〔3-18〕今はそれよりも
僕の疑問をよそに、リリィは続ける。
「今はそれよりも……ミズホ。これから私とオリヒコを、あなたの家へ案内してもらう事はできますか?」
「え、うち? どうして?」
「実は少し、困った事になったと思っています。オリヒコは私のせいで、命の危機に曝されています。当初は今とは状況が微妙に違いましたが、とにかくそれで私は彼の傍で彼を守る事、その為に彼の部屋に滞在する事を決めました」
「あ。そういえば、一緒に住んでるって話だっけ?」
「はい」
「同棲、かあ。すごーい。何か……進んでるね?」
「ともあれ今また私のせいで、あなたまでが命の危機に曝される事になってしまいました。私はあなたの事も、守らなければいけません」
「あ。守ってくれるんだ?」
「はい」
「じゃあリリィちゃんって、そんなに強いんだ?」
「相手によりますが、それなりに」
「それなりに、かあ。すごーい。何か……カッコイイね?」
「ただ、その為にはあなたにも、オリヒコと私の傍に居てもらわなければいけないんですが……彼の部屋は、三人で生活するには狭過ぎるんです。特に寝床が、どうにもなりません」
「あ。それで、うちに?」
「はい。あなたは社長令嬢ですからそのお宅には、少なくともオリヒコの部屋に比べれば、多少のスペースがあると考えました。やっかいになるのが無理なら、これからホテルを探してそこを仮の宿にしますが、そこへはあなたにもついて来てもらう事になります」
「ううん、大丈夫だと思うよ? 客部屋もちょうど二つあるし」
「そうですか、それはよかったです。移転してしまうと、すぐには必要無くてもいずれかは引越が必要になりますから」
「いらっしゃい。じゃ、駅行こっか」
ちょっと待った。
どうも話が、勝手に進んでしまっているけれども……。
「あー……ちょっと待ってリリィ? それじゃあ僕も、松平さんの家に?」
「そういう事になりますね」
「なら……僕の引越は決定事項、なのかな?」
「そうですね。それはもう、仕方ありません」
そっか……狭いなりに、愛着はあったんだけどな。
しかし、カノジョの家へちょっとお邪魔するとかいう話なら、何となく甘酸っぱさもあるけれど。
お世話になるという話にまでなってしまえば、どうしても構えてしまう。
いいのかな。
と、僕のそんな考えをまたぞろよそに、リリィはさらに言い出した。
「ただ、一旦は彼女の家へ落ち着いても、また再び転出する事になると思います」
「どうして?」
「私は、マンションを探すつもりです。それには時間が掛かるので、取りあえずは彼女の家に間借りさせてもらいます」
「え、リリィちゃん何で? ずっと居てもらう事も、多分できると思うよ? まあそれは、借金が何とかなったらの話なんだけども……」
「あなたの為ですよ? ミズホ」
「ええ? 私は全然構わないよ?」
「そういう事ではありません。私が何を基準に物件を探すと思いますか? 立地でも居住性でも、値段でもありません。遮音性です。だからアパートではダメで、マンションです。戸建てでもいいですが、それは手続き的にも時間的にも難があります」
「……音?」
「あなたの声が問題なんです。少なくともあなたの家では、気兼ね無くオリヒコとセックスする訳には行かない筈です」
……。
「ちょっとリリィ!」
「いやあ、リリィちゃん……それは。私はその、そういう事……進んでしたいほうじゃ、ないし……まあええと、宮前くんに望まれる……ならもちろん別だけど、そんな話になってもラブホとか、行きますから……」
このセリフで説得されてくれればよかったんだけど、もちろんリリィはそんなタマじゃあないし、そしてそれどころかとんでもない事を言い始めた。
「それが頻繁であってもですか?」
「え。えええええ」
「リリィ! 人を色魔みたいに云うな!」
「否定しますか? 厚かましい。ミズホ、オリヒコは私と出会う前まで、しばしばマスターベーションを行っていたんですよ? その頻度も毎日必ず、多い日には五回も六回も」
ちょっ!
「……ろっかい……」
「リリィいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「その時何を……いえ、誰を想い浮かべていたかは想像に難くありません。それは、受け止めてあげなければいけないと思いませんか?」
「……ふええええ……」
何なのこの暴露プレイ?
「松平さん! 受け止めてくれなくていいから!」
「なら、オリヒコ。あなたはマスターベーションを続けますか?」
「……リリィは何でそんなにエッチなんだよ……」
「言いませんでしたか? 私は、欲には正直であるべきだと考えています。私自身、知識欲については知っての通りですし、もし私に性欲の持ち合わせがあれば、私はとんだ淫乱になり得ていたと思いますよ」
「……はあ……」
その可憐な顔で、私はとんだ淫乱とか言わないでくれ……。
「というよりも本当に、私は近日、性欲に目覚めるかも知れません。その時には、オリヒコ。あなたにはきっと、覚悟してもらう事になりますよ?」
げっ!
本気ですか!
っつーかしかも、そうなっちゃう可能性って全然低くないでしょ!
ちょっと助けてよ松平さん!
「あー、そっか……もしそうなったら、宮前くんの事……どう共有していくかとか、考えないといけない、のかな……?」
えええええ!
逃げ場無いのかよ!
っつーか……その。
乱れまくっちゃってるリリィの様子を、思わず想像してしまい。
いや、それを実際に目で見てみたいというのはもちろんあるんだけど……男だし。
いやいやいやいやいや、その想像が頭から離れないんですけど……。
どうにかなりませんか……どうにかしてください……。
じゃないと……あ、あ……あ。
……あーあ。
反応してしまった……さっきまで深刻な話だったのに……もう男で居るのイヤだ……。




