第15話:休息日
朝、ケガの影響もなく、いつもと同じ時間に目が覚めた。
徐々に習慣になりつつあるようだ。
まだ、枕で丸まっているピノを置いて顔を洗いにいく。
エミリアさんに元気一杯のところをアピールするが本日の休息が覆ることはないようだ。
部屋に戻って、寝ているピノを連れて一階でいつものように朝食を取りながら会話する。
会話の内容はもっぱら、俺の非常識に呆れるというものだった。
「昨夜、見た時に予想外に元気だと思ったら回復魔法まで覚えたのか。」
「そうなのよ。食事を取りに少し離れた間によ!」
「あはは・・・」
「次はもっと強めにしても大丈夫そうだな・・・」
「ヒューイ・・・」
「なんでもないです!!」
一瞬、ギルド内の温度が下がったように感じた。
「ところでクルス君は今日の予定は決まってるの?」
「まだ、決めてないです。」
「そう、休息日なんだからゆっくりするといいわ。」
朝食を食べ終わり、ヒューイさんはギルドマスターの仕事へと俺とエミリアさんは食器を洗い、後片付けをし終わるとエミリアさんが一枚の服を持って俺に手渡してきた。
「はい、クルス君!」
「これは?」
「クルス君の為に作ったのよ。サイズが合えばいいんだけど?」
俺は服を一度広げ、確認してから袖を通した。
どうやらフードが付いているみたいだ。
「どうかしら?」
「ピッタリです!エミリアさん、ありがとう!」
「どういたしまして!それでね、ピノちゃんを抱いたままだと大変だと思ってフードを付けてみたの。」
さすがエミリアさん、気遣いがハンパない!
名前を呼ばれ、窓際で日向ぼっこしていたピノが寄ってきた。
「ミャ〜!」
一撫でしてからピノを抱え上げてフードに入れてみる。
抵抗することなく、フードに潜り込んでゴロゴロ言いながら前足でモミモミし始めた。
「気に入ってくれたみたいね!」
「ミャ〜ミャ〜!」
ほんとに気に入ったみたいでそのまま、丸まって寝てしまった。
「エミリアさん、ありがとう!ピノも気に入ったみたいですね!」
「いいのよ。何だったらクルス君が持っている服にもフード付ける?」
「お願いします。ついでに僕にも裁縫を教えてください。」
「わかったわ。じゃあ、他の仕事早く終わらせちゃうから少し待っててね!」
「はい!」
◇◇◇◇
エミリアさんの家事も終わり、ギルドのテーブルに持っている服を出して教わりながらフードを縫い付けていく。
「(職業:縫製師が選択可能になりました。)」
縫製師1/40
紡績5SP
裁縫5SP
TEC強化100SP
「ここはこうするのよ。」
「なるほど。」
裁縫なんて正直、学生時代に家庭科の授業でやって以来だ。
ただ、縫うだけというのも何なので世間話をしてみる。
「エミリアさん。」
「何?」
「ヒューイさんと一緒になる前は王都にいたって聞きましたけど、王都ってどんなところですか?」
エミリアさんは手を止めることなく、話し始める。
「そうね〜。王都は大きく分けて3つの区域に分けられているわ。王族や貴族が住む上流階級区と商人や平民が暮らす、中流階級区、仕事を求めて近隣の町から流れてきた人々が住む下流階級区ね。」
「上流階級区には高級なお店や王立学院があるわね。」
「学校があるんですか?」
「あるわよ。クルス君、学院に興味あるの?」
異世界に来て、学院に通う。まさに王道ストーリー!
「はい!興味あります!どんなことを習うんですか?」
「え〜と、中等部は基礎知識や国の歴史、基礎魔法や基礎戦闘など基本的な事を習うと思ったわ。」
「中等部?」
「学院は12才から15才までの中等部と15才から18歳までの高等部があるの。」
「僕、12才ですけど入れますか?」
「残念だけど、受付はもう終わっているから入れないかな。」
ガックリ。。
「でも、高等部から入学することは出来るからあまり落ち込まないでね。」
天は俺を見放さなかった!
「ただ、、、」
ただ?
「ただ、入学試験があって入学費用が金貨50枚だったと思うわ。」
今の俺の所持金は女神様から貰った分も合わせて金貨15枚くらいだから後、約3年あるし大丈夫そうだな。
「クルス君なら試験も費用も大丈夫そうだけどね。」
「僕も大丈夫だと思います。」
「自信満々ね!」
「はい!それで高等部ではどんなことを習うんですか?」
「高等部ではね。」
そこへ通りすがりのヒューイさんが口を出してくる。
「高等部の入学試験を受けるとまず、騎士科、魔法科、冒険科のうち一つを選択してその科にあったテストを受けることになる。」
この人、通りすがりの説明する人の役が板についてきたな。
「騎士科なら教官相手に1対1の実技、魔法科なら魔法の実技、冒険科は知識のテストって具合にな。」
なるほど。
「それぞれの科には定員数が決まっていて上位者から合格する仕組みだ。」
「定員数は何人なんですか?」
「確か、騎士科が300人で魔法科が150人、冒険科が150人だったと思う。」
入るなら魔法科がいいな!
「騎士科だけ人数が多いんですね。」
「近隣国との小競り合いが続いているから騎士は不足しているんだ。」
「なるほど。学院に入るのって難しいんですか?」
「学院に入るやつらは貴族や裕福な家庭のやつらが多くて幼少から家庭教師に指導を受けたやつらだから平民が合格するのは普通は難しいがクルスなら楽勝だろう。」
「ヒューイさんは学院に通ったんですか?」
「俺は通わなかったな。その頃はひたすら迷宮に潜ってたな。」
「学院に行かなくてもヒューイさんみたいに一流になれるんですね。」
「冒険者ってのは本人の資質とほとんどは運だからな。ただ、学院に通うのは良いことだぞ。」
「例えば、どんな良いことがあるんですか?」
「まず、学院が管理している迷宮で安全に経験を積むことが出来て、将来の仲間が出来るかもしれないし、人脈が広がるかもしれないところだな。」
「学院が迷宮を管理してるんですか?」
「ああ、オーランド王国の始祖、今の王様の祖先が迷宮のダンジョンマスターを倒してな、管理するようになって村が出来、村が町に町が都市といった具合に発展していって今のオーランド王国に至るわけさ。」
「ダンジョンの管理なんて出来るんですか?」
「ダンジョンには源であり、ダンジョンコアと呼ばれる装置でコントロールすることが出来るらしい。」
「ダンジョンコアですか?」
「そのダンジョンコアのおかげで王都にあるダンジョンは1日1回までなら死んでも死ななかったことに出来るように設定されてんだ。」
「すごいですね。」
「ああ、そこで3年かけて迷宮に潜ったり、ギルドで依頼を受けて卒業するのさ。」
「お前なら首席で卒業も夢じゃないだろうな。」
今後の目標が出来たな。
当分は入学資金稼ぎと変わらず強くなることだけど、明確な目標が出来ると気持ちが違うな。
今まで黙っていたエミリアさんが口を開く。
「私が説明してあげようと思ったのにまた、ヒューイが勝手に説明した!」
どいやら拗ねているみたいだ。
「わりぃ、わりぃ!」
すかさず、ヒューイがフォローする。
「それとなクルス、王都はいいぞ!なんたって王都のギルドはオーランド王国のギルドの本部だからな、美人揃いだ。エミリアも昔はオーランドの百合の花なんて言われてたんだぞ。」
「・・・昔は?」
今、俺の前にはフォローしようとして墓穴を掘った男がいる。
「いやっ!?もちろん、今も綺麗だぜ!!なっ!クルス、お前もそう思うだろ?」
「はい!エミリアさんは僕にとって理想の女性ですから!」
なに!俺にふってんだよ!
「うふふ。クルス君、ありがと、嬉しいわ!」
難は脱したようだ。
「残りの服も私が縫ってあげるわね!」
気付けば、ヒューイさんがいなくなっていた。
逃げたな。
「そういえば、スキルについて調べたいんですけど、どうしたらいいですかね?」
「それは詳しい人に聞くのが早いけど、自分のスキルがバレる可能性があるから図書館で調べるのが一番じゃないかしら?」
「この村に図書館があるんですか?」
「・・・ないわね。」
だよね〜
「王都にあるんですか?」
「そうよ。王立図書館ならスキルだけじゃなくて職業の本とか色々あったはずよ。」
一応、スキルについては目処が立ったのかな。
職業の本も凄く気になる上手くいけばたくさん職業を覚えれるかもしれないな。
裁縫に悪戦苦闘していると日も暮れて外が暗くなり始めた。
ピノはよほど気に入ったのか、ずっとフードの中で寝ていた。
夕食になると出てきたが食べ終わるとすぐにフードに戻って眠り始める。
そんなピノに癒やされながらもなんとかフードを付け終わり、ほとんどエミリアさんがやったが疲れたので身体を洗って眠った。




