第3話「資金調達」
内容はできてるのに表現力が足りなさすぎて大変です
町に入ったツクヨミはまず最初に拠点となる宿を探すことにした。
宿を探しながら町を見ていると商人らしき男からパンを買う中年の女性がいたり、ガタイのいい男達が笑い合っていたり、子供達が笑顔で走り回っていたりと確かな生活感を感じた。
ゲームのNPCなどではない、自分と同じ生命がそこかしこにあるのだ。
現実世界では毎日会社に行って帰ってくるだけの生活を過ごし、AWOでも基本ソロで活動していたこともあって人と関わる事はとても少なかったツクヨミだが、この光景こそが人間の正しい生活というものなんだろうなぁと思うのであった。
そんなことを考えながら歩いているツクヨミは町の人達が向ける好奇の視線に気づくことはなかった。
それから10分程歩いたところで宿らしき建物を見つけた。ベッドの看板と皿の上にナイフとフォークが置いてある看板が付けられているいかにもといった感じの建物だ。
早速入ると中は食堂となっていて椅子4席とテーブルの組み合わせで6組置かれていた。人の良さそうなおばちゃんが笑いながらいらっしゃいと店の奥にあるカウンターから声をかけて迎えてくれた。
「宿を取りたいのですが部屋は空いてますでしょうか?」
「ああ、空いてるよ。一泊と夜朝の食事付きで銀貨2枚だけど大丈夫かい?」
「ええ、それで大丈夫です。というより2食も付いて銀貨2枚なんてとてもお安いのですね」
「この町で宿泊するやつなんて滅多にいないからねぇ、これくらいにでもしないと上の部屋が無駄になんのさ」
そう言ったおばちゃんは宿屋なのに飯を食うやつしかこの町にはいないと笑いながらぼやいた。ツクヨミも相槌を打ちつつ銀貨2枚を払うと情報より先にお金をなんとかしようと思い持ち物を買ってくれるところがないか聞くことにした。
「ところでこの町に換金所とかはありませんか? 宿代は問題ないのですが観光する分には少々心許ない手持ちなので鉱石とかをお金に換えたいんですよね」
「あいにく換金所なんて立派なもんはないけど鉱石くらいなら中央通りにあるジルコーニャ商会ってとこで買い取ってくれると思うよ」
「そうですか、情報ありがとうございます。では早速行ってきますね」
「あいよ。この町の住民に悪いやつはいないけどあんたみたいに余所から来てる奴もいるからトラブルが起きるかもしれないから暗くなる前に戻って来るんだよ」
「はい、わかりました。なるべく早く用事を済ませることにしますね」
そう言って宿から出ると空は茜色に染まりかけていた。
それから道行く人に場所を聞きながら中央通りへと向かい、ジルコーニャと書かれた看板が掛かっている店を見つけることができた。
(そういえば見たこともない文字なのにちゃんと読める……会話もできていたしこれが所謂ご都合主義ってやつなのかな)
扉を開けて店に入ると中には木製の大きな棚が4列に並んでいて、棚の中には食器や装飾品、ポーションらしき物などいろいろなものが置いてある。
そして店の奥にはカウンターがあり、店主らしき小太り体型でスキンヘッドの男性が手に持っている小袋の中をにやにやと覗いていた。
こちらに気づいた男は袋をカウンターの下にしまい、先ほどのにやにやではない爽やかな営業スマイルを向けてきた。カウンターに近づくと声をかけてくる
「いらっしゃい、見ない顔だけど余所から来た人かな?」「はい、先ほどこの町に来たばっかりなんです。それでこの町に換金所があるか聞いたらこちらの商会で鉱石を買い取って貰えると教えていただいたので売りに来たのですが大丈夫でしょうか」
「鉱石の買い取りかい? 大丈夫だけど銅とか鉄辺りだと王都よりだいぶ安くなるよ」
「いえ、銅でも鉄でもありませんわ」
そう言って事前にアイテムボックスから出しておいた金鉱石を見せる。すると店主の目つきが鋭くなった。
「それはもしかして、金かい?」
「ええ、正真正銘の金ですわ。といっても本物かどうか疑うのもわかりますから気の済むまで調べてくれても構いませんよ。」
金鉱石を渡すと店主は懐からから出したモノクルを付け念入りに調べだした。色んな角度からじっくり見たり、全体を触って質感を調べたり、秤で重さを量ったりしておよそ15分くらいが経った。
「こりゃ驚いた、こいつはとても質のいい金だ……お嬢さん、これ程の物どこで手に入れたんだい?」
「私は大陸中を旅しておりますので場所とかはあまり覚えていませんよ」
「は〜そいつは残念だ……とりあえずこれは大金貨3枚で買い取りたいがどうだい」
「それでお願いします。あっ、でも大金貨だけだと使いづらいので金貨30枚でお願いします」
「わかった、それじゃあ取引成立だ」
カウンターの下から先ほどにやにやしながら覗いていた小袋を取り出すと中から金貨30枚を別の小袋に入れて渡された。さすがに30枚物金貨となるとズッシリとした重さが感じられこれを持ったまま旅するのは不便だなぁと思った。
すると金鉱石をうっとりとした表情で見つめていた店主が話しかけてきた。
「そういえばお嬢さん、旅してるってことは冒険者とかかい? ギルドカードがあるならそっちに金貨を移した方がいいと思うけど」
「別に冒険者とかではありませんよ、気の向くままに旅をしてるだけです。ところでギルドカードに移すってのはどういうことですか?」
「ん、知らないのかい? 冒険者としてギルドに登録すればギルドカードっていう所謂身分証が発行されるみたいなんだけどそれには金を収納できる魔道具としても使われてるって話しだ。中にはそのギルドカード目的で冒険者になる商人とかもいるくらいだよ」
「そんな便利な物があるなんてすごいですね……貴方は持ってませんの?」
「ああ、僕は小袋に入れた金を覗いたり重さを感じるのが好きなんでね、大金を持ち歩いて町の外に行くこともないしあまり興味はないのさ」
「そうでしたか、貴重な情報ありがとうございます」
その後店内の商品を軽く見ながらギルドカードについて考えていた。
(お金を収納できる便利アイテムならこの先必須になるだろうし冒険者ってのもおもしろそうだ。情報を集めたらすぐにでも登録に行くことにしよう)
そう決めると店主に挨拶をして店から出て行く。来た時は茜色だった空も薄暗くなっていたので小走りで宿へと向かうのであった。