〔4-18〕宅配ピザ
ところでマークⅢは、どうやらモード移行とやらはしていなかったらしく、リリィのように動きを止める事は無かった。
そんな彼女にリリィを運んでもらいつつ、その場を離れる段になって気掛かりだったのはもちろん、黒メガネたちの死体である。
「放っておいて……大丈夫なのかな? あれ、見付かったら普通に殺人事件じゃあ?」
「リリィがかなり、都合のいい場所を選んだからな。あれだけ長い事銃撃戦をやっていたのに、誰も駆けつけていないだろう? 目撃した者なんか居ないだろうし、死体も一応中へ仕舞ってある。当分は問題無い筈だ」
「……筈、じゃあ、ちょっと不安な気が……」
「細かいな。余程の幸運に見舞われない限り、完全犯罪など達成できない。隠蔽工作の過程で、かえって余計な証拠を作ってしまう事もある。あれだけたくさん死体があるなら、それはなおさらだ。不安要素がそれほど強いものでないのなら、それ以上の事は何もしないほうがいい」
確かに説得力は、ある。
釈然とはしないが、だからといって何か有効な代案を出せないのなら、それについては何を言う権利も無いのかも知れない。
マークⅢは、こんな事も言った。
「楽天的に考えてみたらどうだろうか。例えばあの人数で、しかも揃いの服装だ。もし見付かっても、勝手に都合のいい勘繰りをしてくれると思わないか?」
「まあ……そういう事も、あるかも知れないけど……。でも僕たちって、デパートの屋上で大勢に見られてるし、防犯カメラだって……」
「何、そうなのか。それならそこはもう、仕方が無いな。ただまあそこから辿られて、ついでにあの倉庫から何か証拠でも上がったらいよいよ言い訳できないが、そもそも私だってこんな事をしてただで済むとは思っていない。もちろんリリィも、そうだろう?」
「……はい」
「だそうだ。これは我々と彼らの問題であって、手を下した訳でもない君が気に病む事ではない。まあ所詮は我々も、表になど立てたような身分ではないし、捕まったら別の意味でただでは済まないだろうからな。せいぜい逃げ切るさ」
「……そんな、でも……」
「いずれにしても、気にした所で何も変わらない。それよりそろそろ、人影が見えてくるあたりだ。その話はもう、終わりにしておこう」
「……」
そうして向かって落ち着く事になったのは、結局の所マンションの部屋だった。
リリィとマークⅢの間にどんな会話があったのかは知らないが、マークⅢはしばらく僕たちと一緒に居る事になったようだ。
それには、松平瑞穂の家だと都合がよろしくないという訳なのだが、まだ家具の揃わない部屋では普通に過ごせない。
それでも致し方無しという事で、夕食は宅配ピザ、夜はゴロ寝という結論に落ち着いた。
ちなみに、リリィはそのLサイズピザを三枚、平らげた。
僕と松平瑞穂とマークⅢはもう一枚のLサイズピザを仲良く分け食べたのだから、つまり計四枚の注文だった訳だが、まあ配達の人には一人一枚あてで消費すると思われたに違いない。
しかし、そんなにどこに入るのか。
そう尋ねた所、回答とは違う返事があった。
「はっきり言って私もつらいですが……今までの分の補給と、これからの分の備蓄です」
「……これから?」
「敵対勢力の、本拠地へ乗り込みます」
「本拠地……どこ?」
「教えません。あなたとミズホは連れて行きませんし、追ってきてもらっても困ります」
「じゃあ、マークⅢと二人で?」
「いいえ。私一人です」
「え。どうして?」
「何があるか判りません。マークⅢには、あなたたち二人を守ってもらいます」
「逆に、マークⅢに行ってもらう訳には行かないの?」
「二つの理由があって私が行きます。マークⅢにはやはり、実戦経験が足りません。そしてトランスフォームモードでの活動が、私に比べて半分ほどの時間しか維持できないとの話です」
「それなら、やっぱり僕たちも。そうすればマークⅢも行けるでしょ?」
リリィは強硬に首を振る。
「お願いです。どうか聞き分けてください」
「僕たちが……足手まといだから?」
「違います。それが一騎討ち合戦でもない限りは、非戦闘員が戦闘の役に立たないというような事はまったく無くて、それは単なる采配の問題です。ですから、あなたの申し出は非常にありがたいとは思いますが、そうではなくて……」
「じゃあ?」
「そうではなく、私はただ……」
先ほどの強硬な拒否とは打って変わって、その口調はリリィにしては、かなり歯切れの悪いものだった。
「ただ?」
「……見られたく、ないんです」
「見られたく……ない? 何を?」
「いいですか、オリヒコ。私はこれから敵対勢力を壊滅させます。つまり……大量殺戮を行うんですよ?」
「……え……あ……」
「そんな所、オリヒコ。ミズホ。あなたたちに、見せたくはありません。マークⅢは、私たちは殺人兵器などではない。そう言いましたが、それでも……そんな事が、再認識させられてしまいます」
「リリィちゃん……」
「……リリィ……」
それは、納得、できる。
確かに僕も、リリィのそんな所、見たくはない。
そんな事になってしまったら、またリリィは……。
また遠く遠くへ、離れてしまう。
「それに、明日は引越です。購入した家具も大量に届きますし、それは受け取らなければいけません。あなたにも手伝ってもらいますよ? マークⅢ」
「手伝い込みの子守りとは、やれやれ……かな」
子守り……すか。
「実はマークⅢには、他のお願いもあるんです。オリヒコ。ミズホ」
「何?」
「あなたたちは今日、初めて目にしましたよね? 人が……殺害される光景を」
「あ……うん、そりゃあ……」
「そういった場合、多くの人はトラウマを抱えてしまうものです。ですからあなたたちも、特に今晩あたり、酷くうなされてしまったりするかも知れません。マークⅢ、そのあたりについてのケアもお願いしたいんですが」
「……本物の子守りなのか? それは本当に、やれやれ過ぎるぞ? リリィ」
「できませんか?」
マークⅢは無言で、いっそ大袈裟に肩をすくめた。




