第12話:白猫
翌朝、起きると一階にはすでにヒューイさんがいつものようにテーブルで飲み物を飲んでいた。
「ヒューイさん、おはようございます。昨日は遅かったんですね。」
「ああ、手紙のついでに野暮用を済ませていたら遅くなっちまった。それより、早く顔を洗ってこい。もうすぐ、朝食が出来るぞ。」
「は〜い」
顔を洗い、定位置になりつつある席に着く。
エミリアさんと顔を合わせたがいつもと変わらないすこぶる笑顔だった。
「今日の予定はどうするんですか?」
ヒューイさんに聞いてみる。
「今日はいつも通り、午前中に狩りに行ってお前の魔法の腕前を見せてもらって、午後もいつも通り俺と訓練だ。」
「分かりました。」
対人戦用の魔法も考えてあるので午後の訓練で試さして貰おう。
「今日も無理しないように気をつけてね。」
「はい!」
朝食を終えると部屋に戻り慣れた手つきで防具をつけていつものようにヒューイさんが待つ、一階へ向かう。
エミリアさんに行ってきますの挨拶をし、出かける。
ギルドを出ると駆け足で大森林の手前まで行く。
「エミリアに聞いたがフォレストスパイダーをかなりの数、狩ったらしいな?」
「はい。20体ほど狩りました。」
「そうか、なら今日もフォレストスパイダーを魔法で狩るところを見して貰おうか。」
「はい」
「それと今日はお前が先導してみろ。」
俺は頷き、気配察知と遮断を発動させ、大森林の中に入っていく。
「(たった2日、見なかっただけで気配遮断がかなり上達してやがる!?相変わらず、末恐ろしい奴だ。)」
大森林での移動は息があがらない程度にハイペースで突き進んでいった。
「(移動スピードも最初と比べものにならない位速くなってやがる。しかも、まだ余裕が有りそうだしな、この調子だとそう遠くないうちに俺を超えるかもしれないな。)」
ヒューイが軽く戦慄を覚えているうちに目的地についた。
俺はヒューイさんに視線を送るとヒューイさんは黙ったまま頷き、見学モードに入ったので狩りを始める。
地図で魔物の位置を確認し、手短なところから始めた。
「(まずは新しい魔法を試してみるか。)」
魔物を補足し、魔法を発動する。
「アースランス!」
土で出来た槍がフォレストスパイダーに向かって飛んでいく。
ザシュッ!
土の槍は容易く、フォレストスパイダーをつらぬき一撃で仕留めた。
様子を見ていたヒューイが驚く。
「(なっ!?)」
俺は気にすることなく、魔石などを回収すると次の獲物へと移動する。
「(次はアイツだ!)」
「アーススラッグボール!」
トゲトゲの塊がフォレストスパイダーに飛んでいく。
グシャッ!
またもや、一撃だ。
「(魔法レベルを上げただけあって威力が確実に上がったな。)」
その後も同じように魔法を放ち、一撃で屠っていく。
「アクアランス」、「フレイムランス」、「ウォーターカッター」、「ウインドスラッシュ」
10匹ほど倒した時だった。
「(レベルが上がりました。)」
「(拳士のレベルがMAXに達しました。条件が満たされた為、拳闘士の職業が選択可能になりました。)」
拳闘士1/70
受け流し10SP
見切り10SP
威圧10SP
DEF強化100SP
「(短剣士のレベルがMAXに達しました。条件が満たされた為、双剣士の職業が選択可能になりました。)」
双剣士1/70
二刀流10SP
見切り10SP
ATK強化100SP
「(短剣士のレベルがMAXに達しました。気配遮断レベル6の条件が満たされた為、暗殺者の職業が選択可能になりました。)」
暗殺者1/70
暗殺術10SP
暗視5SP
気配遮断5SP
無音歩行10SP
SPD強化100SP
ついに下級職業をマスターした!
さっそく、職業を変更してステータスを確認する。
クルスLV:40
冒険者LV:1/40
魔術士LV:1/40
HP:1210
MP:820
SP:300
ATK:410
DEF:328(+20%)
INT:328
RES:410
TEC:410
SPD:492(+20%)
LUK:300
★短剣士、★拳士
マスターしたジョブが追加された。
1人でにやけていると後ろからヒューイさんが声をかけてきた。
「クルス、魔法の実力は大体分かったから少し早いが今日は切り上げるぞ。」
「わかりました。」
俺はスキップをしたい気持ちを抑えて、魔石などを素早く回収していく。
「回収し終わったみたいだな。それじゃあ、帰りもお前が先導してくれ。」
「はい!」
来た時と同じように村に向け、駆け足で帰る。
帰っている途中、索敵に反応があり、確認するとゴブリンが3匹いた。
ゴブリンは繁殖力が強い為、積極的に狩ることがギルドから推奨されている。
たいした手間でもないので近寄っていき、魔法で仕留める。
「(3匹で固まって、何か笑っているな?)」
不思議に思ったが構わず魔法を発動させる。
「アースニードル!」
魔法レベルが上がった為、指定出来る範囲などが増え、針の数も複数出せる。
3本同時に大地の針を発動させる。
「「「グギャッ!」」」
「(レベルが上がりました。)」
ゴブリン達を一撃で始末し、回収の為に近寄っていくとゴブリン達の中心に血だらけの子猫が今にも息絶えそうに横たわっていた。
急ぎ駆け寄り、手で抱き上げて回復魔法を使う。
「ヒールウォーター!」
「ヒールウォーター!」
「ヒールウォーター!」
なんとか回復が間に合ったようで一定のリズムで息をしはじめた。
ついでに血で汚れた体を綺麗にしてあげる。
「ウォーターウォッシュ!」
「エアーウォッシュ!」
オリジナル生活魔法だ。
ヒューイさんが後ろから覗いてくる。
「珍しいな。」
「なにが珍しいんですか?」
「コイツはフォレストキャットだ。しかも、特殊体だな。」
「どれくらい珍しいんですか?」
「フォレストキャットはかなり警戒心が強くてな出会えたら、良い事が起こる前触れなんていう言い伝えがあるくらい珍しい。冒険者をやっていても1度も出会えずに一生を終える冒険者も多い。しかも、特殊体ときたもんだ!」
「ヒューイさんは見たことあったんですか?」
「ああ、小さかった頃に1度な。」
「さっきから特殊体って言ってますけど、普通のフォレストキャットとどこが違うんですか?」
「普通のフォレストキャットは森の中で景色に溶け込むように体毛が茶色でしま模様があるんだがコイツは真っ白だからな、恐らく親に捨てられたんだろう。」
「なんで真っ白だと親に捨てられちゃうんです?」
「フォレストキャットは家族で固まって暮らしていると云われている。その家族の中に1匹だけ真っ白では目立って、家族を危険に晒すことになるからな、見捨てられちまったのさ。」
「・・・・・」
「自然界ではごく当たり前で特別、珍しいことではないさ。」
話しているうちに子猫が目を覚ます。
「ミャ〜!」
俺は子猫を撫でながら優しく声を掛ける。
「もう、大丈夫だぞ。痛いところはないか?」
子猫は俺の瞳を見つめながら鳴く。すると!!
「(テイムに成功しました。職業:魔物使いが選択可能になりました。)」
魔物使い1/40
鞭術5SP
テイム5SP
絆の力5SP
従魔強化10SP
SPD強化100SP
「っ!?」
「クルス、どうした?」
「テイムしちゃったみたいです!」
「・・・・なんていうか、お前には呆れるしかないな。」
「連れて帰って良いですか?」
ダメと言われても連れていく気だ。
「まあ、テイムしたものはしょうがないしな、いいんじゃないか?」
「やったー!」
「あんまり喜んでもいられないぞ。」
「なんで?」
「ただでさえ、フォレストキャットはレアな魔物なのにその上、特殊体だ。金に目が眩んだヤツらから狙われることになるかもしれないからな。」
「そんなヤツら返り討ちにします!」
こんな可愛い子を悪いヤツらに渡すわけにはいかない!
「まあ、そうだな。それにそのフォレストキャットも鍛えればとんでもなく強くなるかもしれないしな。」
「そうなんですか?」
「ああ、一般的にレアと言われる魔物は潜在能力が高く、特殊能力を持っているのがほとんどだ。俺は過去に変異種や特殊体の魔物と何回か戦ったことがあるがどれも厄介な相手だった。」
「ちなみにどんな魔物だったんですか?」
「そうだな、青いゴブリンとか皮膚がメタルのオークや4本腕のオーガだったな。」
「青いゴブリンですか?」
「ああ、水系や氷結系の魔法を使ってきてな、魔法を使うゴブリンは他にもゴブリンマジシャンとかがいるんだが特殊体や変異種の厄介なところは成長率が一段階か二段階、通常の種より高くなってんだ。その為、見た目で判断すると痛い目を見るのさ。」
「へぇ〜、じゃあ、この子猫も通常より成長率が高いんだ。」
「ああ、そうだ。」
俺は子猫に話しかける。
「お前、すごいな!これから一緒に強くなっていこうな!」
「ミャ〜!」
「ギルドに帰ったら、パーティー登録するんだな。」
「パーティー登録出来るんですか?」
今日は聞いてばかりだ。
「勿論、出来るぞ。そうすれば、まだ子猫で戦えなくても経験値は貰えるからな。」
帰ったら、さっそく登録しよう。
「ヒューイさん、早く帰りましょう。」
「そうだな。」
◇◇◇◇
「エミリア、帰ったぞ。」
「お帰りなさい。」
「エミリアさん、ただいま!」
「クルス君もおかえり。」
「ミャ〜!」
「どうしたの?その子猫。」
「クルスがテイムしたんだ。」
「テイムしちゃいました。」
エミリアさんに見せるように子猫を抱きかかえる。
「キャー、可愛い〜!」
エミリアさんがものすごい勢いで迫ってくる。
「クルス君、私にも抱っこさせて欲しいな。」
目を輝かせ、甘えてくるエミリアさんに素直に子猫を差し出す。
「どうぞ。」
「ありがと。イヤ〜ン、可愛い〜!」
撫でたり、頬ずりをし子猫を堪能し終わると子猫を返してくれた。
「ところでその子の名前は考えたの?」
すっかり忘れていた。
「まだ、考えてなかったです。」
そこへヒューイさんが名前を上げる。
「嵐丸とかどうだ?」
「「絶対、嫌!!!」」
まさか、自信があったのだろうか?
ヒューイさんはうなだれながら落ち込みだしたが無視して名前を考える。
そもそも、オスなのかメスなのかを確認していなかった。
子猫を抱き上げて、確認する。
女の子だった。
なので可愛い名前が良い!
頭の中で色々な名前を考えていく。
「よし、決めた!」
「今日からお前の名前はピノだ!」
「ミャォ〜ン!」
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