第38話:天才VSチート(前編)
2人は向かい合って対峙している。
「いつでもかかって来て!」
「(それじゃあ、遠慮なくいかせて貰おうかな。)」
俺は構えを取らず笑顔のまま、取得したばかりの縮地スキルと無拍子を使う。
タンッ!!
軽い足音をさせ、予備動作無しに0からトップスピードに達する。
「っ!?」
アンジェが気付いた時には喉に俺のダガーの切っ先が突きつけられている。
「「「なっ!?」」」
「ほう、縮地と無拍子までも使えるのか。おもしろい小僧よな。」
流石は拳聖なのだろう。
ゲンカクさんは一目で見抜く。
「まずは僕の一勝ですね。」
笑顔で言い、元の位置に戻る。
正直、これで終わってくれれば良いのだが終わらないだろう。
俺でもこんな終わり方ではスッキリしないから。
案の定、再戦のお願いを受ける。
「正直、舐めてたみたいです。クルス君、ごめんなさい。」
腰を折り、丁寧に謝罪されてしまった。
「いえ、全く気にしてないですよ。」
本心だ。
「武人として恥を承知でもう一度、お願い出来ますか?」
さっきとはまるで別人のような真剣な目つきをしている。
「勿論、僕もそのつもりです。」
「ありがとう。」
アンジェさんはお礼を言うと構え直す。
「(まるでさっきとは別人のようだ。)」
アンジェの身体からさっきとは別人のような闘気が発せられる。
「(恐らく二度目の縮地と無拍子のコンボは効かないだろうけど、試してみるか。)」
タンッ!
アンジェさんとの距離が縮まっていく。
キィンッ!!
右手のダガーを振り抜くがガントレット型の武具に防がれる。
間髪入れず、左のダガーも振るがこちらも防がれた。
キィィン!!
両手を封じられる形になったので前蹴りを放とうとするとアンジェさんも同じように前蹴りを放ってきた。
リーチは向こうの方が有利な為、蹴りをキャンセルしてバックステップで距離をとる。
「もう、その手は喰わないよ。」
流石に二度目の縮地と無拍子のコンボは奇襲にもなっていなかったし通じないようだ。
「ですよね。」
通用しない技を使い続けても仕方ないので次は正攻法でいく。
「それでは仕切り直しと行きますか。」
言葉を言い終える前にアンジェさんに向かって走り出す。
フェイントを入れて、脚を狙う。
キンッ!!
また、腕あてで防がれ、次々に攻撃を繰り出していくがアンジェさんも負けてはいない。
俺が攻撃を繰り出せば、防ぎ、躱し、カウンターを返してくる。
一手ごとに攻守が目まぐるしく入れ替わる。
「いい勝負だな。」
ライガさんが呟く。
「ああ、パワー、スピード、テクニックではクルスが上回っているが経験と戦闘センスではアンジェが勝っている。」
レオンさんが分析する。
「ほっほっほ」
ゲンカクさんが楽しそうに見ている。
レイラは固唾を飲み、観戦している。
キンッ!ガッ!キン!ゴス!
攻防を続け、アンジェさんの攻撃をダガーで受け、その勢いを受け流したいのだか受け流す瞬間に上手く表現出来ないがポイントをズラされて上手く決まらない。
「(くそっ!攻め切れない!)」
俺が内心で愚痴をこぼすようにアンジェも内心では焦っていた。
「(わかってはいたけど、一瞬も気が抜けない!)」
俺自身、身体能力では勝っているのがわかっているがそれだけだ。
必死に防いでいるとアンジェが側面に無駄のない流れる動きで移動し蹴りを放ってくる。
その無駄のない動きはまるで瞬間移動しているのではと思う程、洗練された動きだ。
「(しなやかであり、鋭く芸術品みたいだ。)」
全力でバックステップを踏み距離をとる。
幸い追撃はなかった。
「(ヒューイさん以外でこんなにも必死になるのは初めてだな。これは訓練には持ってこいの相手だな。)」
自然と笑顔を浮かべ、両手のダガーを鞘にしまう。
「どういうつもり?」
アンジェさんが怪訝な表情で聞いてくる。
「勘違いしないでくださいね。純粋に拳で語り合いたくなっただけです。」
正確に言うと速さと手数で勝負するスタイルが俺のお手本にピッタリなのであわよくば自分の物にしようという魂胆だ。
無手になった俺はカンフー映画のマネをして上下に手を構え、空中に太極図を描くように手を動かし構え直す。
「これでも体術には自信があるんです。」
アンジェさんも不敵な笑みを浮かべる。
「では行きますね。」
一声掛け、縮地でアンジェさんに迫る。
さっきまでは正直、心のどこかでケガをさせたくないと思うところがあったが今は全力をぶつけることが出来る相手として認識している。
縮地で加速した移動から勢いを殺さずに拳を放つ。
ドンッ!という炸裂音が上がる。
「(なんてパンチなの!?)」
拳の前方の空気が弾けた音だ。
辛くもガントレットで防がれるが防御を突き破りアンジェの左腕を弾く。
がら空きになった脇腹にミドルキックを叩き込む。
インパクトの瞬間に稲妻のような打撃音を上げ、アンジェが吹き飛ばされる。
「がはっ!(マズい!)」
10メートル程、吹き飛ばされて着地し、脇腹を抑え、乱れた息を無理矢理整える。
「ゴホッゴホッ!(なんて重い攻撃なのっ!?)」
悶えるアンジェさんを見ながら俺は歩いて距離を詰めていく。
「(完全に捉えたと思ったんだけどな。インパクトの瞬間に後ろに飛ばれたな。)」
アンジェさんの呼吸が戻るまで待っていては逆に失礼な気がしたので容赦なく攻める。
受けにまわっては分が悪いと感じたアンジェの右拳と俺の右拳がぶつかり合う。
俺が素手に対してアンジェはガントレットを装備しているがガントレットなど物ともせずに弾き、攻め立てる。
またもや腕を弾かれ必死に防御へまわるアンジェだが呼吸が乱れた状態では動きに鮮彩さを欠く。
「ぐぅっ!」
「(この勢いで押し切ってやる!)」
「(一撃、一撃が重い!このままでは負ける?)」
攻撃を防ぎ切れなくなり、俺の正拳突きがアンジェのお腹を見事に捉え打ち抜く。
「ぐはぁ!」
肺の空気が無理矢理、押し出され、アンジェはその場に倒れ込む。
ここで追い討ちをかけれるほど、まだサディスティックにはなれない。
ベッドの上では別で有りたいが。
一旦、距離をとり様子を窺う。
地面で苦しむアンジェは自問していた。
「(あたしが負けるの?こんな年下の子に?)」
痛みを堪えて地面を掴む。
「(負けるなんて認められない!)」
歯を食いしばり、震える下半身に力を入れ立ち上がる。
「(あきらめない!)」
強引に呼吸を整え、痛みをねじ伏せる。
「(最後まで立っているのは私だ!)」
瞳には力強い意志が宿り、クルスを見据える。
「勝つのは私だぁぁぁあ!!」
あきらめない強い意志が言霊として発せられる。
「水纏衣!!」
水色の魔力オーラがアンジェの身体を包み込んでいく。
まるで激流を纏っているかのように激しく流動する魔力オーラは彼女の闘志を現しているようだ。
「私の全力であなたを倒す!!」




