第4話:冒険者ギルド
森から村へ向け踏み出した。
さっきまで木々に囲まれた景色から開放され、村に近づくにつれ、小麦?畑が見えてきた。ちなみに手作りの短槍は血でよごれ、持ち歩いている姿を想像したら明らかに不審者だったので捨ててきた。
畑の横を通り過ぎていき、離れた場所に第一村人を発見するが忙しそうに農作業をしており、とても話しかけれそうにない。
村人とのファーストコンタクトをあきらめ、家々が建ち並ぶ、集落の入り口に到着した。
集落は丸太の塀に覆われ、門には見張りの男が立っているのを想像していたが見張りどころか塀すらなかった。
外からの襲撃に対して余りにも無防備に思えた。
「(これだけ無防備ということはこの村はよっぽど、平和なのかな?)」
異世界に来て、他に村を見たことがないので判断出来ない。
何はともあれ、目的の村にたどり着いたので来るまでに考えていたプランを実行しようと思う。
考えていたプランはこうだ。
1.冒険者ギルドに行き、冒険者登録をする。
2.冒険者をしながら暮らす。
以上。
しょうもないプランだがまずはある程度、生活していけるように安定して稼げるようにならなければ話しにならない。
という訳で冒険者ギルドを探すため、建物を確認していく。村に建っている家は木と土で造られた平屋のような建物がほとんどの中、一回り大きく2階建ての建物を発見する。表には剣と剣が交差している看板がかかっていた。
「たぶん、ここが冒険者ギルドだと思うんだけど・・・」
ファンタジー物につきもののテンプレを警戒しつつ、恐る恐る開かれたまま固定してある扉をくぐる。
中は20畳くらいだろうか?そこに5〜6人が座れる円テーブルが2つのみ置いてあり、冒険者らしき人たちは見当たらない。
正面には2人並べる程度のカウンターが設置してあり、本が4冊立てかけられ、右側に掲示板があった。
冒険者ギルドで厳つい強面たちに絡まれるというテンプレは回避出来たがこのギルド営業していないのでは?という違う不安が生まれてくる。
しばし、呆然としていると奥から20代後半くらいのキレイな女性が現れ、俺を見ると少し驚いた表情をするがすぐに笑顔で問い掛けてきた。
「こんにちは。初めて見る顔だけど、依頼をしにきたの?」
やはり、この年齢で冒険者登録する子供は少ないのだろうか?
「いえ、冒険者登録をしに来ました。」
女性は少し悲しい顔をして恐らく確認の為であろう質問をしてくる。
「冒険者登録に年齢制限はないのだけど、見たところ、10才くらいよね?」
「いえ。12才です。」
「幼いことに変わりはないわ。冒険者ってのはとても危険なお仕事なの。残酷だけど、冒険者になって次の日には命を落とすことだってあるのよ。12才でなるような職業じゃないわ。」
「はい。危険なことはわかっています。それでもなりたいんです。」
お姉さんは俺が登録をあきらめる気がないのが分かったのか、困った顔をし、それでも説得を試みようと問い掛ける。
「冒険者になったら親御さんは大変心配するわよ。ちゃんと、話しをして冒険者になってもいいと言われたの?」
この女性は心から俺のことを心配してくれているんだと思う。
それだけに今から言う、嘘の設定が心を締めつける。
「お母さんは僕を生んですぐに他界しました。それからお父さんと2人で行商をし、いろいろな場所を転々としていたのですが移動の途中で魔物に襲われ、僕を逃がす為に・・・・」
お姉さんはいっそう悲しい顔をして俺の頭に手を置き、優しく撫でながら小さく囁く。
「辛いことを聞いてごめんなさいね。」
思わず、顔を上げお姉さんの瞳を見るとじんわりと潤んでいた。
俺は心の中で最大級の謝罪をし、痛む良心を隠す為に下を向く。
「私はギルドの受付をしてきて、今までにあなたのような子を何人も見てきたわ。だけれど、ほとんどの子は夢半ばで倒れ短い人生を終えたわ。出来ることなら、こんな危険な仕事なんて止めて、もっと安全な仕事についてほしいと願っているけれど、これは私のエゴね・・・」
そこでお姉さんは言葉を詰まらせ、しばしの沈黙が流れる。
俺は何か言わなければと思うが今更、嘘です。なんて言える訳もなく、言葉が出てこない。
何も言えず、そわそわしているとお姉さんはさっきと打って変わって決意をした目で喋り出した。
「決めたわ!あなたが1人前になるまで私達が出来る限りサポートするわ!」
「・・・私達?・・・」
思わず、首を傾げてしまうがお姉さんの目はすでに燃えていた。某熱血マンガのように
「そうと決まれば、さっそく登録よ!」
「そういえば、まだ名前も言っていなかったわね」
エミリアさんは少し照れたように自己紹介してきた。
俺も自分の名前を教え、今更のような気もするが挨拶をした。
「クルス君は字を読んだり書いたりはできる?」
「はい。父に教えてもらったので出来ます。」
また、一つ嘘を重ねる。
「そう、良いお父さんだったのね。」
「(ヤバイ!また、暗い雰囲気になってしまった)」
「それじゃあ、手続きの準備をするから用紙を書いて待っててね」
と言い、奥へ行ってしまった。
俺はあきらめて、大人しく渡された用紙を書こうと思ったがカウンターが高くて書き辛い。いや、俺が子供だから低いのか。悪戦苦闘していると奥からエミリアさんが戻ってきた。俺の姿を見ると
「気が付かなくてごめんね。こっちのテーブルで書いて良いのよ」
とテーブルをすすめられ、素直にテーブルで書きはじめた。
登録用紙の内容は名前、年齢、出身地、職業、特技だ。俺は職業を拳士にし、セカンドジョブは書かなかった。特技は体術と短剣術にし、出身地以外を書いた。
エミリアさんも準備が終わったのか俺の隣に座り、慈愛のような目で俺を見つめてくる。
なんとも、いたたまれなくなり、気になっていたことを聞いてみる。
「エミリアさん、聞いてもいいですか?」
「何?私でわかることなら聞いて」
「さっき、僕のことを出来る限りサポートするって言っていましたけど、その時、私達って言っていたんですがエミリアさんの他に誰がいるんですか?」
「あ〜、それはね。私の」
エミリアが話し始めると同時にギルドの入り口から声が響いてくる。
「エミリア〜、今帰ったぞ」
俺はその声に反応し、振り返る。
40代ほどの冒険者風のシブメンがこちらに近づいてくる。
「あなた、お帰りなさい〜、今日は早かったわね」
「・・ん?・・あなた?」
「ああ、今日は簡単な仕事だったからな、ところでおまえは子守りでも頼まれたのか?」
「ちがうわよ。この子はクルス君。今日から冒険者になる子よ!」
「は、はじめまして今日から冒険者になるクルスです」
「それでこっちがこのギルドのマスターであり、私の旦那のヒューイよ。」
「おう。俺はギルドマスターをやっているヒューイだ。そして、エミリアの旦那だ」
「それにしてもよくエミリアが登録することを認めたな〜」
「ふふ、最初はあきらめてもらおうと思ったのだけど、クルス君の意志が固かったから私とあなたで出来る限りのサポートをして1人前にするって決めたの!」
「「・・・・・・」」
ヒューイは値踏みするかのように俺を上から下まで見るとエミリアに向き直って、口を開く。
「はぁ〜、おまえは昔からこうと決めたら聞かないからな。」
「エミリアが決めたのなら俺も手伝ってやる。ただし、俺のしごきは厳しいぞ!クルス耐えられるか?」
俺の中では急展開で戸惑ってしまうが知り合いもなく、鍛えかたすらよくわからない俺にとってはありがたいことだ
「はい、頑張ります!」
「よし、明日からビシビシいくからな!」
「はい、よろしくお願いします。」
一段落したところでエミリアさんが嬉しそうに話し出す。
「それじゃあ、まずは登録を済ませちゃいましょうね。」
エミリアさんは俺の手を取り、書き終わった用紙を持ってカウンターへ移動する。
用紙の内容を確認すると今度は何やら作業をし、1枚のカードを渡された。
「このカードが冒険者の証であるギルドカードよ。」
カードの表には名前と職業とランク「G」のみが表示されていた。裏側をみると7つのマスに区切られ、マスは空白だった。
「他に身分証にもなるからなくさないでね。再発行には金貨1枚が必要になるからね」
「後はクルス君の魔力を記憶させる為に血を一滴カードに垂らせば登録完了よ。」
俺は腰からナイフを抜き、左手の人差し指を軽く切り、カードに血を垂らす。カードは淡く輝いてすぐに光は止んだ。
「職業:冒険者が選択可能になりました。」
マップ30SP
危険察知5SP
索敵5SP
tec強化100SP
エミリアさんは小さい布をくれ、キズに当てるように言われた。
「それじゃあ、いろいろと説明するからテーブルに移りましょうね」
テーブルに移るとエミリアさんが3人分の飲み物を持って移動してきた。
「じゃあ、まずはカードについて説明するわね。」
ちょっと、喉が乾いていたので一口だけ飲みエミリアさんに視線を向ける。
「カードの表に名前、職業とランクが書いてあるわね。最初のランクは「G」からスタートで依頼やギルド貢献度でランクアップしていくわ。ギルド貢献度は主にギルドで魔物の素材を売った金額だと思ってね。」
「ランクはGからF、E、D、C、B、A、Sという具合に上がっていき、Dランクからは試験に合格すればなれる仕組みよ。ただし、Sランクだけは特殊で何か偉業等を達成した際にギルド本部で協議され認められればなれるのよ。」
「Sランクになるのって大変なんですね。」
「そうね。現在いるSランク冒険者は確か3人だったはずよ。」
「(たった3人しかいないってどれだけすごい人達なんだろう?)」
エミリアの話しは進んでいく。
「次は裏側ね。クルス君にはまだ早いけど、この世界には7大迷宮とよばれるダンジョンが存在していて冒険者ギルドの目的の一つが7大迷宮の踏破なの。ダンジョンに潜ると対応したマスに踏破階数が表示されるようになっているわ。」
「(ダンジョンがあるのか、いずれ俺も行ってみたいな〜)」
「そんな行きたそうな顔してもクルス君にはダンジョンはまだ早いわよ。ふふ」
顔に出ていたみたいだ。
「クルス君も冒険者になったことだし、いずれはダンジョンに挑むことになるかもしれないわね。でも、その前に通常依頼をこなさいとね」
そういうとエミリアさんは掲示板を指差した。
「依頼は自身のランクと一つ上のランクの依頼しか受けることが出来ないわ。これは無謀な冒険者を死なせない処置ね。」
「その他にも指名依頼や強制依頼があるけど、指名依頼は高ランクになればなるほど人によっては増えていくわね。」
「強制依頼はギルドから緊急の場合に出されることがあるけど、ほとんどが魔物大増殖が起きた時ね」
「スタンピードは頻繁に起きるんですか?」
「この大森林の場合はだいたい10年に1度ね。前回は5年くらい前に起きたからまだ大丈夫よ。たぶん」
「(後、5年くらいあるなら一応は安心かな…それまでに強くならないとな)」
「最後に冒険者同士の争いは基本、ギルドは関与しないし出来ないから注意するのよ。冒険者のほとんどは荒くれ者達が多いからね」
「はい、気をつけます」
「説明は以上よ。わからなかった事はなかった?」
「とってもわかりやすかったです。」
「じゃあ、次は俺の番だな。」
それまで静かに聞いていたヒューイがエミリアと交代するかのように喋り出した。