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ブレイブ クロス〜調律者は運命を奏でる〜  作者: くろのわーる
第一章

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第20話:女神からの使命

ミト村が見えると居てもたっていられなくなり、走り出した。


ギルドの入り口をくぐりエミリアさんに帰ってきた挨拶をする。


「エミリアさん、ただいま!」


エミリアさんは笑顔で迎えてくれる。


「クルス君、お帰りなさい。」


エミリアさんの笑顔を見ると帰ってきた実感と安心感が押し寄せてくる。


「森林都市では何事もなかった?」


「はい!楽しかったです!」


「それは良かったわ!」


ヒューイさんからも声をかけられる。


「腰に下げてるのを見るとちゃんと武器は買えたみたいだな。」


テーブルに座っているヒューイさんに向き直り、俺も声をかける。


「ヒューイさん、居たんですね!」


「おまっ!?」



向き直った時にヒューイさん以外の人達が視界に入る。


誰だろうと思っていると魔法使い然とした30代くらいの女性が勢いよく笑い出す。


「アハハハ!ヒューイ、あんたの言った通り、良さそうな子じゃないかい。気に入ったよ!」


女の人につられるように如何にも冒険者然としたおじさんも喋り出す。


「確かにな。仮にもギルドマスターのお前にこんな口の聞き方をするなんて気骨がありそうじゃないか?」


「仮は余分だ!俺はれっきとしたギルドマスターだからな!」


やけに親しい人達みたいだ。


一人場違いみたいに聖職者の格好をした男の人が状況が飲み込めない俺に助け舟を出してくれる。


「身内で盛り上がっていないでクルス君に説明してあげないと困っていますよ。」


「そうだったな。クルス、コイツらは俺の仲間でパーティー風の守護者のメンバーだ。」


「えっ!?そうだと思いました。」


「「「ガクッ!」」」


「わかってたのかよ!」


ヒューイさんに突っ込まれる。


「はい。皆さんのヒューイさんに対する態度とか見てて、ピンと来ました。でも、一人少なくないですか?」


「ああ、もう一人は今、トイレで糞してる。」


エミリアさんから叱責が飛ぶ。


「ヒューイ!クルス君に汚い言葉をかけないで!」


「す、すまん。」


「アハハハ!あんたら夫婦も相変わらずだね〜」


そんなやり取りをしていると最後の一人が戻ってきた。


「あ〜、スッキリしたぜ!」


みんなの視線が集中する。


「どうしたんだ?みんなして俺を見て、そんなに俺の腸内事情が気になるのか?」


「「「ならんわ!」」」


役者が揃ったところで自己紹介が始まる。



「まずはあたしからね。あたしはブレッドリー、見ての通りパーティーでは攻撃魔法を担当しているわ。エミリアから聞いたけど、あんた魔法の才能が凄いらしいね?」


「それほどでも。」


「まあ、いいわ。今度、じっくりと見させてもらうから楽しみにしとくわね。よろしく。」


言い終わると獰猛な笑顔を見せてきた。


「よ、よろしくお願いします。」


「クルス、気をつけろよ!ブレッドリーは元王宮魔術師だが気性と酒癖が悪くてクビになったヤツだ。」


「ヒューイ、あんた年取ってから元から最悪な性格がもっと最悪になったね。」


「何!?俺は事実をだな。」


「はいはい、次は俺だな。」


ヒューイさんをスルーして冒険者然としたおじさんが立ち上がる。


「俺の名はカイ。パーティーでは主に偵察をしている。この中では一番の常識人だ。」


「何言ってんだ!?お前のどこが常識人なんだよ?」


ヒューイさんから野次が飛ぶ。


「・・・ハゲ(ボソッと)」


「誰だ!?ハゲって言ったヤツ!」


「カイ、先に進めてくれ後が詰まってる。」


聖職者然の人が話しを戻そうとする。


「くっ!話しを戻すぞ。困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。」


「分かりました。困ったことがあったら相談しますね。よろしくお願いします。」


「次は俺だぜ!」


一番ガタイが良い、トイレに行っていた人が勢いよく喋り出す。


「俺はクーガー!パーティーでは前衛を担当している。俺に防げない攻撃はない!」


「あんたのせいで何回、危険に陥ったことか。」


「安心しろ!今も無事にお前は生きている!」


「見ての通り、ちょっとバカなんだ。」


カイさんが残念そうに言ってくる。


「最後は私ですね。」


聖職者には見えるが冒険者には見えない人が立ち上がる。


「私の名前はノートンと言います。」


丁寧にお辞儀してくるので座ったまま、お辞儀を返す。


「見ての通り、現在は聖職者としてこのミト村の教会で神父をしております。」


「(この村に教会なんてあったか?)」


「あのボロ小屋が教会だなんて世も末だな。」


「ブレッドリー、信じる心さえあれば、女神様はそんな小さなことは気にしないのです。」


「(俺も一回しか会ってないけど、あの女神様なら気にすると思うが言うのは止めておこう。)」


「クルス君、もしよかったら時間がある時で構いませんので祈りに来てください。」


「はい。」


「それと怪我をした時は言ってもらえれば大概の怪我は治せますので遠慮なく言ってください。」


「ノートンの治癒魔法の腕はなかなかのもんだぞ。まあ、お前も治癒魔法使えるからお世話になるかはわからないが。」


「へぇ〜、治癒魔法まで使うんだ。」


ブレッドリーさんの目が光ったように見えた。


「よし!それじゃあ最後はクルス、お前だ。」


ヒューイさんに言われ、俺も立ち上がり、自己紹介をする。


「皆さんもう分かっているでしょうがクルスと言います。」


みんなの顔を見てから続ける。


「年は12才でまだ冒険者になったばかりの若輩ではありますがこれからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。」


「なんか、挨拶が子供らしくないな。」


「確かにえらくしっかりしているな。」


うっ!?地球での感覚で普通に挨拶してしまった!


エミリアさんからフォローが入る


「それだけ苦労してきたのよ。」


エミリアさん、フォローありがとう。


「それとこっちが相棒のピノです。」


寝ているところ悪いけど、フードから出してみんなにピノを見せる。


「ミャァ〜」


ピノも挨拶をする。

欠伸のような気もしないでもないが。。。


「へぇ〜、魔女の猫なんて珍しいねぇ。」


「魔女の猫?」


ブレッドリーさんの一言に反応してしまった。


「ああ、御伽噺で魔女が出てくる話があるんだがフォレストキャットを使い魔にしてるのさ。御伽噺の猫は黒猫だけどね。」


「そうなんですか。」


「昔はフォレストキャットを使い魔にするのが魔法を使う者にとって一種のステータスだったらしいが優れた魔法の才能と運がないとテイム出来ないと言われてたんだが。ますます、面白い素材だな。」


なんか最後の方の言葉が意味深長なんだが。


「と、とりあえず、よろしくお願いします。」


お辞儀をして終わるとエミリアさんが切り出す。


「自己紹介も終わったことだし、みんなでお昼にしましょうね。」


「おう、腹と背中がくっつきそうだぜ!」


クーガーさんが待ってましたと言わんばかりに騒ぎ出した。


すぐにお昼となり、今までにないくらい賑やかな昼食になった。


ヒューイさんの失敗談を教えてもらったり、ブレッドリーさんの大失敗談を教えてもらったり、カイさんの婚活の近況やノートンさんが聖職者になった理由やクーガーさんの好きな食べ物などどうでもいい話までしていた。


「クルス、午後からはどうするんだ?」


ヒューイさんが聞いてくる。


「なんならあたしが魔法の訓練を見てやろうか?」


「有り難いんですけど寝ずに帰ってきたので午後からはゆっくりしようと思ってます。」


「それは残念。ということだからエミリア、お酒のおかわり頼むよ!」


「ブレッドリー、まだお昼なんだからあんまり飲み過ぎないでよね!」


「はいはい。」


この人、普段からこんな調子なのかな?

エミリアさんが大変そうだ。


エミリアさんといえば、お土産を渡すのを忘れていた。


「エミリアさん!」


「何?おかわり?」


俺は首を振り続きを言う。


「普段、お世話になっているからお土産を買ってきました。」


「あら!なにかしら?」


買ってきた布地を取り出し、エミリアさんに渡す。


「まあ!クルス君、これ高かったでしょ?貰ってもいいの?」


「はい!フード作ってもらったし、日頃からお世話になっているので貰ってください。」


「クルス君、嬉しいわ。ありがとう!」


布地を嬉しそうに抱えて持っていく姿を見ると心からあげてよかったと思える。



食事も終わり、依頼で出かけていたメンバー達も今日、帰ってきたばかりらしくブレッドリーさん以外のメンバーは休むとのこと。

ちなみにブレッドリーさんはお酒を飲み続けている。


ヒューイさんはギルド本部からの手紙に目を通すらしく、執務室に入っていった。


エミリアさんはあげた布地を見てどんな服にするか楽しげにブレッドリーさんと思案している。


さて、手持ち無沙汰になってしまった。


そういえば、ノートンさんが時間がある時にでも教会に祈りに来てと言っていたので教会見物がてら行ってみることにする。

場所をエミリアさんに聞いてギルドから出る。


村自体が小さいのですぐに教会?に着くが外観からはとても教会に見えないボロ小屋だった。


「(ボロいボロいとは聞いていたけど、これはひどい・・・)」


呆然と立ちすくしていると扉が開き、中からノートンさんが出てくる。


「おや!?クルス君、ひょっとして祈りに来たのかな?」


「はい…」


あまりのボロさに怯んでいるがノートンさんに強引に連れ込まれる。


中は外観に負けず劣らずのボロさだ。


枝を交差させ、紐で留めただけの十字架がある。


ありがたみのかけらも感じない。


「さあ、存分に祈っていってくれ。きっと、女神ルシリス様もお喜びになる。」


もはや、インチキ宗教みたいだ。


とにかく、来てしまったからには祈ることにする。


祈り方がわからないので適当に片膝をつき、両手を胸の前で組んでそれっぽくしてみる。


「(あ〜、あ〜、こちらクルス、こちらクルス、女神様聞こえますか?どうぞ〜)」


すると天井は屋根で覆われ光など入らないのに俺の周りを光の柱が包み込む。


「「!?」」


「(ハイハイ!こちら女神、聞こえていますよ。どうぞ〜)」


「(ご、ご無沙汰してます。それにしても返事早いですね。)」


「(それはずっと見ているからね。)」


「(意外と暇なんですか?)」


「(心外ね。私が転生させて送り出したんだから観察と状況確認をするのは当たり前でしょ?)」


「(そう言われればそうですね。いや、そもそもなんで普通にやり取りしてるんですか?)」


「(それは条件が揃った状態であなたが呼びかけたからよ)」


「(条件ですか。)」


「(元々、私が造ったあなたとは親和性が高くて繋がりやすく、教会という特殊な場所だったからね。)」


「(じゃあ、条件さえ満たせば今後もやり取り出来るってことですね。)」


「(そうね。ただ、あまり人に見られると使徒として崇められるかもしれないわね。)」


「(それは面倒ですね。)」


「(それはそうと異世界にもだいぶ慣れてきたみたいね。)」


「(はい。慣れましたけど、困ってることがあります。)」


「(困ってること?)」


「(スキルで効果がよくわからないものとかがあるんですけど、なんとかならないですかね?)」


「(なるほど、それは自分で調べてと言いたいところだけど・・・)」


「(・・・・)」


「(そうね!良いことを思いついたわ。)」


「(良いことですか?)」


「(特別にスキル解説チートを追加で授けます。ただし!)」


「(ただし?)」


なんか嫌な予感がする。


「(ただし、この教会を綺麗に建て直したらにします。)」


「(やっぱり、この教会はないですよね。)」


「(ないわね!)」


キッパリ言い切った。


「(彼の私を崇拝する心は買うけど、だからといってこのボロ小屋では最高神である私の威厳に関わるからね。)」


「(確かに俺が神だったとしても気にしますね。)」


「(そういう訳でクルス、あなたが教会を建て直した暁には追加でチートを授けます。むしろ、立て直すことを命じます。)」


「(スキル解説ほしいので頑張りたいとは思うんですけど、教会どころかまともに日曜大工すらしたことがないんですけど。)」


「(私が授けたチートとスキルや魔法を駆使すれば出来るはずよ。)」


「(はい。)」


「(それとこれは私からの初めての使命だからなるべく、他人の力を借りないように!)」


厳し過ぎないだろうか。


「(・・・はい。)」


「(それじゃあ、新しい教会楽しみにしているわね!その時まであなたを見守っているから!)」


女神様が言い残すと俺を包んでいた光の柱は消えた。


俺は専門外の使命を受け、ため息をついて立ち上がり振り返るとノートンさんが震えていた。


「まさか、我が教会で女神様からの啓示を受ける者が出るとは誠に有り難き事!」


感銘を受けているところ悪いけど、その教会を綺麗に建て直せと言われたとは言い辛い。


「クルス君!女神様はなんとおっしゃっていましたか?」


目が泳いでしまう。


「ノートンさんの信心は素晴らしいけど、この教会はボロ過ぎるので僕に建て直すよう言われました。」


「なんと!?」


この際だから、言うだけ言っておこう。


「女神様も女性ですから僕もこの教会はないと思います。それでは僕は立て直す為の準備をしますので失礼します。」


女神様に懺悔しているノートンさんを脇目に教会を後にする。


ギルドに向かいつつ、考える。


まず、建て直すにしても無断で建てるのはマズい気がするのでヒューイさんに話を通しておくかな。

啓示を受けたなんて言ったらまたなんか言われそうだ。


重い足取りでギルドに着き、ヒューイさんがいたのでことの顛末を説明する。


「ふ〜ん、そうか。」


予想と違う反応が返ってきた。


「それだけですか?啓示を受けちゃったんだからもっとこう。」


「いや、クルスだしな。」


駄目だ。ヒューイさんの中で俺は変わった奴どころかとことん変わった奴に位置付けられてる。


「それにしてもさすが女神様だね〜あたしも神だったらあんな教会願い下げだもんね。」


ブレッドリーさんも言うよね〜。


「ちょっくら、ノートンの奴を励ましてくるかな〜」


そう言ってなぜか嬉しそうに出て行った。


「ここぞとばかりに慰めに行ったな。とうとうノートンも落とされるんじゃねえか?面白そうだから見に行くか。」


なるほど、ブレッドリーさんはノートンさんのことを好いていると。


「ヒューイさん、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて亡くなるらしいですよ。」


「なんだそりゃ?まあ、俺は馬に蹴られたごときでは死なないからな。行ってくる。」


やっぱり、行くんだ。


「クルス君、教会なんて建てれるの?」


心配そうにエミリアさんが聞いてくる。


「女神様がいうには僕なら出来るそうです。」


「そう。女神様が出来るって言うならクルス君のことだし出来るのかな。」


あれ?エミリアさんの中で俺の位置付けもおかしくなっているような。


「クルス君の建てる教会楽しみにしてるわね!」


「・・・・はい。」


こうなったら俺が培ってきた知識とスキルをフル活用して建ててやる。



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