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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
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〔3-8〕入城

 フリーズ。


「ダイジョーブ、怖くなーい」


 入口の前で往生した僕を、松平瑞穂はそんな風に茶化した。


 そこは電車で二駅行って、繁華街から少し外れた所にあるラブホテル。

 いや、高校生だし。

 もちろん、入るのなんか初めてだし。

 しかも、女の子は二人居るし。

 固まるなというほうが無理だろう?


「もう。これじゃあ私が、エッチに積極的な女の子みたいになっちゃうでしょ?」


「ミズホ、その辺で。オリヒコも性欲は強いみたいですが、それでも私の扱われ方を思い返す限り、恐るべき奥手と断じざるを得ません。あなたがリードしてください」


「あ……さようでございますか……。えっと、じゃあ」


 松平瑞穂は、僕の手を取った。


「……あ」


「ごめんね? 行こ?」


 手が、引かれる。

 拒絶する訳にも行かない。

 ついて行くしか無かった。


 後から振り返れば多分、彼女は少しおめかししていたんだと思う。

 ただ、それを見ている余裕とかなくて、どんな服装だったかチェックする事も、それを誉める事もできていなかった。

 あーあ、未熟だなあ……。


「今日は、私の我が儘だから。私が払います」


「あ……でも」


「大丈夫。まだそれくらいの余裕、あるよ? それよりも、宮前くんのほうがキビシイ事、私、知ってるから」


 うあー……何かもう、情け無さ過ぎる……。


 中に入ったが、無人のようだ。

 まあ、そんな感じなのは風の便りに聞いた事はある。


「一番やっすい部屋でいいよね? オプションも要らないかな?」


「オプション?」


「エッチな道具とかコスプレの衣装とか、あとエロビデオ? それから録音録画の機材もあったりしますよ?」


 ……アブノーマルすぐる。


「まったく不要ですハイ」


「だよね? あはは」


 フロントのパネルのようなものを操作した後、松平瑞穂はこう付け加えた。


「でも密かに、録画は興味あったりした?」


「……無いよ!」


「そっか。録音のほうだったか」


「勘弁してください……」


 ねえ、松平さんっていじめっ子だったの?

 ねえ、だったの?


「あはは、ごめんね? そっか何々のほうだったか、ってセリフ。ちょっと言ってみたかったんだ。……えっと、二階だ、201。行こ?」


 エレベータは、ある。

 しかし、曲がりなりにもホテルを名乗っているくせに、それは何故か最上階で停止していたから、階段を行く事になった。

 まあ二階ならすぐではあるが、その途中で僕に支えられながら階段を登るリリィが、割り込んでくる。


「私は、録画は欲しいと思います」


「ほほう。リリィちゃんもなかなか……じゃ、追加する?」


「リリィ……それ僕も映るだろうから、やめてくれない?」


「それならやっぱ録音は? 私の声しか入らないだろうし、記念にどうっすか? 旦那」


「いや……だから……」


 まあ本音を言えば録画も録音も、喉から手とか、触手とか、もっと凄いモノまで出てきてしまうほど、超絶欲しいのだけれど……それを言ったらすさまじい勢いで、人生が終了してしまう。

 イタズラっぽい表情をして言っているのだから、もちろん松平瑞穂も本気でサジェストしている訳ではない筈だろうし。


「着きました!」


 201号室のドアを、三人で通過する。


「あ……しまった。安い部屋だとお風呂、狭いみたい。一緒に入れないけど、ごめんね?」


 くそうラブホテル、誘惑だらけじゃないか!


「宮前くんが先にお風呂、使ってください」


「うん」


 脱衣所で服を脱いで、入ってみればバスタブが無かった。

 アパートの部屋を思い出してしまう。


 ……あの狭い所に、僕とリリィは二人で詰めていたんだよな。

 うーん。


 しかし普通に考えたら、土地に余程困っていない限り、安い部屋だからといって風呂をわざと狭く設計する必要は無い。

 階層を増やして、間取りが似通う事になるのなら、なおさらだ。

 つまり、エントリー料金を安価に設定して広く集客しつつ、リピーターからはさらに儲けようという計算があるのだろう。

 憎い、憎過ぎるぞラブホテル!


 ……カモにされるかも知れない。

 できるだけ来ないようにしよう。


 シャワーを適当な所で切り上げる。

 脱衣所に用意されているバスローブを羽織ってみるがコレ、否応無く気分が出るなあ。


「終わりました」


「じゃ、私入ります。待っててね?」


 そう言い残して、松平瑞穂はバスルームに入っていった。


 ふと見やればリリィは、ダブルベッドの傍でただ、立っている。

 そういえばこの部屋、椅子とか無いのだけれども。


「リリィ。ベッドに座ったら?」


「邪魔になります」


「でも、足……」


「耐えます」


「……ダメだよそれは」


 リリィに歩み寄ると、僕は彼女を無理矢理ベッドへ腰掛けさせた。


「これだけ大きなベッドなら、邪魔になんかならないでしょ?」


「オリヒコ。今、どんな気持ちですか?」


「え……」


「教えてください」


 少し考えてしまう。


「うーん……こんなとこ、初めてだし。緊張、するかな?」


「そうではありません。彼女に対してどう感じますか?」


 また少し、考えてしまう。


「やっぱり緊張するよ。憧れの人だったから」


「緊張の他には?」


「えーと……そうだね、不安とか、期待とか?」


「愛おしい。そのようには感じませんか?」


「あ、うん。それはもちろん」


「その気持ちを、噛み砕いて説明できますか?」


 あ、そうか。

 リリィはそれを知りたがっているんだよな。

 でも……。


「ごめん。それはちょっと、どう云ったらいいか……」


「そうですか。普段は表現するのが難しい事でも、実際に強く感じる瞬間であればあるいは、と考えたんですが」


「そっか。ごめん」


「いいえ」


「リリィは?」


「はい?」


「今、どんな気持ち?」


 そんな軽い気持ちで出た僕の質問に、特に深い意味は無かったのだけれど。


「……」


 あれ。

 黙ってしまった。


「訊いちゃ、いけなかったかな?」


「いいえ……私は少し、成長を見たかも知れません」


「え?」


「ただ、これがいい事なのかどうかは判断しかねます。それは、学校の屋上で彼女の告白を聞いたあたりから、ずっとです。彼女が羨ましくて、憧らしくて、妬ましくて。どうにもやり切れません。私はどうやら、嫉妬というものを理解してしまったようです」


「……あ……」


 それは……何と言ってあげれば、いいのか。


「オリヒコ……私は、どうしたら。今すぐ、この場を辞するべきなんでしょうか?」


「それは……リリィが、この後の事を見たいかどうかで決めれば、いいんじゃないかな?」


「見たい見たくないで云えば、見たいと考えます。ただ、その事に、云いようのない不安と、とてつもない恐怖を感じます」


「……え」


「こんな事は、初めてです。不安と恐怖は、もともと理解できます。でも……こんなのは、どんな敵と対峙した時にも、感じた事はありません。こんな……こんなの……オリヒコ。私はどうしたら? オリヒコ、私はどうしたら?」


「リ、リリィ?」


「オリヒコ! わ、私……どうしたら!」


「リリィ!」


 もうどうしようも、無い。

 何も掛けるべき言葉が、無い。


 ……抱き締めるしか、無かった。


「オリ、ヒコ……」


「……」


「……わた……し……」


「……」


「……」


 やがてリリィも、抱き返してくる。


「……」


「……」


「待ち切れません、でした?」


 まあ時間的にそろそろだったかも知れないが、松平瑞穂が戻ってきたのはこんなタイミングだった。


「あ、ごめん松平さん……ちょっと時間、ください」


「うーん……はい、待ちます。でも隣、失礼しますよ?」


 そんな事をつぶやいて、松平瑞穂はリリィとは反対側の僕の隣に、腰掛けた。


 彼女には悪い事をしてしまったが、今はそれよりもリリィのほうだ。


「……」


 そういえば。

 いや、これは一体?


 リリィは言った。

 確か言った筈だ。


 抱かれても安らぎは感じられない、と。


 さっき取り乱していたリリィは今、落ち着いてしまっている。

 どうしてだろうか。

 何か、リリィが落ち着きを取り戻せる要素が、どこかにあっただろうか。


「……リリィ?」


 ばっ。

 そのリリィは急に、僕を突き飛ばすようにして離れた。


「リリィ?」


「ごめんなさい。大丈夫です」


「えーと? リリィちゃんどうかしたのかな?」


「何でもありません。どうぞ」


 どうぞって、ちょっと。


「いやあ……どうぞと言われて、はい分かりましたって始めるものでもないんだけども」


「そうですか。私はやっぱり、中座したほうがいいですか?」


「ううん、そんな事はしなくて大丈夫だよ? 見られちゃうのは恥ずかしいけど、三人目の割増料金って結構高いし。無駄にするのもね?」


「そうですか」


 割増料金。

 そんなものが……あるのか!


 よろしい、ならば戦争だ!

 聞けえ全人類、真悪はラブホテルだ! ラブホテルを敵とせよ!

 どどーん! どんどんどーん!


「じゃ、宮前くん……取りあえず、お見合いから始めますか?」


「あ、はい」

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