第一談『七夕』
A「よう」
B「おう、来たか」
A「お前が呼んだから来たんじゃないかよ」
B「そう言うなよ。最近会ってなかったんだからよ」
A「忙しい忙しいで逢わずじまいだもんなぁ」
B「そういえば、みんな元気にしてんの?」
A「結局、散り散りで何年も会ってねぇよ」
B「年賀状のやり取りも結構あったけど、なくなっちまったわ」
A「SNSとかアプリでのメッセージのやり取りが主流になってるからなぁ」
B「………………」
A「……………………ふぅ」
B「そういえば、今日『七夕』だよな」
A「あぁ、短冊に色々と願いを書いてたよ」
B「叶いもしない、くっだらねぇ事を書いてたのを憶えてるわ」
A「え?何書いてたんだ?」
B「思い出せってか?恥ずかしいから思い出したくもないんだけど」
A「自分で言い出したんだから、1つぐらいは言えよな」
B「わかった。思い出すから、お先にどうぞ」
A「おまっ、それはないんじゃない?」
B「ここで俺だけ恥を晒すのは、フェアじゃないだろ」
A「都合よく他人を巻き込むなっての……
ちょっと待てよ、何があったかな……」
B「……………………」
A「……………………」
B「……………………」
A「うっわ、出てきた出てきた………」
B「え?何?何?」
A「ちょっと待て、俺が言うまで待ってたわけじゃないだろうな!」
B「んなわけないじゃん。ちゃんと思い出そうとしてたって」
A「どうだか……」
B「んで、何思い出した?」
A「小5の時に『補助輪なしの自転車に乗れますように』って書いたわ」
B「あっはっはっはっは!それは恥ずかしいな!乗れなかったんだ」
A「悪かったな!」
B「そうだよなぁ、当時からすれば切実な悩みだから書いてたんだよな」
A「でもな、それって正しいんだってさ」
B「何が?」
A「本来の七夕のお願いってのは、
得意になりたいことを書いて、機織りの名手だった織姫に決意を誓うもので
自分で何とかなる範囲のお願いをするのが、七夕のお願いなんだってよ」
B「へぇ・・・んで?」
A「一週間で乗れて、拍子抜けしたから余計に印象に残ったんだろうなぁ」
B「叶ったんだから、願って良かったんじゃない」
A「まぁなぁ……」
B「…………………」
A「…………………」
B「なぁ、今なら何を願う?」
A「え?今か?」
B「おう」
A「う~ん………『得意になりたいこと』でだろ?」
B「そうそれ」
A「何だろうなぁ………『太々しくなりたい』かなぁ」
B「へぇ、そりゃ意外」
A「こう見えても、結構繊細な所だってあるんだよ」
B「妙な所で律義だったもんな、お前」
A「うるさいな、そういうお前はどうなんだよ?」
B「俺は昔から変わんねぇよ、『酒に強くなりたい』って」
A「あぁ、かなり酔わされてたもんなぁ」
B「最後はかっつんの背中が定位置になってて、
『やっぱり俺かよ!』ってキレられながらアパートに担ぎこまれたもんさ」
A「今も誰かの背中の世話になってんの?」
B「なるわけないじゃん。ちゃんと呑める範囲を弁えてるさ」
A「程々にしとけよな。次に会うのが病院のベッドなんて洒落になんないぞ」
B「わかってるって。お、そろそろいい時間だから行くわ」
A「ちょっと待て、忘れてるだろ?」
B「え?何?」
A「本当に忘れたのかよ………『短冊に書いたくだらないお願い』だよ」
B「お、そうだったそうだった」
A「言わずに済んだ、なんて思っちゃぁいないだろうな」
B「そう思ってたら、太々しくなりたいなんて言わねぇって」
A「それもそっか」
B「あぁ、あったあった。無茶苦茶くっだらないの」
A「で、何だったんだ?」
B「確か4,5歳だったかなぁ、初めて短冊に書いた一言だったよ」
A「何書いたんだよ?」
B「平仮名ででっかく『せつぢょく』って」
A「誰に?何を?」
B「さぁ………」