〔4-16〕共闘
そんな音を聞きながら、僕と松平瑞穂は……する事が無くなった。
「何だか……凄い事になっちゃった、ね? 宮前くん……」
「うん……松平さん、大丈夫?」
「割と、落ち着いては、いるかな? でも何か……全然、現実じゃない感じで……銃、とか……変身、とか……。それにリリィちゃん、凄い力持ちだったね……?」
「うん……そうだね」
そう。
僕たちを運んでいた間リリィには、二人分の全体重が掛かっていた筈である。
その状態で、あんな速度で走ったりできるものなのだろうか。
屋上から脱出した時もそうだ。
状況を把握できなかった瞬間が若干あったが、それはそんなに長くない時間の筈である。
百貨店の屋上にはもちろん柵があり、それをよじ登ったような感じではなかったし、それにあの時の持ち上げられるような感覚。
つまり、跳躍か何かをして、飛び越えたのだと思う。
それらを実際にやってのけているのだから、否定とかするつもり無いし、できないけど、そういえばリリィがどれくらい力持ちなのかとか、全然知らない。
「リリィが手を上げるとか絶対あり得ないけど、それでもケンカだけはよしといたほうがよさそうだな……」
「……あはは」
「だけど……少なくとも、包丁は刺さった。血も流れた。もし撃たれたりしたら、ただじゃあ……」
「うん……でも結局、私たちには何もできなくて……せめて、祈ろっか?」
「そう、だね」
銃声は続いている。
敵は複数との事だったが、リリィは果たして何人を相手にしているのだろうか。
それに相手は、飛び道具だ。
ナイフ一本は一応持ち歩いていたが、それで対抗できるものなのだろうか。
時折、近距離では銃よりナイフのほうが有利、なんて事がささやかれたりするが、どう考えてもそれはおかしい。
もしそれが本当なら、みんな銃ではなくナイフを持ち歩くだろうし、そもそも敵同士が最初から接近しているなんて事はまず無いのだから、近付く前に発砲されるだろう。
ちなみに、銃口に指を詰めれば暴発して相手は自滅する、というのもほとんど嘘らしいし、本当だとしても指を詰める前に、やっぱり発砲されるだろう。
僕たちは、じりじり待った。
ただ、待った。
それはもう、二十分以上は経過した筈だ。
もうそろそろリリィは……活動限界、なのでは?
「あ、リリィちゃん」
それが杞憂だったらよかった。
しかし姿を現したリリィが、対峙する黒メガネの隙を突いて攻撃を仕掛けたその時……突如、その動きを止めてしまったのである。
「……リリィ!」
相手の黒メガネは、リリィのナイフによって胸部を負傷しているようだ。
それが致命傷なのかどうなのかの判断は僕にはできないが、しかし少なくとも完全に動きを封じるまでのものではなかったらしい。
男は手の銃を……リリィへ向けた。
これって。
いや。
リリィが、撃たれる?
殺される?
僕たちの目の前で?
「宮前くん……ダメ」
思わず扉を開けようとした僕を、松平瑞穂は止めた。
「だって……このままじゃリリィが」
「でもさっき、一緒に来いって話だったから……命までは……」
松平瑞穂の今のセリフは、冷静な判断と云えるものだろうか。
それともただの、希望的推測というものだろうか。
ただまあ確かに、僕たちがこんな会話をしている時間があった訳だから、男はすぐには発砲しなかったのだろう。
しかし……。
「でも、リリィが連れていかれて、何をされるのか……」
「うん……リリィちゃんが連れてかれちゃうのもダメだけど、それでも私たちにはどうしようも無いよ? 冷たいようだけど、でも……。ねえ、リリィちゃんさっき、ここから出るな、って。何があっても、って……あ」
松平瑞穂がそこまで言った時、リリィの背後からも銃片手の黒メガネが近付き。
そして……。
ぼおぁん!
ぼおぁん!
響いたのは、二発の銃声。
……え?
リリィ?
を、撃った?
そんな。
そんな……。
……そんな!
「リリィ!」
もう何も考えられなくなった僕は、松平瑞穂から止められるより先に扉を開け放ち……フリーズした。
目の前の光景に、理解が追い付かなかったからだ。
黒メガネ二人は持っていた銃を失い、手からだらだらと流血している。
何が……起きた?
「倒した相手の銃を奪うくらい、したらどうだリリィ? 馬鹿正直にもほどがあるだろう」
少し離れて銃を構えていたのは……背の高い女性。
「……マークⅢ!」
ぼおぁん!
また銃声が轟き、リリィの背後から近付いていたほうの男は、胸から血を吹くとその場にくず折れる。
って、あれ?
今、何か……映画のワンシーンのようなものをナチュラルに目撃したけれど……これは。
人が、目の前で銃に撃たれて、死んだ。
という事になるのだろうか?
どうもあんまり現実感が無さ過ぎて呆然としてしまい、恐怖とか感じる余裕も無かった訳だけれど、続いてもう一人の男へ銃口を向けたマークⅢは、リリィから制止を受けた。
「撃たないでください、マークⅢ」
「どうしてだ? 慈悲でも掛けるのか?」
「いいえ、訊きたい事があるだけです。それより助かりました、ありがとうございます」
「それはいいが、何を訊くんだ?」
「勢力と云うなら、本拠地がある筈です。こんな事はもう……終わりにしたいので」
「ふむ。私は、いちいち撃退していればいいかと考えていたが……確かにそのほうが、話は早い。しかし……それにしても、あの時手合わせをしないでいてよかったな。あなたには心底呆れたぞ? リリィ。とても敵いそうにはない」
「いいえ。あなたも筋は悪くありませんし、経験次第でしょう。それに私は、射撃は得意ではないんです」
ええと。
つまりこれは、リリィとマークⅢはお互いの戦う姿を見ていたという事だろうから、マークⅢは別にたった今やってきた訳ではないのか。
僕たちは見ていなかったのだから、どれだけ凄い立ち回りがあったかは全然判らない訳だけれども。
ちょっと見てみたかった気が……いや。
本物の命のやり取りだ、不謹慎だろう。
そのマークⅢは男を尋問すると言って、僕と松平瑞穂とリリィをその場に残すと、倉庫の中へ入っては扉を閉めた。
うーん……何が行われるのか、あんまり考えたくないかなあ……。




