第5話「王都を目指して」
朝目が覚めると自分の胸にある2つの膨らみに目を向けそういえば女になって異世界来たんだった……と自分の状況を再確認した。
実は長い夢を見ていただけでした。というオチでなかったことに安心した。
ベッドから下りて伸びをすることで眠気を追い出してから改めて自分の体を見ると服にシワがついていて昨日何も考えずに眠ってしまったことを後悔した。
「ゲームじゃないんだからメイド服のままで寝ればシワもつくに決まってますよね……」
アイテムボックスから別のメイド服を出してベッドに置いて、早速着替えるために着ている服を脱ぐが、自分の体とはいえ女の下着姿に気恥ずかしさを感じ少し手を止める。
人目に触れない場所にまで拘らなかったため着ていたのは初期装備のスポーツブラのようなものだったので、どうせならそのうち下着とかも買おうかなと思いながら新しいメイド服に着替え、部屋を出る。
下に降りるとテーブルで食事をしている人が5,6人いた。
席に着くとおばちゃんが皿を持ってくる。皿にはサンドイッチのような見た目をした、薄くスライスされたパンの間に肉と野菜が入っていた。
「おはよう、といってももう昼近くだけどね。朝食のシュバリサンドだよ」
「おはようございます、美味しそうですね」
野菜はレタスのようなもので、辛い味付けの鳥肉とレタスのシャキシャキ感がとても合っていてすぐに全部平らげた。
「ごちそうさまでした。そういえばこれから王都に行こうと思っているのですが王都はどの方角にあるのでしょうか?」
「王都だったら北の門から道なりに行けば着くよ。馬車で大体半日くらいだったかな」
「ありがとうございます、またこの町に来る際はここにを利用させていただきますね」
おばちゃんに挨拶をして宿をあとにする。
北門に行くと近くに王都行きと書かれた馬車が何台かあるが、せっかくの異世界ライフ、最初は自分の足で移動しようと思ったツクヨミは門番に身分証を見せ門を出る。犯罪者逃亡防止のため出るときも身分証を見せなければいけないらしいのだ。
門を出ると南とは違い、大きめに整地された道が続いていた。王都へと続く道らしいので一番力を入れているのだろう。これといって特徴のない風景が続いているがところどころにモンスターらしき生き物がいる。
しばらく風景を楽しみながらも小走りで道を進んでいくと道を外れたところに馬車が止まっており、側にはそれを困り顔で見ている男と3人の武装をした男がいた。
「こんにちは、何かお困りごとですか?」
「ん?ああいや、馬がモンスターにやられて動けなくなってるんだけど今日に限ってポーションを切らしてしまっていてな」
「俺達もポーションなんて高級品持ち歩いてないからな。馬を置いてこの先の町まで行くか、一人だけ町に行ってポーションを買って戻って来るかで相談してるんだ」
「まあ今からポーション買って戻ってきたとしてもその頃には死んでるかもしれないからなぁ」
「そうなのですか……確かにこの傷だと長くは持たないかもしれませんね。よければ私が治しますがいかがですか?」
「おぉ、ポーションを持っているのかね、ならば是非買い取らせてくれ!」
「いえ、ポーションを使わずとも……<ヒール>」
魔法はあまり多く覚えていないがソロプレイ故に回復系の魔法は多く取っていたツクヨミは初級魔法でどれだけの効果があるのか確認も兼ねて傷ついた馬に魔法を唱えた。すると馬が負っていた傷が光に包まれて見る見るうちに治っていく。
傷が治った馬は目をパチパチさせ、ツクヨミの顔を舐めてきた。
「おお……お嬢さん、あんた神官だったのか」
「神官? 私はフリーの傭兵ですけど何故ですか?」
「神の奇跡を使える傭兵なんて聞いたことねえぞ……」
「神の奇跡?」
「ああ、あんたが今馬を治すのに使った魔法のことだ。知らねえのか?」
「お恥ずかしながら私は大陸中を旅しておりますので常識などに疎いのですよ」
男達に話しを聞くとどうやらこの世界では回復魔法は神の奇跡と呼ばれているらしく、才能ある者が神殿で修行をして取得できる稀少な魔法のようだった。
なので回復魔法の使い手は皆神官で、それを使って貰う時は多額のお金をお布施として支払う必要があるとのこと。
「そうだったのですか、教えていただきありがとうございます。」
「いや、私こそ馬を助けて貰ってありがとう。ところで神の奇跡を実際に使って貰うのは初めてだからいくら払えばいいのかわからないのだが」
「いえ、謝礼が欲しくて治したわけではありませんからお気持ちだけ受け取っておきますわ」
「なんと! お嬢さんはそこらの神官よりよっぽど神の使いのようだな」
「旦那! そんなこと神官連中がいるとこでは絶対に言わないでくださいよ!」
話しを聞くとどうやら神官の中にはかすり傷程度で多額のお布施を要求したり必要ないと言ってるのに無理矢理治療して金を要求する者も少なからずいるようであまりいい感情は持っていないらしい。
「だがなんの礼もしないというのも申し訳ない。私は王都でオブシディー商会という商会を開いているガルバトス・オブシディーという者だ。何か困ったことがあれば力になろう」
「ふふっ、ありがとうございます。何かありましたら訪ねさせていただきますわ」
そうしてガルバトス達と別れたツクヨミは王都を目指して小走りで進んでいく。こんなところで王都の商会の人と知り合えたことも幸運だがこの世界において回復魔法が神聖視されているというのを知ることができたことを喜んだ。神官がいるところで使うと厄介事が起きるかもしれないから使うときは気をつけて使おうと考えた。
それから休憩も入れて約4時間くらいしたところで城壁が見えてきた。馬車で半日かかる道のりを5時間程の小走りで辿り着くという異様な早さであった。
日に日に増えていくブクマやポイントを見てるとついニヤニヤしてしまいます。
ありがとうございます!