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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
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〔3-19〕どうにかなっちゃいます

 そんな僕の不穏を知ってか知らずか、リリィはさらに話を続けた。


「私はそれなりにお金を持っていますから、ラブホテル通いをする事はできます。あるいは部屋の機密性だけを考えれば、ホテル住まいでも問題ありません。しかし私は、お金を湯水のように使うつもりは無いんです」


「それならなおさら……マンションとか無駄なんじゃないの?」


「そうでもありません。きっと私はもう、マスターの元へ戻る訳には行きませんから。それに私はもう、マスターの元へ戻るつもりもありませんから。どこか、居場所にできる拠点が、私には必要なんです」


 あー。

 こっちが本当の目的だったか。

 何かリリィって、本当に言いたい事を後ろに回すような話し方、するよね。


 だけれども……。


「それにしたって家賃とか、どう……」


 その時、松平瑞穂のケータイが鳴動した。


「あ、お父さんからだ。計算できたのかな」


 そう言ってケータイを操作していた彼女は……一瞬にして蒼白になった。


「……無理」


「何とありましたか?」


「ダメ! こんなのどうにもなんないよ! 私やっぱ、もう終わりだよ!」


「総額はいくらだったんですか?」


「……リリィちゃん……やっぱり私を、殺してください……」


「ミズホ! ……ケータイを、見せてください」


 松平瑞穂は、その画面をこちらへ向けた。

 そこには、扱い慣れない桁数の数字が表示されている。

 大金なのはひと目で判るが、額がすぐに把握できない。


 ¥9,581,604,000‐。


 そんな感じの数字だった。


「およそ九十六億円、ですか」


 リリィ……どうするの? これ。

 彼女が言う通り、いくら何でもどうにもならないでしょ?

 宝くじ当てまくったとしても到底追い付かないだろうし、これを何とかできるような裏ワザっぽい切り札なんて無いように思えるけれども?


「よかったですミズホ、あなたが死ぬ理由は綺麗に無くなりました」


 ……へ?


「リリィちゃん? こんな大金、どうにかなっちゃうの?」


「はい、どうにかなっちゃいます。この額でしたら、即金で支払う事ができますよ。全額私が、肩代わりします」


 ……。


「ええええええええええええええええええええええええええええええ?」


「はあああああああああああああああああああああああああああああ?」


 ちょっと待ってよ!

 さっき九十六億って言ったよね!


 九十六億って、九十六億でしょ!

 九十六億で合ってるよね?


 しかも何か、即金とか聞いた気がするけれど?


「リリィ、ちゃん……? 何で、そんな……」


「……リリィのマスターに、出してもらうとか?」


「いいえ。私が肩代わりする、と言いました。マスターも貧乏という訳ではありませんが、きっと私のほうがお金持ちですよ?」


「どうしてそんな大金を……リリィが?」


「はい。私は、コンピュータプログラムも勉強しました。そしてその成果を確認する為に、実践の題材に選んだのがオンライントレーディングなんです」


「それで一山、当たっちゃった?」


「一山どころではありませんが、とにかく当たっちゃいました」


「ちょっとそれは……運が良過ぎるというか、むしろ都合が良過ぎない?」


「盲点をうまく突いたんです。そもそもプログラムとは、予定の事です。行事の演目予定なんかをそう呼びますよね?」


「あ……うん、そういえばそうだね」


「つまり、プログラム通りに動くコンピュータは、予定された動作しかできないものなんです。ですから一般的にあるトレードシステムは、予定外の事態が発生した時に間違った処理をさせない為に、その決裁に人間の承認を必要とするように作られているんです」


「まあ、そうするしか……無いよね?」


「しかしそれは、人間が判断を下すまで処理が保留、遅延してしまうという事でもあります。私はそこに隙があると考えて、全自動のシステムを構築してみたんです」


「全……自動?」


「はい。既存のシステムでもある程度の自動化は果たされていますが、それでもまず何にどれほど投資するかくらいは人間が決定しなければいけません。私はそれすら自動化しましたが、このシステムは私の思惑を超えてうまい具合に稼動してしまいました。どんなトレーダーにも先んじる事ができ、裏をかく事ができ。結果、私は膨大な資産を手にする事になったんです」


「はー……」


「ただ、そのシステムには大まかに二つくらい問題がある事が分かってしまったので、そんなに長い期間稼働させられませんでした」


「いや、でも……やっぱり凄いな、リリィは。全自動って……本来、人間が状況を見ないと判断できないものまで、プログラムにしちゃったんでしょ? そんな事、どうやって?」


「そうですね……ここでトレードやプログラムについて詳しくは語れませんし……そこはとにかく、いい感じになるように組んでみた、としか……」


「ふへえ……」


「まあ取っ掛かりを簡単に説明すれば、すべての情報が集まった時に人は判断を間違えない、というのが基本です」


「すべての情報が集まった時、人は判断を間違えない……?」


「はい。ちなみにこれは、情報処理に限った話ではありませんよ? 判断が必要な局面、すべての場合においての基本です。逆に言うなら情報がどこか欠けている場合、何ら正しい判断はできないと思ったほうがいいでしょう。心掛けておいてください」


「……何か真理を聞いちゃった気がする……リリィちゃん神」


「多くの人が気付いている事です、そんなに大それた話ではありませんよ。トレードに関しては、要は人が欲しがる物が売れるんですから、情報の海であるインターネットをいかにクロールさせて、それをいかに迅速に解析して人々の興味の動向を割り出すかが鍵になります」


「おー、なるほど」


「ただ実際問題として、すべての情報を根こそぎ引っこ抜くには回線速度的にも処理速度的にも無理がありますから、情報の間引きも必要になります。そういう解決困難な問題を避けた結果、含んでしまう欠陥の事を仕様と呼ぶんですが、それでもアクセス数の多いサイトを探し当てて選んで、そこに掲載された文章と画像だけ解析するようにしてあれば、世界中の人々の興味をサンプリングしてその推移をある程度予測する事ができますから、まあ及第の仕様と云えるでしょう」


「ほわわー……」


 ……。

 天才、なんだ。

 リリィはこんなに傍に居るというのに、とても遠い存在であるという実感はさらに強まってしまった。


 うーん、リリィ自身がこちらに懐いてくれているだけに、しかしこれは、どうも……。

 僕がもっとガキだったら、素直に手放しで褒める事ができたのかも知れないけれども。


「……もしかして私たち……とんでもない偉人と、お近付きになっちゃいました?」


「そうでもありません。私はマスターが端末に設定した年齢フィルタを、とうとう突破する事ができませんでした。マスターのそれは、神業と呼んで差し支えありません。それに……お金なんてものを持っていても、何にもなりませんよ?」


「え、えええええ? そんな大金あったら、欲しい物何でも手に入っちゃうんじゃあ?」


「殺人兵器が愛を知る方法。それはお金で買えますか?」


「……あ」


「私に物欲はありませんが、それだけはどうしても欲しいと思います。そしてそれが手に入らないなら……こんなものを持っていても、何にもなりません」


「そっか……ごめんね?」


「いいえ」


 松平瑞穂が申し訳無さそうに言うも、リリィはかぶりを横に振って流した。

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