〔4-2〕へいわなにちじょう
ちなみに今、僕たちは三人でつるんでいるのだが、もうその周りに人だかりは出来なかった。
どういう訳か松平瑞穂が実にあっさりボロを出し、リリィに加えて彼女までもが僕になびいてしまった事がとっとと広まって、あーはいはいごちそうさまと呆れられてしまったのである。
その松平瑞穂はふああああ! とか悲鳴を上げ、僕にもリリィにも周囲にも、泣きそうになりながら死に物狂いでごめんね?
を連発していたけれど。
まあ、冷静に考えれば謝罪の必要性なんかどこにも無く、そして僕たちも別にクラスメイトから嫌われてしまった訳でもない。
むしろ気を遣って、適度な距離を置いてくれているのだ。
みんな素直じゃないからそんな事は決して口にしないが、こんなに多くの好意を寄せられたのは生まれて初めてであり、それはもう感謝としか云いようが無かった。
それでも当初、男子どもにはぐるりと取り囲まれたものだから、袋叩きにされてしまうのかと思ったのだが、それ以上の仕打ちを受けた。
「おい宮前、なかなか景気がいいな」
「イチゴのショートケーキってやつか」
「お蔭で俺たちのジャイロは短絡して、精度が甘くてしょうがない」
何その無駄な連係プレイ。
っつーか、みんなそれなりに微笑をたたえているが、目が笑っていない。
不気味過ぎる。
「な……何だよみんな……」
「いいやいいや。別に何も」
「ここでみんなで寄ってたかって、とか大人げ無いからな?」
「ああ、大人げ無い」
「うむ。卑劣の極みである」
「だからみんなでお前をどうしようとか、そういうのは無いぜ?」
ああ、これはアレだ。
真綿で首を絞めるアレだ。
「じゃあ僕は何で囲まれてるんだよ……」
「俺たちは親切だからな。忠告に来た」
「……忠告?」
「そうだぜ? 俺たちでは何もしない、とは一応決めたけどなあ」
「ああ、何しろ事が事だ。個人的に突っ走らない奴が居ないとも限らん」
「気を付けてたほうがいいぞって思ってな」
だからお前ら、目が笑ってないだろうが。
「あのさ。一応訊くけど」
「何だ? 宮前。親友の頼みだったら聞いてやるぜ?」
「……。ここに、個人的に突っ走らない奴は居るの?」
「おいおいおいおいおい。宮前、俺たちの仲だろ?」
「そうだそうだ、そんな訊くまでも無い事を訊くなんてなあ」
「うむ。他人行儀である」
どう見ても突っ走る気満々です、本当にありがとうございました。
「ね……ねえみんな、ここは一つ穏便に……」
「……上履きに画鋲の写真を仕込んでやるから覚悟をしておけ」
「ひ」
「……一日一通不幸のメールを送ってやるから覚悟をしておけ」
「あ、や」
「……神社の木に呪いの人形を打ち付けてやるから覚悟をしておけ」
「うっ」
「……私怨手帳を作ってお前の名前だけ書き込んどいてやるから覚悟をしておけ」
「そ、そんな」
「……ゲームのキャラにお前の名前を付けてわざと何べんも死んでやるから覚悟をしておけ」
「ちょっ」
「……お前の教科書の人物画に漏れ無くダンディひげを書き込んでやるから覚悟をしておけ」
「げっ」
「……お前の財布の五円玉を全部一円玉に両替してやるから覚悟をしておけ」
「勘弁してよ!」
「……近所のネコにお前が大悪人であると教え込んでやるから覚悟をしておけ」
「やめて!」
まあそんな、背筋が凍るほど恐ろしい事をいろいろ言われた訳だが。
最後の極めつけだけは、本当に極めつけだったのだ。
「……夜道でブッスリやってやるから覚悟をしておけ」
「……え」
何て、言った?
「ちょっ、お前……」
「お、おい……マジか?」
「俺は本気だ。絶対にブッスリやる」
ざわ……ざわ……。
いや、ちょっと待って。
コレ本当に待って。
いくら何でもまずいでしょ。
誰か何とかしてよ。
そういうのはリリィだけで充分だから。
シャレになんないから。
流石にこれはアレ過ぎて、みんなも真っ青になってオロオロし始める。
あっコラそこ一名、心許ない足つきでドジョウすくいを踊るな!
あっコラそこ一名、血相変えて床のキズの数を数えるな!
あっコラそこ二名、うつむきながらジャンケンを始めるな!
藻前ら餅つけー!
そうしてみんなが右往左往し、本気で戦々恐々とした所で、ついにそいつは高らかなる宣言をしたのだった。
「ただし……刃物とは限らない物で、腹とは限らない箇所を……だ」
……。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「か、漢だ……!」
「特攻を決意した青年将校に、敬礼!」
「さらなるごハッテンを、心よりお祈り申し上げます!」
「ジーク・アベ! ジーク・アベ!」
ちょっとちょっと!
それって何が行われるんだよ!
一体どうなっちゃうんだよ!
アッー! とか言わなきゃいけなくなっちゃうのかよ!
やだよ!
普通に死ねるよ!
刃物のほうがなんぼかマシだよ!
「……男子ってば……ヒソヒソ」
「……イヤねえ……ヒソヒソ」
「……でもバラの花もなかなか……ヒソヒソ」
「……確かにあの二人なら……ヒソヒソ」
いやあああああああああああああああああああああ……。
やめてそこの女子……せめてヒソヒソ声は聴こえないように出して……。
っつーか!
何でヒソヒソって擬音を言葉に出して言ってるんだよ!
女子たちまでもが突っ走る気満々なのかよ!
確かに松平さんは女子にも人気だったけど!
はあ……もう、いろいろ高度過ぎるよ……。
何かコレだと、高度って言葉の意味が変わっちゃいそうだけど……酷い精神汚染だってばさ。
まあ、その場はそんな感じで散々ながらも無事の元に散会した訳だが、今に至ってももちろんみんな、そんな事は実行していない。
ただもし、僕がリリィとも松平瑞穂ともエッチしちゃった事がバレたら確実に、漏れ無く粛々と遂行されるだろうから、それだけは命懸けで隠し通した。




