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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三又の槍

作者: Gyas

「あの、クリントンさん……」


「なんだいフェルミナ君」


「僕、最高の槍を作ってほしいとお願いしましたよね?」


「あぁ、私の持てる力の全てを、その三又の槍に注いだ」


「でもこれ、………………フォーク、ですよね? 食器の」


「あぁ、フォークだ」


「僕は槍を作ってほしいと――」


「君は槍を使って何をするつもりなんだい?」


「いや、あの」


「槍、……つまり武器を君は欲した。それも最高の物を。わざわざと」


「――――」


「スポーツじゃない、殺しあいのための道具。それを君は望んだんだ」


「それがな――――」


「なぜフォークなのか、それは君がなぜ武器の中から槍を選んだのかで説明がつく」


「――」


「君の勝利に一番貢献できるのが槍だからだ」


「まあ……そうですが」


「――なら槍より優れた武器なら何でもいいと思わないかい?」


「いや、フォークじゃ戦えませんよ」


「そのフォークはただのフォークじゃない。切っ先が皮膚を超えた段階で、相手の肉体に死を与える概念武装だ」


「はあ!?」


「すばらしいだろう? 殺し合いにおいて、これほど最適なものはないだろう?」


「……まあ、たしかに能力は凄いですが、フォークじゃ相手の懐に入るまでが至難すぎますよ。武器の打ち合いともなればあまりにも非力ですし」


「ならば補助としてフォークを持ち、場合によって使い分けるというのはどうだ?」


「僕はこの依頼を出したとき、メインの装備としてお願いしたはずですが」


「なら、別に新しく槍を作れば――」


「それを依頼したんです」


「………………」


「そのフォークを買い取るとなると、それなりの代金が必要でしょう? それを払えば、僕が主兵装に必要としている能力水準のものが買えなくなってしまう」


「………………」


「それに武器を使い分けるといっても、僕はフォークのような間合いの小さい武器の扱いを、あまり心得ていません。今から修練したとしても、実戦に投入できるようになるには膨大な時間がかかります」


「………………」


「第一その特殊能力、槍に付ければいいだけじゃないですか。それで万事解決ですよ」


「……フォークじゃなきゃ、付与できない類のものかもしれないじゃないか」


「そうなんですか?」


「………………………………………………」


「作り直してください。今すぐ」


「あー、わかった降参だ。なんでフォークにしたかちゃんと話すよ」


「ちゃんとした理由があったんですか」


「あぁ」



「あれは、知人に貰ったケーキを食べようと、フォークを出した時だった」


「今まで何とも思っていなかったそのフォルムを、初めて意識した」


「気付いたんだ、その完成された『美』に!」


「それからはケーキのことなど忘れ、ただただフォークを観察した」


「細部を見れば見るほど、その洗練された美しさに目を奪われた」


「私は"彼女"の虜になったんだ」


「まず、彼女の三つの足、その細やかでいて、尚且つ力ずよさを秘めている奇跡的な艶やかさに、私は瞠目した」


「さらに視線を上げると、彼女の股に行きつく。その溢れださんばかりの妖艶さに、年柄にもなく熱い興奮を感じざるおえなかった」


「そして彼女の引き締まった腰は、まさに人類が太刀打ちできないほどのプロポーションであり、気付けば何度も指でなぞっていた」


「最後に彼女の淑やかな胸に行きつく。光が反射し続けるさまは、一種の神々しさすら感じさせ、私はただ、見つめ続けるしかなかった」


「……何時間かたった後、ようやく私はケーキを食べることにした」


「フォークでケーキを一口サイズに切り分け、刺して口の中に入れたんだ」


「フォークを抜いて口の中の物を咀嚼した後、私はフォークを見た。すると」


「彼女の下腹部は生クリームで濡れていた」


「私は、私は自分が抑えきれなくなって! もう一度彼女を口に入れた」


「舐めまわした! 徹底的に! それほど彼女の味は甘かった!」


「口から引き抜くと、彼女の身体には私の唾液が滴っていた!」


「その征服感はまさに、背徳的でありながらも私を天上へと登らせんばかりに――――」




「もういいです」




「…………そうか、まぁ要はそのとき私にとってフォークは、今まで見てきたどんな芸術的な武器をも寄せ付けない感動を与えてくれたんだ」


「………………」


「だから私は鍛冶師として、持てる技術全てを注いだフォークを作ってみたかったんだ」


「それで、なんでわざわざ僕の依頼で? 作るだけならそれでいいでしょうに」


「武器はやはり使われてこそ、その輝きを放つに至る。王国一の槍術士の君なら、その輝きはもはや想像もつかない。それに……………………」


「それに?」


「最高の物を作るには、相応の材料も必要になる。ちょうど依頼で前金を払ってくれていた君は、とてもつごうがよかったんだ」


「…………………………………………なるほど」


「たのむ! そのフォークを使ってくれ! 本当に今までで作った中で一番なんだ! 性能は保障する! その勇姿を私に見せてくれ!」


「ハァ、……………………わかりました」


「ほ、本当か!」


「えぇ、もう二度とこの店には依頼しません。前金は後日、しかるべき機関を通して回収させてもらうとします」


「ガッデム!」




                               終われ




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