※オフ・レコード
※オフ・レコード
救いの無い死を遂げてしまったリリィ。
そんな彼女へ、命を与える方法がある。
後悔と悲嘆に暮れていた僕へ、そんな事をトリィが言い渡した。
リリィはもう逝ってしまったのに、もう既に灰にまでなってしまったというのに、一体何を言い出すのか。
そう思ったが、聞いてみるとこういう話だった。
結局、人の存在というものは不確かなものであり、では確かなものは何かと云えばそれは、心に残った想いである。
だから、リリィを心の中に留め続ければよい。
君の心の中にリリィがあれば、それは君にとってリリィが生きている事になる。
そんな話だった。
そんなものは詭弁。
誤魔化しだ。
そう主張してはみたがトリィには、では好きにすればいい。
そんな風にあしらわれてしまった。
納得できる訳は無い。
だが、トリィの言った通りの方法でしか、リリィを捕まえておく方法が無い事も確かだった。
しかしそれでも、そもそも人の心は移ろうものである。
第一、傍には今、松平瑞穂が居る。
彼女が好きであるのも本当の事だから、僕は次第にリリィが、僕の心から消え去ってしまうのではないか。
そんな考えを持ってしまい、それを酷く怖れた。
何か、形が欲しかった。
もちろん、このマンションもある。
墓もある。
だがそれらは、リリィを表現したものではなかった。
何でもいい、リリィとはどんな存在であったか。
それを知る事ができる物。
そんな物はまあ、探しても見付からなかった。
だが僕はそのうちに、だったら自分で作ってしまえばいい。
そう思い立った。
分かりやすいのは、文章で残しておく事である。
しかしでは、それは手記か日記か……。
そんな時ふと目に付いたのが、お気に入りの文庫本。
そうか、小説。
振り返ってみれば、なかなか奇想天外な体験をしてきた。
そんな内容の手記なんか誰も信じないだろうし、でもそれが例えばライトノベルなんかになってみたりしたら?
それは、悪い考えではないように思えた。
僕は早速、松平瑞穂からノートPCを借り受けると、ほとんど触り慣れないワープロソフトを操作し始める。
もちろん、その過程ではどうしてもいろいろ思い出さざるを得ないから、涙は止まらないだろうが、きっとそれもまた悪くはない、筈だ。
しかし、ライトノベルとするなら、その内容はあくまで架空のものとして扱われてしまうだろう。
それが気掛かりではあるが、まあ贅沢は言わない。
要は、心に残ればいいのだから。
それでも、それに対する一応のささやかな抵抗として、その書き出しはこんなような感じにした。
この物語はノンフィクションです。
と……。
‐了‐




