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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【4】狂乱
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〔4-13〕お買い物

 契約は恐ろしくスムーズに進み、入金確認が取れるとその翌日には部屋の鍵が引き渡された。


 部屋には水道、ガス、電気、電話、インターネット回線等が既に開通しており、まあその個々の契約の為にまた書類攻めに遭っていた訳だが。

 それはそれとして、他の物についてはすっからかんだったので、すぐに住む事はできない。

 引越作業についても、業者に頼むには待たされ過ぎるからと、松平瑞穂の父親とその従業員が社用車を動員してどうにかしてくれるという手筈だったが、それも明日の事だ。


 かといってやる事が無い訳では決してなく、各種住所変更手続きなんかに追われた。

 実は僕のアパートの引き払いもまだだったのだが、松平瑞穂と違って賃貸な訳だから、そこにある物の何を運んで何を捨てるかも決めなければならない。


 ちなみに冷蔵庫は、下手に小さい物を持ち回るよりも大容量の最新型を買ってしまったほうが経済的で省エネなのだとか。

 エアコンに関してもそうらしいが、これはもともと新しい部屋に備え付けがある。


 そうして運び込む家具を選別していった結果、既存の物は割と役に立たない事が判り、新規に買わなければいけない物がそれなりに多く出た訳で。

 その日、新居の間取りや寸法などを再確認すると、その足で必要な物を買い付けに行く事になった。


 その行き先は、駅前の百貨店。

 そこまでがバスですぐ、そのバス停までもが歩いてすぐなのだから、本当に都合のいいマンションと云えた。


 そこではリリィがてきぱきと、必要な物の品定めをしては買約を決めていった。


 TV。

 ダイニングテーブル。

 コタツ付きローテーブル。

 ソファ。

 カーテン。

 バス用具。

 照明。

 冷蔵庫。

 洗濯機。

 食器棚と食器と調理器具。

 収納。

 自転車。


 地味に扇風機なども売約を受けていたが、それについてはこんな説明をした。


「夏の間、エアコンの設定は27℃から動かさないでください。それで暑さを感じる場合、扇風機を使ってください。それからエアコンの運転は、二十四時間以上外出する時以外は留守でも絶対に切らないでください。それが、省エネと体調の為になります」


「体調はともかくとして、省エネとか気にするんだね?」


「お金を湯水のように使うつもりは無い、と言いました。それにお金があるからといって、それは資源を無駄遣いしていい理由にはなりません」


「ははあ」


 何たかんだでストイックな、リリィらしいお言葉だ。

 まあストイックと云っても、異様にエッチだった事を除けばだが……。


 そして今、多少なりともそうではなくなったというその証左として、買約を続けるうちにただ一つだけ、彼女が選定を停止させてしまった物があったりした。


「どうしたら、いいでしょうか……」


 ベッドである。


「初めはキングベッド一つで、間に合うと思っていたんですが……」


「あー。やっぱ……一緒じゃ、ダメなんだ?」


「……。しかしシングルベッド三台は、あの寝室には……。オリヒコ、私は……どうしたら?」


 まあ、その寝室すら僕の元いたアパートの部屋より広い訳だが、しかし収納など他の物も設置する事を考えると、そんなスペースは無い。

 一つだけ用途の決まらない部屋があったが、そこは物置にでも使おうかという話になっていたし、そこへシングルベッド一つ置いてリリィだけ一人寝かせるのも違うだろう。


「あ。えっとじゃあリリィちゃん、ベッドやめて、お布団っていうのはどう?」


「……それは……問題はあまり、変わりありません。布団の継ぎ目は結構心地悪いものですし、もしも三人で床を共にしたくなった時に困ります……」


「そ、そういう事……ある、のかな?」


「今は……私が単に、恥ずかしい……それだけです。でもそれは、そのうち克服できる。そう思っています。そうなったら……布団でも二人なら何とかなるでしょうけれど、その時にもう一人が仲間外れになりますよ?」


「あー……うーん……」


「あるいは、私とミズホが一緒に寝て、オリヒコを悶々とさせるというイタズラはできるかも知れませんが……」


「あー……あはは……」


 何のプレイだよリリィ。


「……あ、いけません。今それを想像してみましたが……それもどうやら私には、無理そうです。これは、いけません……私と、ミズホが……あっ、そんな……」


「あ、うわあ! ちょちょちょちょっとリリィちゃんストップストップ!」


 んー、何ですか? 百合ですか?

 リリィだけに。


「……とにかく、キングベッドを買ってしまいたいという思いはあるんですが……」


「でもそれだと、差し当たりリリィは?」


「……ソファも買いますから」


「それは僕が、いい気分しないなあ」


「そうですか……分かりました。やっぱりキングベッドを買います」


「え、でも、それじゃあ」


「何とか……頑張ってみます。どうしてもダメでしたら、その時はソファに避難する。そういう事にします」


「うーん……まあ、リリィのお金だし、リリィがそれでいいなら、いいけど」


 本当にいいのかな?

 どうも、バンジージャンプを敢行しなくてはならなくなった高所恐怖症の人みたいな面持ちだけれども……。


 まあ、そうと決まれば彼女の選定は素早く、かつ間違いが無い。

 機能的に問題が無いのはもちろんの事、デザインや素地についても他の家具との統一感や融和感があった。


 ちなみにリリィの選ぶ物は、総じて値段が高めの物だ。

 少なくとも真ん中ら辺よりは、上の価格を選んでいる。

 無駄遣いしたくないという彼女の言と矛盾するようなので、尋ねてみるとこんな回答が得られた。


「消耗品は質に不満が出ない程度に安い物を。長く使うものは高くてもしっかりした物を。それが結局、浪費をしない事になります。それにそうする事で職人や業者を育てて、価値のある物をより多く流通させる事に繋がりますし、安い物ばかりを選べば結局、質の悪い物だけが氾濫して消費者自身の首を絞める事に繋がるんです」


「うーん。リリィって、何でも大きいスケールで考えるね?」


「そうでしょうか。まあそれはそれとして、高級品については機能の他に遊びというものがありますから、背伸びして求める必要はありません。しかしそれでも、中級品と廉価品では質の境目が歴然なんです。廉価品ではすぐに壊れるという事もありますし、それに高額であればあるほど大切に扱おうと思いませんか?」


「どうだろ。自分で買うんじゃないしなあ……」


「では、スポンサーの特権として言い渡します。大事に使ってください」


「あ、はい」


「付け加えるなら実は、物価が安い事にいい事なんて一つも無いんです。何故なら、それでは売っても売っても儲からない状態になって、その不利益はそのまま仕入れ価格や従業員の待遇などに転嫁されて、そのせいで余計に安い物ばかりが求められる事になって、そしてその悪循環で最終的には不況に陥ってしまうからです。結果、みんなが貧乏になってしまいます」


「うーん、難しい話だね……。だってやっぱり、どうしても安いほう選んじゃわない?」


「はい。でも、そこをぐっとこらえる事が必要なんです。お金をケチる理由は大体が、自分にはよりたくさんのお金が必要だというものです。でも、だからといって支払いを渋るという事はつまり、自分だけはそれを主張しておきながら、相手のそれは認めないという事になってしまいますよね? それはあまりに、アンフェアな考え方というものです」


「そっか。確かにそれじゃあ、勝手過ぎるね」


「はい。公正でありたいと思えば、安い買い物にはかえって抵抗が出てくるものです。つまり、お金を大事にし過ぎるのはいい事ではないという……まあ、この間の説教の時と似た話ではありますが」


「うーん。何か話が、何から何まで繋がってる感じがするなあ」


「そうですね。まあ、物に対してあまりに値段が釣り合わないといった時には、もちろん値切って構いません。ただその目安については、自分であればそれをその値段で提供できるか、というあたりが妥当だと思います。それが見当付かなかったら、どうしてそんな値段になるのか尋ねてみて、それが納得できる理由か検討してみるのもいいでしょう」


「なるほど、それは解りやすい基準だね」


「ちなみにそういう事を、リーズナブルと云うんです。リーズンとは理由という意味で、つまり理に適う値段、納得の行く値段であるという事なんですけど、これもまた安価であるというだけの意味で使われたりします。でも本当であれば、物に対してあまりに安過ぎるといった場合には客のほうから値段を吊り上げる。そういった事がリーズナブルというものと云えます」


「あー。何かそう聞くと、凄く高尚な言葉なんだね? リーズナブルって」


「そうですね。まあ口語としては、庶民でも手の届く物、というニュアンスで値段の意味も含めて使われるようです。しかしだからといって、単なるバーゲン品までも指して云うのは流石に、独善的解釈に過ぎるというものでしょう。ちなみにそのバーゲンという言葉も本来は掘り出し物、つまりは思いがけず行き当たった珍品や希少品といった意味ですから、バーゲンセールという言葉すら安売りという意味ではないんですが、そのあたりには日本人のお金というものに対する考え方すら窺えそうです」


「そっか。うーん……言葉っていうのもなかなか、深いものなんだね……」


 そうしてベッドも決まり、今まで売約を受けてきた物の購入に至った訳だが、その支払いはすべて現金だった。

 彼女は社会的信用を得る手段が無く、クレジットカードを持つ事ができない。

 だからキャッシュカードによるデビット決済を考えていたそうだが、今回の買い物の総額を試算した時に限度額を優に超えてしまう事が判り、あらかじめ銀行窓口で引き出してあったものである。


 その結果……札束を持ち歩く金髪美少女、なぞという不可思議なものが誕生してしまっていた訳だが。

 何が起きているのか全然解らんかっただろうなあ、行員さんも店員さんも。


 ちなみに配送についてだが、百貨店とは複数のショップが入店しているものだ。

 出荷の都合もあろうし、配送をまとめるという事はほとんど不可能な訳だから、結局バラバラに送られてくる事になった。

 リリィはちょっとだけ、トラックをチャーターして各店倉庫を巡回してもらうようにはできないかと交渉したが、部屋への搬入もあるので関係者の配送によらないと商品に責任が持てないと、そんな理由で断られたようだ。

 まあそれも当然でもっともな理由だが、悪く穿てば面倒をあしらう口実のようにも思えるし、たくさんの配送車が同じ場所目指して押し寄せてくるのが非効率で不経済だというのももっともな話である訳だから、交渉を試みたリリィの行動力は褒められて然るべきである。


 それらの到着は、すべて明日という事だった。

 そういえばリリィは、即日発送が可能かどうかをいちいち確認していたっけ。


「せっかくマンションを買ったんです。なるべく早く新生活を始めたいと思いませんか?」


 そんな事を言っていた。

 もちろんそれには、完全に同意だ。

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