〔3-9〕結実
リリィの見守る中、二人してベッドの中央に寄った。
松平瑞穂も、バスローブである。
「あはは。照れくさいね?」
「そう、だね」
「どういう風に、いたしますか?」
「どういう、って?」
「えっとまあ、どっちがリードするとか。それから……ちょっと恥ずかしいけど、オーラルな事もしてあげられるよ?」
「オーラル? って?」
「いやそれは、そのー……お口で」
「……あーいや、えっと、そんな……その……」
「あはは。じゃあやっぱり、私がリードって事で」
「ごめん……」
「いいよ? 私、好きな人にはどんな事でもしてあげたい」
「……」
凄いセリフを今聞いた。
何なのこれ? 夢なのこれ?
今も言われたが、しかしそれはちょっと疑問に感じていた事だった。
それをそのまま、目の前の彼女へぶつけてみる。
「あのさ、今さらなんだけど……」
「えっと。怖くなっちゃった?」
「あ、いや、そうじゃなくて。松平さんって僕の事、そんなに……?」
「ん……あー。そっか。あんまり急だって思う訳ですね? 確かにまあ、いくら見事に口説かれたとしても、それがエッチする二日前の話ってだけだったら、流石に私もどうかと思うよ?」
「……え?」
どうも最近、意味がすんなり入ってこないセリフをたくさん聞かされている気がする。
「もちろん決定的だったのはおとといの告白だよ? 私、凄い嬉しかった。なのに、はいって言えないのがもの凄い悲しかったんだけど……」
「……あ、それは……本当にごめん……」
「ううん。それはもう、いいんだ。それよりもね。憶えてる? 入学式の次の日」
「……え」
その日にあった彼女との接点といえば、これしか無い。
「えっと、糸くず……」
「うんそれ! ……憶えてたんだね」
いやそれはもう、鮮明に。
けど、どうして松平さんがそんな事を?
彼女にとってはほんの些細な事だったと思っていたのだが、その彼女は今とても嬉しそうにとても穏やかに笑い、こう言った。
「……ごめんね?」
「いやあの……何でそこで謝罪なの?」
「うん。あの時別に、糸くずなんてもん……付いてなかったんですわ」
……はい?
「もちろん、あの時から今みたいに本格的に好きだった訳じゃないけど、まあちょっといいかな、とは思いまして。要するに……単にツバ付けてただけなんです、あれ」
……はい?
「それ繰り返して気を惹こうかな、とか馬鹿みたいな作戦だったんだけど。今にして思えば、もしそのすぐ後に校長がちょっかい出してきてなかったら、私も宮前くんとおんなじやり方で告ってたかも知れないね? あはは」
……はい?
「そんな訳ですから宮前くん……ねえ宮前くん」
……はい?
「ちょっと。宮前くん?」
……はい?
「きーこーえーてーまーすーかー?」
「……あ、え、あ」
「あ、戻ってきた。そんな訳ですから宮前くん、これからあなたとエッチする女の子は、別に自分に嘘をついてる訳でも、気持ちから背伸びしてる訳でもないんだよ? あなたに抱き締められたい。愛されたい。そう、ただ純粋にそう思ってるんだよ?」
「……松平さん……」
その……これは、何と言ったらいいのか……。
「あはは。何て言ったらいいか判らない、って顔してますな。あはは、まあそういう訳なんで、大丈夫。大丈夫ですよ? 何も心配しないで……ね?」
「……」
えっと、何?
僕って……とんだラッキーボーイだったの?
いやまあ、それはそれとして、彼女が本当に僕の事が好きなんだと判ったのは、もちろん嬉しい。
しかしそのせいで、僕は彼女があまりまともに見れなくなってしまい、ちょっとオロオロしてしまった。
すると……。
「あー。でもこれ……すごくドキドキする……あ、あれ? 私……やだ、嘘……私?」
彼女もまた落ち付かなげに、見合っていた顔を少しそらしたりしたのである。
「え、松平さん?」
「あ、あ、あ……大丈夫、かな……わ、わたくし、きききき緊張してまいりました!」
「……大丈夫……?」
「あ、あああ……うあー……校長相手だと、かえって何も考えないですんなり始めちゃってたけど……好きな人相手だとこんなに……ああ、こんなに踏み出しづらいんだ……私、初めてじゃないのに初めて……みたい、だよ……?」
「松平さん……」
「私……ちゃんとリード、できない、かも……ご、ごめんね? えっと……ごめんね?」
「いや……いいけど……」
「うん……ごめんね?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……えっと。うん」
お見合いの末、そんな合図を彼女は出した。
そのような流れで僕は、ごく短期間のうちに二人目を経験する運びになった訳だけれど。
ただそれは、リリィとの時とはまったく違う体験となった。
松平瑞穂は、僕が彼女にするどんな事に対しても、まるで水へ放り込んだナトリウム塊のように激しく反応し、その体はちょうど釣り上げられたばかりの魚のように大きく踊り跳ねた。
また、そんな状態にありながら狂おしいほどの抱擁を見せ、絶対に離れようとしなかった。
そして彼女は何度も、何度も何度も、僕の名前を呼んだ。
それらは尋常でない興奮と、愛欲をかき立てられるものだった。
小柄で痩身である彼女の肉体は、リリィと比べてしまうと大分、実りに乏しいと云わざるを得ない。
それでも、そんな事は関係無かった。
普通の女の子とは、これほどまでのものだったか。
そんな感想を持つ事を余儀無くされ、それは少し、と云うにはもう少しだけ強く、リリィに対しての申し訳無さを感じさせられた。




