第6話:初めての依頼
昨日は疲れていたのか、部屋に案内され、お風呂がないので濡らした布で体を拭いてベッドで横になるとすぐに寝てしまった。
俺はベッドで伸びをし、立ち上がる。
窓から外を見つめ、昨日の出来事を思い返す。
女神に会い、森を進み、魔物と遭遇し、冒険者登録し、親切な2人に出逢った。
まるで夢を見ているみたいだ。
廊下から足音が聞こえてくる。
コンコン。
「クルス君、まだ寝てるかな?」
エミリアさんが起こしに来てくれたみたいだ。
「今、起きたところです。」
俺はドアを開け、エミリアさんに朝の挨拶をする。
「エミリアさん、おはようございます。」
「クルス君、おはよう。もう少しで朝食が出来るから顔、洗ってくるのよ。」
「はい。」
女神様がくれた服に着替え、一階に降りていく。
そこにはすでにヒューイさんが起きており、テーブルで飲み物を飲んでいた。
「ヒューイさん、おはようございます。」
「おう、おはよう!昨日は良く寝れたみたいだな。」
「はい。思ったより疲れていたみたいでぐっすり寝れました。」
「それは良かった。今日は午前中に俺と簡単な依頼をこなしてから訓練をするからな。」
「どんな依頼ですか?」
「まずは顔を洗ってこい。そこの裏口から出れば、井戸があるからな。」
俺は言われるまま、裏口から出るとギルドの裏に井戸はあった。
顔を洗い、戻ると朝食が準備されており、2人は座って待っていた。
急ぎ、俺も席に着くと3人で食べ始めた。
ヒューイさんが口火を切るかのように喋りだす。
「クルス、さっきも言ったが今日は依頼を受けるぞ。」
「はい。何の依頼ですか?」
「薬草の採集だ。初心者が受けれる依頼なんて限られているからな。」
「(お〜〜、テンプレだ。)」
「さっさと食べて出かけるぞ。」
「はい。」
エミリアさんが笑顔で話しかけてくる。
「初めての依頼だからって無茶しないようにね。」
「はい!」
俺は初めての依頼にワクワクしながら朝食を食べていった。
部屋に戻り、ナイフと魔法の袋を腰にくくりつけ、一階に降りていくとエミリアさんとヒューイさんがカウンターのところで待っており、冒険者カードを出すように言われた。どうやら、依頼の手続きをするみたいだ。
ヒューイさんが手続きが終わるのを待っている俺を見て口を開く。
「これから大森林に行くのにその格好は微妙だな。ちょっと、待ってろ」
そういうとギルドの奥の方へ引っ込んでいき、しばらく経って戻ってくると、その手には皮で出来た防具のような物を持っていた。
「これをつけろ。」
と言い、手に持っていた物を渡される。
「いいんですか?」
「これは昔、俺が使っていた防具で長い間、使っていないが手入れはしてあるから安心して使うといい。」
手渡された防具を身につけていくが慣れないせいか、手こずっているとエミリアさんが嬉しそうな顔で手伝ってくれた。
防具は皮の胸あてと皮の腕あてと皮のすねあてだ。
「クルス君には少し大きいみたいだけど、無いよりはマシね。ちゃんと冒険者らしく見えるわよ。」
「そうだな、本当は自分のサイズに合わない防具をつけるのは良くないがこれ位なら許容範囲内だな。」
「はい!」
初めての防具を身につけ、テンションが上がってきた。
「それじゃあ、行くぞ!」
俺はヒューイさんと共にギルドを抜け、大森林に向かっていった。
大森林の前に着くと、ヒューイさんは立ち止まり、改めて目的を告げる。
「今から薬草を探すがこれもれっきとした訓練だからちゃんと俺を見て、ついて来いよ。後、あまり音を立てないようにするんだ。」
「はい。」
そういうとヒューイさんの気配が急に薄くなった気がした。
「(これは気配遮断スキルを使ったのか?)」
確信は持てないが気配遮断のスキルを使い、後をついていく。
「(ほう、まだまだ荒削りだが気配遮断が使えるのか。)」
ヒューイは密かにほくそ笑む。
薬草が自生している場所を経験でわかっているのだろう。
ヒューイはどんどん森の奥へと入っていく。
「(後をついて行くだけなのにツライな。)」
ただでさえ、大人と子供では体格差がある上にステータスの差まであるのでついて行くので精一杯だ。
「(ヒューイさんとの採集、正直少し舐めてたわ。最初にこれも訓練って言ってたからな)」
そうこうしている内にどうやら薬草を見つけたらしく、立ち止まる。
「クルス、ちょっとこっちに来い。」
ヒューイさんに呼ばれ、荒い息をしながら近寄っていくとニヤニヤした顔で言ってくる。
「この程度で疲れてたらこの先が思いやられるな。」
俺は心の中であんたの走るペースが速すぎるんだと毒づく。
これを見ろと草に向かって指を指す。
そこにはほうれん草のような草があった。
「これが薬草だ。しっかり見て覚えるんだぞ。」
言われた通り、観察して覚える。
「手に取ってみても良いですか?」
「良いが冒険者のマナーとして、根っこごと抜くなよ。」
「はい。」
薬草の若葉を千切り、手に持ち、確認する。
「ところで冒険者のマナーって他にどんなのがあるんですか?」
「他だと、獲物の横取りや所持スキルの詮索、他人のスキル漏洩、主なマナー違反はだいたいこんなとこだな。」
なんとなく予想はつくが一応、聞いておく。
「マナーを守らないとどうなるんですか?」
「他の冒険者からハブられ、露骨な嫌がらせを受けたり、最悪は殺されるな。」
「殺されることもあるんですか。」
「よっぽど、嫌われていたらな。さて、話しはここまでにして採集の続きをするがここからはおまえ1人で残り9束を集めてみろ。」
「1人ですか?」
「ああ、俺は近くで見守っているから困ったら声を掛けろよ。」
「分かりました。」
「安心しろ、もし危なくなったら助けてやる。」
俺は頷き、手に持っていた薬草を袋にしまい、気配感知と気配遮断を発動し、探し始める。
どうやら、そこそこの群生地らしく簡単に見つかった。
後、少しで数が揃うというところで気配感知に反応があった。
一旦、採集をやめ、近くの木に隠れる。
隠れながら様子をうかがうと見たことのあるプニプニしたヤツがいた。
相変わらず、草を食べていてこちらに気づく気配がないので一気に飛び出し近くの木に向け、サッカーボールを蹴るように蹴飛ばした。
狙い通り木に当たり、べちゃっという音がし、ズルズルと木の根元に落ちていった。
「(レベルが上がりました。)」
確認の為、近づくと例のゼリー状の物と小石みたいな物が落ちていた。
様子を見ていたヒューイさんが近づいて来た。
「なかなかワイルドな仕留め方をしたな。」
誉められたのだろうか?
「そうなんですか?」
「ああ、あんなやり方、俺は初めて見たな。」
「ダメですかね?」
「まあ、問題ないだろう。それより、ちゃんと素材は回収しとけよ。」
「素材ってあの小石とゼリー状の物ですか?」
「小石じゃなくて魔石だ。」
「(これが魔石か)」
魔石を拾い上げ、手の上で転がしてみるがどう見てもただの石ころにしか見えない。
魔法の袋に取った魔石をしまう。
「素材も採っとけよ。」
「ヒューイさん、このゼリー状の素材って何に使うんですか?」
「それは石鹸の素材になるな。」
「石鹸ですか?」
「ああ、精製すればな。」
「(さすが異世界、意表をついてくるぜ。)」
「回収したら、さっさと続けるぞ。」
採集を再開する。
採集の最中だった薬草を回収しているとまた、気配感知が反応する。
同じように一旦、身を隠し様子をうかがう。
そこには角が生えたうさぎがいた。
「(アイツか、今回はへましないようにしないとな。)」
ナイフを右手で逆手で抜き、気配を遮断したまま、うさぎの後ろへ回る。
徐々に近づいていく。
「(胆力スキルの効果かな、今回は大丈夫だ。殺れる!)」
パキッ!!
小枝を踏んだようだ。
案の定、角うさぎに気付かれ、また、先制を許してしまう。
「(前回のようにはいかないからな)」
飛びかかってくるうさぎを出来る限り、最小限に避け、すれ違い様に背中にナイフを突き立て、その勢いでうさぎごと地面に叩き込んだ。
「レベルが上がりました。」
「ふぅ〜」
安堵していると後ろから声を掛けられる。
「100点満点中20点だな。」
辛口評論家のヒューイさんが立っていた。
「折角、気配消して後ろに回ったのに気付かれ、マイナス40点、背中に突き刺し、無駄に穴をあけ毛皮の価値をなくしたからマイナス40点だな。」
「・・・・はい。」
言われてみれば、その通りだな。
「ちなみに解体は出来るか?」
「したことないです。」
「なら、俺が見せるから覚えておけよ。」
「はい。」
慣れた手付きで角を取り、首を落として血抜きをし、毛皮を剥いでいった。
角は煎じれば、胃腸薬になるとのこと、毛皮は真ん中に穴が空いてしまったので捨てた。
肉は鶏肉のようで結構おいしいらしい。
「こんな感じだな。」
解体を終え、ヒューイさんがしゃべり出す。
「どうせなら今日の夕食用と解体の練習を兼ねて後、2匹狩るぞ。」
「わかりました。」
また、薬草を採集しつつ、角うさぎを探す。
◇◇◇◇
1時間くらい経っただろうか、3匹目の角うさぎを解体し終わり、魔法の袋にしまう。
お世話にも解体は上手く出来たとは言えず、後で剥ぎ取りのスキルを取得しようと思う。
今日の成果は角うさぎ3匹とスライム5匹だ。
「帰ったら、ギルドにこの大森林に生息している魔物と解体の仕方が載っている図鑑があるからちゃんと見とけよ。」
「はい。」
「じゃあ、帰るとするか。」
ミト村へ向け、また走り出すのであった。
クルス
拳士:Lv:12
短剣士:Lv:12
SP:315
Lv:12
HP:370
MP:250
ATK:130
DEF:156
INT:104
RES:104
TEC:130
SPD:130
LUK:300