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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
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〔3-5〕編入生じゃない

 リリィには一緒に中へと促されたが、相手が相手だ。

 やはりそんな気にはなれないし、だから廊下で待つと伝え、それを受けたリリィは素直に一人で入室して行った。

 しかし、それは余所者の彼女を単身、学校トップへ突き出すという行為であった訳で、後から考えれば酷い対応だったように思う。


 まあ、後悔は後に回るのが順序というものではあるが、そんなに短くない時間やきもきしながら待っていると、リリィが校長室から出てくる代わりに、廊下から僕の担任が来た。


「居たのか、お早う」


「お早う、ございます」


「何というか、宮前がなあ。火遊びはほどほどにしておけよ」


 多分、校長から担任へ内線が入ったのだろうが、それにしても一体どういう話に?


「居たんならちょうどいい。くだんの彼女の机と椅子を、教室まで運んでくれるか?」


「ええと、どこからですか?」


「南棟四階の隅の空き教室にあるから、適当なのを見繕ってくれ」


 げ、遠い。


「まあ俺は、ちょっと話をしてくるわ。宮前は入らないのか?」


「いや、その」


「そうか? まあいいけどな。なら今のうちに運んどけよ。彼女は俺が教室へ連れて行く」


 そう告げて、校長室に入って行った。

 まあ、席を用意しろという話なら、つまり彼女は教室に居られる事になったのだろう。

 取りあえずは、よかった。


 南棟四階は本当に遠かったが、それでも何とか比較的綺麗そうな机と椅子を選び出し、運ぶ。

 まだ早い時間なので廊下で誰かとすれ違う事はほとんど無く、そして僕の席はちょうどクラスの窓際の一番後ろだったから、何も考えずにそのさらに後ろへ設置。

 既に教室に居た男子にそれは何だと問われるも、適当にあしらった。


 松平瑞穂の姿もある。

 彼女は他の女子と談笑しており、僕がガタゴト机を運んで来た時にはちらりと視線を寄越し、目が合えばちょっと微笑んでみせたが、それっ切りだった。

 まあそれで普通であり、いつもと違う所は無い。

 そんな彼女の用件とは一体何なのかももちろん気になるが、それよりも重い物を運んだせいか脇腹が何気に痛む訳で。


 はっとした。


 それで思い出した。

 リリィも足を怪我している。

 どうしているのだろうか?

 一人にしてしまったのは、相当まずかったのではないか?

 そういえば下駄箱で、松平瑞穂からの手紙を見てから、リリィに肩を貸すのをすっかり忘れていた。

 その時、特に歩みを遅らせた覚えも無いし、普通に歩いた筈だ。

 平気だったのだろうか?


 あまりにも、うっかりとし過ぎだった。

 しかしその不安を煽るように、リリィはなかなかやってこない。

 時計は見れば既に八時過ぎ、もうしばらくでホームルームの時間となってしまう。


 やっぱり……怪我が?


 どうにも席でじっとしていられなくなって、廊下に出てみた。

 多くの生徒がたむろしているのが見える。


 リリィの姿は……。


 あった。

 担任の姿が見える。

 それに付き従い、普通に歩いてくる。


 思わず駆け寄った。


「リリィ!」


「……オリヒコ」


「だいじょ……」


「しー」


 僕の言葉を、彼女はとっさに僕の唇へ人差し指を当てる事でさえぎった。


「?」


「何を言いたいのかは大体判りますが、それは秘密にしておいてください」


「……あー」


 それを見た担任が、釘を刺してきた。


「おいおい、早速イチャイチャするのか? まあそれも勝手だが、一応ここは勉強する所だからな。建前くらいは通してくれ」


「あ、すみません」


 取りあえず、並んで歩く。


「机はどこに置いた?」


「あ、はい。取りあえず僕の席の後ろあたりに」


「隣に移動だ。確かそこは堀内だったか? 彼には後ろへずれてもらうか」


「え?」


「お前の専属顧問って設定なんだから、隣じゃないとどうにもならんだろ?」


 そんな話になりましたか?


「ホームルームで紹介するが、詳しい話はしない。後はお前らで勝手に話せ」


「はあ」


 詳しい話って、何が伝わってますか?

 さっぱり解らん。

 やっぱり我慢して、一緒に校長室へ入っておくべきだったか。


 そんなこんなで廊下を歩く。

 当たり前だが既に、注目を浴びている。

 きわどい私服の金髪美少女がいきなり歩いている訳だから、そこはどうしようも無いだろう。


 そして教室に入れば案の定、騒ぎになった。

 まあリリィは女の子である訳で、だから騒いだのは主に男子である訳だが。


「おおおおお?」


「転校生?」


「おいおいおい、むっちゃ可愛くね?」


「パツキン?」


「輸入物?」


「マジ?」


「お前ら黙れー、席に着けー」


 鶴のひと声で一応、落ち着きはした。

 それも嵐の前の静けさなんだろうなあ、とは思いつつ僕も席へ向かう。


 壇上の担任は、白墨を取って『Lily Water』と板書した。


「紹介するぞ。この子は今日からこの教室に来る事になった、リリィ・ウォーター。アメリカの出だが、日本語は普通に大丈夫だから、よろしくやってくれ。はい挨拶」


「リリィ・ウォーターです。よろしくお願いします」


 彼女はぺこりと頭を下げる。


「おおおおおおおおおおおおー」


「黙れ。あー、この子は編入生じゃない。そこのアホ宮前の専属顧問だ。マンツーマンで勉強の監督をする」


 ああ、言っちゃった。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああ?」


 大合唱。


「何で宮前だけ?」


「黙れ。俺もよく知らんから訊くな。とにかく特例だ」


「ずりーぞ!」


「意味分かんねー!」


「黙れと言っとろうが! あー、まあ特例になるくらいだから、この子は相当やる。多分俺よりもできるから、お前らも何かあったら教えてもらえばいい。それで、当然ながらこの子の席は宮前の隣だ。堀内、悪いがお前は後ろへずれろ」


 それでリリィに関して伝える事は全部らしく、ごく小規模な席替えが済むと出欠を取り始め、そして別の連絡事項に入る。

 もちろんみんな、そんなものには一切身が入っていない。

 それが終わって担任が退出すれば、僕らの席には即行で人だかりが出来た。


 しかしリリィは、相当可愛い筈の松平瑞穂よりもなお可愛いから、松平瑞穂を超える人気を誇る事になるかと思ったのだが、そうはならなかった。


「えっと、ウォーターさん?」


「リリィと呼んでください」


「じゃあ、リリィさん。こいつの専属とか、どうして?」


 取り囲んできたクラスメイトにそんな事を尋ねられた訳だが、リリィは自分の椅子を僕の椅子に寄せると、僕へしなだれ掛かったのである。


「このような関係ですから」


 ……。


「ぎゃああああああああ終わったああああああ!」


「兄貴ぃぃぃぃ! もう、ダメだっ!」


「待て! これは孔明の罠だ!」


「神も仏もあるものか!」


「宮前死ね!」


「もげろ!」


 絶望と呪詛の声が上がる。


「ちょっとリリィ?」


「私は、あなた以外の人を相手にするつもりはありません。こうしておいたほうがいいでしょう」


 うーん……嬉しいような、困るような。


 まあ、よく考えれば松平瑞穂の人気は、容姿とは別にある、形容できない魅力による所が大きかった訳で。

 だから、こんな事が無くても彼女の王座は揺るがなかったのかも知れないが、ふとその彼女を見やれば向こうもこちらを、ちらちらと窺っている。

 やっぱり、気にはなるらしい。


 その後もなかなか人だかりは去らなかったから、リリィに話が聞けたのは授業中、筆談を経ての事だった。


『どういう話に?』


『取り決めてあった設定をそのまま校長と担任へ伝えてあります』


『校長にはどんな手品を?』


『ある前置きをして後は普通に私へ便宜を図るよう要請しました。顧問の話は私が提案して校長が練りました』


『どんな前置き?』


『松平瑞穂の件を知っていますと』


 脅しか!

 黒いよリリィ!


 だからどうするつもりか言わなかったのかよ!


 っつーかそれって、話をどう持っていくも何も無いじゃんかよ!

 問答無用だよ!


『それも知ってたの?』


『図らずも監視中に。非常に有効と思われそれを超える手段を他に考え付きませんでした。ただそれを伝えた時の校長の反応が気になりました』


『反応って?』


『判断しかねますがただの不倫関係を指摘されたものとは違うような印象を受けました』


『どうしてそう感じたの?』


『どこまでをと訊き返されたからです。ご想像にお任せしますと切り返しておきましたが』


 それは……何だろう?


 確かに、校長のような立場の人物の不倫相手がその生徒、という事自体がそもそも致命的なスキャンダルである以上、その関係がどこまでの深さのものか知っているのかと訊き返すというのは、あまり意味を為さない。

 リリィの言う通り違うとしたら、それは今朝の松平瑞穂からの手紙と、何か関係あるのだろうか。


 まあそれはそれとして、もう一つ気掛かりだった件についても尋ねてみる。


『普通に歩いてたけど足は平気?』


『あまり。しかし怪我が見付かって病院に連れて行かれたら困るのでどうにか繕いました』


『一人にしてごめん』


『それは気にしないでください。ただ私も注意し忘れましたが私から極力離れないようにしてください。いつ何があるか判りませんのでずっと付き添います』


 あ、そっか。

 僕が気を揉んでいたのと別の意味でまずかったか。


『僕も忘れてた。でもそんなにべったり?』


『トイレの中までは流石に難しいでしょうけどその入口くらいまでは。冷やかされるとは思いますが何とかこらえてください』


『分かった。気が重いけど』


 そんな所だ。

 リリィは授業を真面目に聞いては要点を逐一僕に伝えてきてくれていたし、休み時間になれば周囲から質問攻めにされていた。

 他に、何かやり取りする隙は、無かった訳だ。

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