〔1-2〕ネクロマンサーとゾンビたち
入学から二週間ほど経った、ある日。
最初の犠牲者になったのは、僕と同じ中学から上がってきていた、知った顔だった。
彼はずっとサッカーをやっていて体は逞しく、風采も栄えて、それなりに女子からの人気を獲得していた。
そんな彼が男子仲間に、松平瑞穂へ告白すると宣言してみせたのだ。
格好のいい彼なら、もしかしたらその告白は成功するかも知れない。
そう考えると、どうにもやる瀬ない気分になった。
しかし、その翌日。
彼は、授業も部活も精彩を欠いていた。
もうこれは、結果など彼の口から聞かなくてもおおよそ想像が付く。
それを見た後は、口にしては慰めの言葉もあろうが、内心にしては快哉を叫んだものだ。
そんな彼を皮切りに、それは見ていて面白いくらい次々と、男子どもは犠牲者へと成り果てた。
いくつかの時期に至ってはほぼ連日。
いくつかの日に至っては複数人。
松平瑞穂は、体育館裏や屋上などへ呼び出されては、しかしその都度相手を、ばっさばっさと斬り捨てるように振りまくったのである。
やがて、その死屍累々は恐ろしくも、五十を数えるほどになる。
そうなれば、もしや彼女は男に興味が無いのでは。
そんな噂が漂い始めたりした。
それに乗じて告白を決行し、そして無惨な姿へと変わり果てた女子の数すら片手では数えられない。
異常事態。
こんな言葉が、これほど似付かわしい話も無いだろう。
しかしいくら可愛いと言っても、である。
一人の少女へ、何十人もの男女が、恋慕し押し掛けるような事があるものか?
そんな疑問を持つ人も居るかも知れないが、そのような人物は確かに存在する。
何故と問われても説明できないが、はっきり言える事は一つ。
見れば解る。
というより、同じくらい可愛いと思える女の子なら、他のクラスにあと二人くらい居る。
上級生を含めれば、もっと居る。
その中で松平瑞穂だけは何というか、際立って光を発しているのだ。
それはもう見れば解る、ではない。
見なければ解らない、という訳だ。
ときに、振られて気力の抜けた犠牲者を死霊、つまりゾンビに見立て、それを立て続けに量産する彼女を死霊使い、すなわちネクロマンサーと呼ぼう、などと言い出した奴が居た。
即刻、袋叩きにされた。
そこへ松平瑞穂が仲裁に入り、馬鹿だねえと言いながら介抱したものだから、別途そいつは彼女の居ない機会に改めて袋叩きにされる事になった。
まあつまり、松平瑞穂は決して嫌な人間ではない。
彼女の人気はあくまで高いままだったのだ。
ちなみに袋叩きとは、大勢で取り囲んだのち、空気で膨らませたポリ袋で以ってバカスカ叩く事である。
それはまこと恐ろしき悪魔の所業であるから、僕は参加していない。
っつーか、いい音するんですけどアレ。
本気で魔的なモノを感じますよ。
しかし振ったのなら、松平瑞穂は相手へ何らかの理由を言い渡した筈である。
ところが、振られた相手がそれを口にする事は無かった。
彼女には既に特定の人が居る、という話は聞かない。
他の理由にも到達できない。
彼女の友人らも何やら訊き出しづらい空気、云うなれば聖域のようなものが感じられるらしく、尋ねた人は居なかったようだ。
うーん、何なんだろうね?
そう思いつつも既に、僕の中の恋心は揺るがないものとなっており。
……別に振られてもいい。
……とにかく気持ちだけでも伝えたい。
そんな事を考えた。
ただもちろん、僕もまだまだ青い訳で。
……もしかして。
……ゆくりなく。
……あわよくば。
そんな、夢物語を思い浮かべないでもなかった。




