《今の私》
《今の私》
(明日にしよう)
深夜に誰かにメールを送り、小学生の頃から付き合いのある友人の出欠を確認する事は憚られた私は、階段を上り二階の自分の部屋に向かった。
冷えた布団が、自分の体温で温まるのを待ちながら、目を閉じた。
ど田舎とまでは言わないが、決して都会ではない地元。
男女共に、もう結婚し家庭を持っている友人も多い。
今の時代、SNSやTwitterで、地元にいる人間も、地元を離れた人間も、なんとなくの近況は耳に入ってくる。
逆を言えば、私自身の近況も、把握している友人は多いだろう。
とはいえ、大して特徴のある人生は歩んできていない。
実家から通える範囲の大学を卒業し、そのまま実家を離れる事なく就職。
地域限定のフリーペーパーを扱っている会社の営業職。
独身。
小学生の頃、仲の良かった麻衣は結婚し子供が二人いるらしい。
幸弘は、三度目の転職をしたばかりで、まだ仕事に慣れていないらしい。
美奈は、独身生活を満喫しつつ、大都会でキャリアウーマンをやっているようだ。
スタートは同じ地域で、同じ小学校だったハズなのに、二つとして同じ人生は無い。
あの頃。
あの時。
あの場所で…。
違う行動。
違う発言。
違う相手に対して何かをしていたら…。
そんな事を考えているうちに、温まった布団の中で眠りについた。
「…まってよ、ゆかちゃん、もうすこしゆっくりあるいて…」
幼い姿の創が私を追いかける。
「ほら、はやくこないと。みんな、みんなこうえんでまってるよ」
中々追いつかない創に、すこしイライラしながらも、私は来た道を戻り、創の左手をとり歩く。
まるで、お姉さんと弟。
見た目からしたら、お兄ちゃんと妹の様だったかもしれない。
「きょう、ピーマンたべられたんだよ!ぼく、えらいでしょう?」
大きな瞳で、自信満々に私を見つめる。
「がんばったね。あしたは、ニンジンたべてみる?」
そんな、他愛も無い会話がひたすら続く夢。
私は、目覚めたとき、優しい気持ちになっていた。
素敵な事も、辛い事もあった。
もう、戻りたくても戻れない。
小学生とまでは言わない。
せめて、高校生に戻れたら。
私が、”ボク”という仮面を被ったあの日に。