〔4-11〕さんにんいっしょ
そもそも僕の部屋のベッドはシングルなのだから、収まり切る筈が無い。
そう主張したが、それでも客布団は長い間仕舞ったままで干していないから出す訳には行かない、と返された。
ついでに、シングルベッドでも三人寝る事ができるのは実証済みだし、肉体関係にある男女の寝所を別々に用意するのは無粋が過ぎるだろう、とまで付け加えられた。
おまけに、あんまり声が漏れないように気を付けてね、という追い討ちまでしてくれたものだから、松平瑞穂はまたもやガチガチに固まらされる破目になった。
っつーか実証済みって何だよ!
そんな経験あるのかよ母さん!
それに布団干してないって何だよ!
計画的犯行かよ!
そもそも親って、間違いが起こらない方向に持っていくもんじゃないのかよ!
母よ、あなたは間違っている!
いやむしろ、あなたが間違いだ!
それにしても問題なのは、それなら僕は床に寝ると言ったら、リリィまでが自分もそうすると言い出した事だ。
どうせならくっ付いていたい、と。
しかし、二人でベッドを抜け出して松平瑞穂だけをのけ者にする訳には行かないし、全員で出てきてしまうのであればそもそも床に寝る意味が無い。
風呂も順繰りに使い終わったし、後は眠るだけなのだが、一応宣言しておく事にした。
「あー、二人とも。っつーかリリィ。言っておくけど、ここでエッチとか無しだからね?」
「う、うん。そうだよね? 宮前くん」
「あなたは大丈夫なんですか? オリヒコ」
「我慢するしか無いでしょ?」
「そうでもありません。あなたはミズホにしてもらえばいいんです。口で以って」
……。
脱力するしかないでしょ?
もう……。
「あー、いやあ……リリィちゃん、それは……」
「何か不都合ありますか?」
「不都合しか無いよ……」
「どんな不都合が?」
「松平さんはリリィほどエッチじゃないって事だよ……」
「そうですか。では、私がしてみましょうか? そういえば私はまだ、あなたの精液を飲んでみた事がありません。それも私の目覚めのきっかけになるかも知れませんし、ミズホ。やり方を教えてください」
セー……だからその言葉を、はっきり言わないでくださいってばー……。
「……ふええええ……リリィちゃんが激しいよお……」
「リリィもうやめて。どうしていいか判らなくなるから……」
「どうも何も、あなたの思いの丈をぶつければいいでしょう。経験が無い訳でもないのに、何を悩むんですか?」
「……同じ屋根の下に家族が勢揃いしてる事を悩んでるんだよ!」
「ですが、お母様はむしろ進んでこの状況を」
「向こうじゃなくて僕と松平さんが気にするの! リリィも気にして!」
「……そうですか」
ああ神様、この子にどうか羞恥心というものを与えてやってください早く。
「でもせめて、共に就寝する時は裸で、という事でお願いします。やっぱりそのほうが、感触が……」
ああもう、悪魔でもいいからとにかくこの子に羞恥心を教えてやってください急いで!
「却下」
「……そうですか」
大変だよもう、リリィの制御。
「えっと、でも……リリィちゃん、宮前くん……このベッド。どうやって?」
「そうですね。オリヒコが真ん中に。私とミズホがそれに寄り添う。それしか無いでしょう。まずオリヒコがベッドに入ってください。そしてミズホは壁側に。最後に私が明かりを消してから入ります」
リリィはそんな指示を出した。
冷静に俯瞰すればこれは至極妥当な指示なんだけど、よくとっさにこんな判断ができてしまうな、とは思う。
無いものを欲しがるのはガキで無益で詮無いけれど、それでもこの思考回路はかなり、羨ましい。
「えっと、じゃあ」
「う、うん」
ベッドに横たわると、松平瑞穂がおずおずと追従してくる。
そして照明が消え、もう一人の存在も確認する事ができる。
「では、おやすみなさい」
「おやすみ、なさい……」
「……おやすみ」
両手に花、状態……うーん、これはどうやら、苦しい闘いになりそうだ。
と、そんな風な事を思ったが、しかしそれは孤闘にはならなかった。
「……」
「……」
「……」
何しろ松平瑞穂の家ではそれぞれ別の部屋だったから、三人で夜を共にするのは初めてなのだ。
結果、あのラブホテル以来はエッチもしていない。
お蔭で、既に就寝してから二十分くらいは経過したと思うが、依然僕の目はパッチリだし、松平瑞穂からも眠ったような気配は感じられない。
ただ、リリィの様子が、それどころではなかった。
……その息は浅く、小刻みで。
……蚊の鳴くような高くて小さい声を時折、短く漏らし。
……そして何やらもぞもぞと、体をよじらせ。
明らかに、挙動不審だ。
不審だと思ったなら、声を掛けるしかない訳だが。
「リリィ?」
「……ひゃ」
「え?」
「あ……え……あ……わ、私?」
これはどうにも、おかしい。
リリィは、こんな反応をする子ではない。
「どうかしたの? ちょっと変だよ?」
「判りません……私、少し動悸がします。それに、顔も火照りますし、思考もよどみます。それから、冷や汗も妙にかきます」
「え。風邪?」
「リリィちゃん大丈夫?」
「ただの風邪なら、こんな動悸は無い筈ですが……いいえ、判りませんね。お騒がせしますが、少し様子を見てみましょうか……」
「そう?」
もしその時、明かりが点いていればそれが何なのか、ひょっとすると判っていたかも知れない。
しかし現実として明かりは点いていなかった訳だから、その後三十分間隔くらいでリリィに安否を確認し、その度に不確かな返事を貰う事になった。
ちなみにその回数は、両手では数えられなかった。
まあ要するに、一睡もできなかった訳だ。




