第17話:森林都市
「お前がクルスか?俺と勝負しろ!」
俺はカウンターにいるエミリアさんに帰ってきた報告をする。
「エミリアさん、ただいま〜!」
「え?ええ!クルス君、おかえりなさい。」
変な男を華麗にスルーしたつもりだったがエミリアさんを動揺させてしまったみたいだ。
「今日も大漁ですよ!」
「ええ。」
エミリアさんは俺と変な男を交互に見ている。
俺は気にせず、続ける。
「さっそく、出しても良いですか?」
「ちょっと、待てぇー!」
なんか、騒いでいるヤツがいる。
「俺を無視するなぁー!」
「なんですか?」
「だから、今から俺と勝負しろ!」
「・・・ふぅ〜」
俺はエミリアさんに向き直り、清算して貰おうとする。
「てめぇ〜!!」
ヒューイさんが間に入ってくる。
「クルス、勝負受けてやれ!」
「勝負を受ける理由がないです。」
「理由ならあるさ。」
「ん?」
「俺がマックスに頼んだからな。」
「どうして、ヒューイさんがマックスさんとやらに頼んだんですか?」
「それはクルス、お前を森林都市に連れて行ってやろうと思ってな。マックス達に頼んだんだが。」
血管を浮き上がらせ、顔を赤くしたマックスが言う。
「俺はガキのお守りは御免だからな!断ろうと思ったらヒューイさんが俺と実力が良い勝負だっていうから確かめてやる。」
なるほど、だいたい話しが飲めてきた。
森林都市に俺を連れて行ってやろうと思ったヒューイさんが心配してマックス達に頼むがガキのお守りは御免だと断われ、お前と実力は同じくらいだからお守りじゃないとプライドでも傷つけたといったところか。
森林都市か、行きたいかな。
「じゃあ、受けます。」
「素直にはじめから受けろや!」
なんか、怒ってるな?
「クルス、マックスは昔、俺に指導を受けていたんだ。」
ほう〜、つまりは兄弟子。
「外が暗くなる前に終わらせてやる!」
同感だ。
みんなで訓練場に移動する。
念の為、ピノはエミリアさんに預ける。
俺とマックスは向かい合い、間にヒューイさんが入ってくる。
「わかってるとは思うが殺しは無しだ。危ないと思ったら俺が止めるからな!」
「ヒューイさん、こんなガキ、すぐに終わらせてやりますよ!」
マックスが鼻息を荒く、息巻く。
「(試してない、新しいスキルの確認するのにちょうど良いかな。)」
お互いに距離を取り、構える。
俺はヒューイさんの声がかかる前に相手の獲物を確認する。
片手剣にヒューイさんが使っているバックラーより一回り大きな盾。
盾を全面に出し、剣は中段に構えている。
ヒューイさんは同じくらいの実力と言っていたが問題なく勝てる気がする。
ヒューイさんが手を上に上げ、一気に下げる。
「はじめっ!」
お互い同時に前に出る。
マックスの方が獲物が長い分、先に剣を振るモーションに入る。
問題なく受け止めれると判断し、そのまま、俺の間合いまで近づく。
キィン!
左手のナイフで受け、右手は流れるようなナイフ捌きで斬りつける。
かろうじて盾で防いだマックスだが足元がお留守になっていたので足払いという名のローキックを放ち、転がす。
倒れたマックスの上に体を滑り込ませるように乗り、喉にナイフを突きつける。
「そこまで!」
ヒューイさんから終了を告げる声がかかる。
俺は立ち上がり、マックスの上からどいてナイフを鞘にしまう。
チィン!
「ちょっと、待て!待ってくれ!」
マックスが困惑と焦ったようすで立ち上がり言い訳しだす。
「今のは少し油断しただけだ!」
いや、その時点でダメだろう。
「もう一度、勝負だ!」
俺は困った顔をして、ヒューイさんを見るとヒューイさんも少し困った顔をして、頷いた。
言葉は語らなかったがアイコンタクトでもう少しだけ付き合ってやってくれと言っているようだ。
俺は軽くため息をして、答える。
「いいですよ。ただ、次で終わりですよ。」
「ああ、次は本気でやってやる!」
また、お互いに位置について向き合う。
マックスはさっきと違う構えだ。
盾は全面に出したままで中段に構えていた剣の切っ先を俺に向け、突きでも狙っているようだ。
俺もナイフを抜き放ち、構える。
2人の準備が整ったと判断したヒューイさんが開始の声を上げる。
「はじめっ!!」
お互いさっきと同じように進み出る。
先制はマックスだ。
思った通り、突きを放ってくる。
「うおぉー!」
突きの軌道を見極め、右手のナイフで軽くいなしつつ、マックスの右側に回り込み、左手のナイフを首筋に添える。
「そこまで!」
ヒューイさんの声が響きわたる。
「・・・・っ!?」
ガランガラン!
マックスはよほど、ショックだったのか、剣と盾を落とし膝から崩れるように地面に手をついてしまった。
ヒューイさんに目を向けるとマックスを見たまま、やるせない顔をしていた。
「(マックス、すまん。俺のせいだな。)」
俺は掛ける言葉が浮かばないし、持ち合わせてもいないのでピノを引き取りにエミリアさんに寄っていく。
「(俺がマックスに頼んだのが3日前か、5日前のクルスだったら本当にいい勝負が出来たはずなんだがクルスの成長力を考えていなかったな。特に今回の成長は異常だが。)」
体術と短剣術と回避を最大にしたせいである。
「(参ったな。ここまで圧倒されたヤツになんて声をかけようか。)」
それでもなんとか声をかけないといけないヒューイはマックスに近寄り、肩に手を乗せて声をかける。
「マックス、今回は俺のせいで悪かったな。」
「・・・・」
「俺がちゃんとクルスの実力を見極めていれば、お前に恥をかかすことにならなかったのに。」
「・・・いえ、ヒューイさんは悪くないです。自分が色々と未熟だった、それだけです。」
ゆっくりと立ち上がり、俺の方に近づいてくると急に頭を下げて謝りだした。
「ガキ扱いしたことを詫びさせてもらう。すまなかった。」
謝られてはこちらも失礼な態度をとったことを謝るしかない。
「いえ、こちらこそ目上の方に失礼な態度、すみませんでした。」
お互いに謝罪したところでヒューイさんが少しホッとした顔でまとめる。
「とにかく、丸く収まって良かったぜ。」
ある意味、あんたが原因だけどなと心の中で毒づきながらも大人しく聞く。
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな。」
その場で紹介をはじめようとするヒューイさんをエミリアさんが止め、ギルドの中でゆっくりと自己紹介することになった。
ギルドの中に移動し、みんなでテーブルにつくとマックスさん達が自己紹介し始めた。
「改めて、自己紹介させてもらう。俺はマックス。Dランク冒険者でCランクパーティー翼の運び手のリーダーをしている。よろしくな。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「次は俺だ。俺はトム。マックスと同じくDランク冒険者でパーティーでは前衛を担当している。」
トムさんは金属製の防具で身を固めた重装備だ。
「俺はジャック、見ての通り弓使いだ。ランクは同じDだ。」
ジャックさんは目つきが鋭く物静かな根っからの狩人といった感じだ。
「僕はケント、みんなと同じDランクで魔術師をしています。」
少し気が弱そうな印象を受ける人だ。
「僕はクルス。冒険者ランクはEです。こっちは相棒のピノです。」
一通り、自己紹介も終わり、ヒューイさんが話しを進める。
「それで改めて、お願いさせてもらうがマックス、クルスを森林都市まで連れて行ってくれないか?」
「はい。ガキのお守りじゃないっていうのがクルスの実力でわかったので構いませんよ。お前らも文句ないだろ?」
そういって、他のメンバーに聞く。
「マックス、そもそもゴネてたのはお前だけだ。」
トムさんがツッコミ、他の2人は頷く。
「くっ!そういう訳で問題ないです。ヒューイさん。」
「おう!ありがとうな。これでクルスの武器の目処が立つかな。」
「僕の武器ですか?」
「今、使ってるナイフじゃ物足りなくなってきてるだろ?腕前と獲物があまりにも釣り合ってないからな。魔法も使えるお前にはいらぬお節介かもしれないがな。」
確かに今使っているナイフには攻撃力不足を感じてはいる。
「それとミト村以外の場所も見してやりたかったのといつも1人で狩りをしているからパーティーでの行動や野営の仕方とか勉強になることも沢山あるだろうからな。」
確かに。
「マックスさん、トムさん、ジャックさん、ケントさんよろしくお願いします。」
「クルスの腕前ならこちらからお願いしたいくらいだ。よろしくな。」
トムさんが快く返事してくれた。
「それにしてもその年でかなりの実力だな。」
「ヒューイさんの教え方がいいんじゃないですかね?」
ヒューイさんの方を見ると苦笑いしていた。
「ヒューイさん、そういえば、広場に村の人達が集まっていましたけど?」
「それはそうだ。商隊が来てるんだからな。」
マックスさんも答えてくれる。
「そして、俺達が商隊を護衛してきたのさ。だから、森林都市に戻る時に一緒に行けばいいさ。」
その後、今日の狩りの清算をして、金貨7枚銀貨6枚になった。
ボアタックルの肉はみんなで食べるため、タダで提供した。
大人数での食事は賑やかでみんなでヒューイさんにしごかれた話しで盛り上がった。
出発は明日の早朝な為、今日は早く寝ることにする。
◇◇◇◇
早朝、なんとか自力で起きていつもの準備を整えて一階に降りていく。
どうやら、俺が一番最後だったようで急いで席につく。
マックスさんが話しかけてくる。
「クルス、飯食ったらすぐに出るぞ!」
「はい。」
急いで朝食を取り、ヒューイさんとエミリアさんに挨拶する。
「ヒューイさん、エミリアさん行ってきます!」
「おお!迷惑かけるなよ!」
「はい!」
「クルス君、これ持っていってね。」
「これは?」
「携帯食料よ。仮にも護衛依頼でついていくんだから食事は歩きながらになるかもしれないからね。」
まじか!?
「ありがとうございます。」
もう一度、エミリアさんにお礼を言ってから馬車がある場所に駆けていく。
「お待たせしました。」
「それじゃあ、行きますか?」
馬車に乗った商人の人がマックスさんに声をかける。
「はい。全員、出発だ!クルス、お前は俺と一緒に来い。」
「わかりました。」
マックスさんのもとに行き、一緒に歩き出す。
人の配置は4人で馬車を囲む形だ。
先頭を索敵が得意なジャックさん、後ろをトムさんが守り、左側をケントさんがそして、俺とマックスさんが森側の右を守りながら進む。
「マックスさん、色々聞いてもいいですか?」
「俺が答えれることならな。」
「森林都市までどれくらいかかるんですか?」
「1日半くらいだな。」
結構、かかるんだな。
「魔物の襲撃とかってあるんですか?」
「この辺りはかなり安全だからほぼないな。実際、来る時は何も起こらなかったが油断はするなよ。」
「はい。」
そんな感じで質問や会話などをしているうちに時間はお昼になったがエミリアさんが言った通り、歩きながらの食事となった。
休憩はなく、日が落ちるまでは歩き続けるらしい。
地味にしんどいがマックスさん達はパーティー名が翼の運び手というだけあって護衛依頼を中心に受けているらしく慣れたものだ。
ひたすら歩き続け、空が赤らんできた頃、マックスさんが全員に声をかける。
「全員、今日はここらへんで野営するぞ!」
「「了解!」」
声がかかるとそれぞれが準備をし始めた。
ジャックさんは周囲を警戒し、トムさんとケントさんは野営の準備を始める。
俺とマックスさんは森へ薪を取りに行くことになった。
「クルス、ある程度集めたら戻ってこいよ。それとあまり奥まで行くなよ。」
「はい。」
薪を集め、野営地に戻ると鍋でスープを作っていた。
ケントさんが声をかけてくる。
「クルス君、薪集めご苦労様。この辺に置いといてくれるかな。」
「はい。」
薪を置き、次に何をすればいいのか分からないので聞いてみる。
「次は何すればいいですか?」
「とりあえず、休憩でいいぞ。」
トムさんが答えてくれる。
ただ、休憩するだけなのもなんなので仕事ぶりを見て覚える。
そして、自分に足りないものを見つける。
今後、冒険者をしていく上で料理スキルや野営の道具とか知識も必要だなと考えたりしているとご飯が出来上がり、ジャックさん以外が集まってきた。
「よし!ご飯が出来たぞ。」
「ジャックさんは呼ばなくていいんですか?」
マックスさんが答える。
「ジャックは見張りだからな後で交代で食事を取るんだ。」
なるほど、食事中も気を抜かないんだな。
「それと夜の見張りにクルスも加わってもらうからな。」
「分かりました。」
「見張りは2時間置きに交代だ。」
結構、ハードかも。
食事も終わり、最初の見張りにつく。
見張りの振り分けは俺、マックスさん、ケントさんの3人とジャックさんとトムさんの2人で交互に行う。
見張りの最中にも気づいたことがある。
地球にいた頃と違って月明かりだけが頼りでほとんど、真っ暗で何も見えない。
夜目スキルか暗視スキルの取得も考えておかないとな。
交代を繰り返し、夜が明ける。
軽めの朝食、ほぼスープを飲んで出発する。
ひたすら歩き、そろそろ昼に差し掛かろうかという頃、森林都市を守る防護壁が見えてきた。
「クルス、あれが森林都市だ。」
あれが森林都市か。




