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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
38/66

〔3-16〕選択は

「他に何か、知りたい事は?」


「……思い、当たり、ません……」


「そうか。なら、話を戻そう」


「いいえ……あと一つ。私の標的は常に強敵でした。それが今回に限って、オリヒコが標的になった。どういう事ですか?」


「その強敵は、我々の能力を利用せんが為にマスターの技術を付け狙うものと思われる、敵対勢力だ。それは撃退しなければならないが、宮前少年についてはただのお遣いだ。この二つを同じ種類の命令として捉える事に、無理は感じなかったのか?」


「……それは……」


「あなたは殺人兵器などと勘違いしているが、我々はそんなものではない。そもそも我々の能力だってただ単に存在するものであって、戦闘を想定して用意されたものでもない訳だ。つまり敵対勢力への対抗には有用だったというだけで、だからその為だけに命令が言い渡される訳ではないんだ」


「……兵器でないなら私たちは……何の為に作り出されたんですか?」


「超人の救済。何かの為の手段というよりも、目的そのものだ。そんな事をして何になるのかは不明だが、マスターがそう言うのだからそうなんだろう」


「……」


「知りたい事はまだ?」


「……ありません……いえ、もう一つだけ。あなたは完全体との事です。遺体の提供を受けたんですか?」


「いいや、私は目覚めた時から完全体だった。どうやらマスターに、軍隊や工作隊などの威力を作るつもりは無いらしく、我々を不用意に増やすつもりも無いらしい。だから本来なら、私は存在しない筈だったんだが……」


「……では、どうしてあなたは?」


「甦生の時点で完全体とする手段を、発見したとの事だ。何でも、元となる死体の年齢が二十五歳程度を超えている必要がある、という事らしい。超人の中でそこまで生き長らえる者はほとんど居ないようだが、とにかく要するに……私は単なる、その実験台だ」


「……そうですか……。それなら、マスターを……恨んでは?」


「余計な事をしてくれたとは常々思う。ただ私はあなたと違って、いろいろ感じる事ができるからな。それなりに楽しみはある訳だから、一応の感謝も持ち合わてせいる。まったく違うし、そう思いたくもないが、云ってみれば親のようなものなんだ」


「……」


「いいかリリィ? マスターは普通の人間なんだから、我々の能力があればいつでも逆らう事ができるし、あるいは無視もできる。なのに命令……いや、命令という呼び方すらそもそも癪だが、私がマスターの要求を律儀に聞き入れるのは、それがあるからだ。そういうあなたは、どうしてマスターに従うんだ?」


「……私は、殺人兵器。マスターに作られた、道具。そう、思って……いました……」


「気の毒だな。……まだ他にも?」


「……いいえ」


「そうか」


 リリィから追加の質問が繰り返されたせいだろうか、その返事にマークⅢは充分時間を置いた。

 そうしてこれ以上何も出てこない事が確認できると、いかにも選びがたい選択肢をリリィへ突きつける。


「今度こそ話を戻す。あなたは完全体になる必要がある。それには、宮前織彦。松平瑞穂。どちらかの命を奪う必要がある。あなたが選ぶんだ、リリィ」


「……そんな事は……お断り、します。私が、完全体になる必要性とは、何ですか?」


「何を聞いていた? あなたの希望だろう?」


「そんな希望を……私が、しましたか?」


「私が直接聞いた訳ではない。それでもあなたは常々、言っているそうではないか。愛が知りたい、と。違うのか?」


「……それは……相違、ありません……」


「あなたのその欠落はただの封印なのだから、つまり完全体になれば自動的にあなたは、それを知る事ができる。さあ選ぶんだ、どちらだ?」


「……」


 リリィ……。


 こんな話になるとは、思わなかった。

 正直、きちんと理解できているかどうかも、よく判らない。


 どうなる、んだろう?

 どうなって、しまうんだろう?


 リリィの判断は?


「オリヒコ……ミズホ……私は」


 と、その時。

 声を張り上げた者がいた。


「リリィちゃん! 私で! 私でいいよ!」


 松平瑞穂。


「……何を言い出しますか? ミズホ」


「話は……よく解らないけど、分かったよ? リリィちゃん大変だったんだね……? 私を殺して、どうか幸せになってください……」


「私は、そんな事はしません」


「リリィちゃんがしなくても……この人はするんでしょ?」


「させません」


「いいんだよ……いいの。私きっと、この為に生まれてきたんだよ……」


「馬鹿な事を口走らないでください。大体、どうしてあなたが殺せなどと言い出すんですか?」


「それは……死にたいからだよ?」


「どんな理由があってですか?」


「さっき全部話したよ? 多分私はもう終わりで……これ以上つらい事があるなら、死んだほうがマシだと思ったから……」


「あんな事で絶望してはいけません。活路は存在します」


「他の理由もあるよ? 宮前くんが死んじゃったら、やっぱり私、平気じゃ居られない。だったら、私が身代わりになる。それでリリィちゃんも幸せになれるなら、一石二鳥でしょ? そしてリリィちゃんは宮前くんと、末永く幸せに暮らして……」


「素晴らしいです。美し過ぎるほど尊い自己犠牲です。とてつもなく寛容でお優しいおかたなんですね、あなたは。私は非常に感服しました。あなたの事はきっと、末代まで語り継がれるでしょう」


 リリィが唐突に展開した、普段見られないキツい言葉に、松平瑞穂は少しひるんだ。

 っつーか、僕も少しビビった。


「う……。それは……イヤミ、ですか……?」


「そうですよミズホ、あなたもオリヒコと同じくらいの馬鹿だという事はよく解りました。それは基本的に悪い事ではありませんが、今この状況でその馬鹿は罪です」


「どう、いう……?」


「まずあなたは、オリヒコが死ねば平気では居られない、と言いました。ではあなたが死んでも、オリヒコは平気で居られると思いますか?」


「あ……そ、それは……」


「つまり残された側の気持ちを重視するのであれば、あなたかオリヒコのどちらかが、という選択肢はそもそも存在しないんです」


「……」


「それに、です。仮にあなたが死んで、その結果私が完全体となり。しかしそれで私がそのまま、オリヒコと結ばれてめでたしめでたし、というような事にはなりません」


「え……それは、ケッコンの話?」


「違います、それ以前の話です。マークⅢ」


「何だろうか」


 いきなり話を振られたマークⅢは、しかし特に慌てるでもなく受け応える。


「ミズホが死んで私が完全体になったとしたら、オリヒコの処遇はどうなりますか?」


「私はマスターではないから、判りかねる。ただ……いろいろ知ったからな? 確かにある程度の覚悟は、必要かも知れない」


「そういう事です、ミズホ」


「どういう事なの?」


「判りませんか? 知り過ぎた者の処遇。どちらを犠牲にするかという私の選択にかかわらず、あなたたち二人に平穏無事の保証は無いという事です。直ちに命を奪われたりはしないかも知れませんが、少なくともあなたが死守しようとした学校生活はまず、消えて無くなるでしょう」


「そん……な……」


 ああ……そういう事も、あるか。

 むしろ、ありがちではある。


 そんな事を告げたリリィは、しかし毅然としてマークⅢへ向き直った。


「そしてマークⅢ。それとは別の理由で、私はどちらを犠牲にする事も拒否します」


「その理由とは?」


「私は成長を見ています。オリヒコと出会ってからのこの二日間で、私は抱擁から安らぎを得る事に成功しましたし、また嫉妬をする事も、独占欲を主張する事も覚えました。意識の閉じた睡眠もです」


「……何だって?」


「私はこれからも、さまざまなものを開花させてみせます。そして最終的に、愛というものを獲得してみせます。……いいえ、もともとが人間だというのであれば、取り戻すと云ったほうが正しいのかも知れません。だから、私を完全体にする。そんな事は、余計なお世話……どこへ行きますか? セリフは最後まで聞いてください」


 そう。

 マークⅢはリリィの言葉の途中で、いきなり背を向けていた。

 呼び止められれば振り返り、一応の説明はする。


「急用を思い付いた。また接触するから、その時までに方針を決定しておいてもらいたい」


「それは今、決定しました」


「早計だ。不完全体の欠陥とは何か、知る前に決めてしまうのはな。その決定は今受理しないから、よく考えておいたほうがいい」


 言い残すと、マークⅢはその辞する理由に従ってか、足早に去っていった。

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