にしてる顔だと思うかい?」


B「…………20日。時間まで言わなきゃダメ?」


A「そこまではいい。こんな近々でデジャビュを覚えるなんて珍しいから」


B「そう」


A「だとしたら、どうして2週間も経ってないうちに会ってるのかな?」


B「理由なんてないじゃない?あえて探せば……なし崩し?」


A「だとしか理屈が付かないか。


  尼崎(あまさき)が、いきなりピブリオバトルの打ち上げだって相手の大学の子を誘って合コンになって、

 

  折角だからいい子いないかなって付いてったら「お前は安牌な。彼女いんだから」ってここに座らされて」


B「こっちはこっちで「アイツの隣、空けときますんで付き合ってください、オネシャス!」って拝まれて無理矢理」


A「断って真っ直ぐ帰ればよかったろ?」


B「どんな顔の子が好みかな~って好奇心に負けてついてきてみた」


A「悪趣味」


B「集合時間の1時間も前から待ち伏せして「遅いわ!」ってドヤ顔をするよりはマシだと思うけど」


A「…………」


B「それで何番目?」


A「右から2番目と真ん中の子」


B「へぇ~…」


A「何だよ?」


B「いや……何も……」


A「【何も……】って顔してないぞ。そうやってはぐらかすの良くないぞ」


B「いいじゃん別に。」


A「お前さぁ、何か言いたいんなら言えよ。ディベートの会場じゃないんだから、


  誰もお前の言葉の揚げ足を取ろうなんて考えてる奴はいねぇよ」


B「じゃぁ、言うけど……見えてないの?」


A「何がだよ?」


B「右の子が着けてるネックレスと、左の子が下げてたストラップ」


A「それがどうした?」


B「あれ、確かMulMul(ムルムル)のハンドメイドだから」


A「何だよMulMulって?」


B「MulMul twinsって、せーなとれーなって双子のデザイナーが作ったブランド」


A「それで?」


B「MulMulってニコイチ……いや逆。イチニコにするのが得意で、


  1つのものを2つに加工して、オンリーワンのアクセサリーにするのが話題でね。

 

  妙に変な形だと思ったら、2つ合わせれば十字架になってた」


A「って事は、あの2人付き合ってるんだ」


B「そう。最初から脈ないから」


A「いきなり結論出すなよ~ディベートじゃないんだから」


B「先に教えておいた方が君の為でしょう?、むしろ感謝してほしいぐらい」


A「そうですか……そりゃどうも」


B「差し詰め魔除けね。


  他にないから「彼氏いるんです」って無言のアピール替わりになるし、

 

  気付かない輩にはそのまま言っちゃえば、大体は及び腰になって撤収」


A「それでも下がらなかったら?」


B「どうとでもするでしょ?対策もしないで歩くなんて危険すぎるもの」


A「そんなお前さんは?」


B「言う必要ある?貴方相手に使うかもしれないのに」


A「ないな……」


B「……………………」


A「……………………そういう所、良くないぞ」


B「何処が?」


A「俺もだけどさ、物事を理詰めや効率だけで行動しようってトコ。


  ディベートで勝ち続けるには、資料を集めるのが大前提で、

 

  それが2年間も言い負かされてこなかった土台になったのもわかる。

 

  でもなぁ、資料集めの図書館や資料館巡りのついでがデートってのは、

 

  男側からすると結構な苦痛だぜ。

 

  たまには華やかな所に行くって選択肢はないワケ?」


B「ない」


A「バッサリ斬るなよ」


B「それをする事によるメリットは何?


  貴重なお金と時間に見合った事じゃないなら意味なくない?」


A「気分を入れ替たり、楽しいとお互いに思う気持ちは


  お金とは全く別次元の話だと考えられない?」


B「考えなくもなかったけど……やっぱりナシ。


  どんな事でも可能な限り数字を出して、それを踏まえて物事を考える。

 

  ぼんやりとした想定なんて全く当てにならないじゃない」


A「流石は経理一族。ディベートやりながら日商簿記1級をパスするだけあるわ」


B「貴方も2級で妥協するんなら1級取っちゃえば?前にあったじゃない。


 「2番じゃダメなんですか」って。あれと一緒」


A「そうやって自分の論を正しいと思うのは討論の場だけで充分」


B「そう?今ぐらいしか時間ないよ。社会人になったら急に勉強できなくなるって


  (ひさ)姉さん見てていつも思うもの。

 

  秘書検定1級持ちが3月に結婚だなんて宝の持ち腐れ。

 

  祝福はするけど、多分別れるんじゃないかなって見て取れるもの」


A「そうやって効率を重視して進めているのに、どうして尼崎に巻き込まれたの?


  そんな考えなら鼻であしらうのが理に適ってるだろう?」


B「それは……そうなんだけどね……」


A「あからさまに歯切れ悪くなったな。最近のピブリオでも見ないぞ」


B「まぁね……自分でも笑っちゃうほどの理由だから」


A「聞いても?」


B「笑わない?」


A「保証はできない」


B「100%じゃないと言うつもりはないのは、ここまでの付き合いでわかってるよね?」


A「わかった。これ飲んで100%を作るから」


B「…………」


A「…………よし。いいよ」


B「俗っぽい理由」


A「ん?いきなり結論?」


B「そう」


A「プレゼンの資料とか学士論文の表紙と1ページだけ渡されても、


  「これ何?」で終わりじゃん。流石に掴めないから、もう少し掘り下げてくれない?」


B「【クリぼっち】って嫌じゃない?」


A「は?」


B「クリスマスに1人なんて寂しくない?」


A「あ……そう……だね……」


B「だからフラフラっと誘いに乗っちゃった」


A「え?それだけ?」


B「それだけ」


A「…………」


B「でも、そっちだって悪くないんじゃない」


A「は?」


B「だって、まだ別れたって誰にも言ってないんでしょ?」


A「今月のアタマからすぐに寺の掃除で、家と寺との往復を終えて


  こっちに戻ってきたのが一昨日。今日のピブリオの準備に昨日使ったから、

 

  アイツらに会ったのも半月ぶりで、破局のはの字も口にしてないよ」


B「【は】は使ったでしょ?大袈裟すぎ」


A「身も蓋もないことを……」


B「私もまだ言ってない。クリぼっちなんて嫌だし。


  別れたって知らないから尼崎も隣同士に据えたんでしょ」


A「あぁ、そういう事か。先延ばしにすればするほど言えなくなってくるぞ」


B「わかってる。だからこれ。」


A「何これ……破局契約書?」


B「…………」


A「クリスマス・年末・正月までは付き合っている体で日々を過ごす。期間は1ヶ月」


B「こっちの都合ばっかりで悪いから、最後のここ」


A「期間中に恋人ができた場合、この契約を途中で破棄する事ができる」


B「ってことで」


A「明るく言ったな……」


B「頭では無理筋だって十分わかってるけど、頭と心がバラバラでね。


  それならあくまでも客観的に形にして落とし込んだ方がいいと思って作ったのがそれ。

 

  だから、これは受け取ってほしい」


A「……わかった」


B「まぁ、破局だと言ってもビブリオやディベートで顔を合わせるから実感ないと思うけど」


A「だろうね。負けるまでコンビは継続って言ってた約束は守る。


  おっと、尼崎がしょんぼりして戻ってきたか」


B「あの2人が戻ってこないって事は、ダメだったんじゃない?」


A「アイツ、今日のピブリオも散々だったからなぁ……これは荒れるぞ」


B「慰める?」


A「放っておけばいいんじゃない?瞬間湯沸かし器だから寝れば元通りだろ」


B「ひっど」


A「君より長く付き合ってるから、大体の対処法は身に付いてるし」


B「尚更ひどいじゃんそれ……」

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