〔3-4〕下駄箱の中
そんなこんなで片道十五分の通学路を三十分でたどり、学校に到着した。
それでも時刻的には一応、普段よりずっとずっと早い訳だけれども。
「うーん。今後、自転車とかあったほうがいいんだろうか。怪我が治るまでこれじゃあ、ちょっと……」
「あるに越した事は無いですね」
「でも……買うお金、無いんだよなあ」
「それなら私が支払いますよ?」
「え? 大丈夫?」
「現金はありませんが、預金はあります。身のまわりの物なども手に入れたいですし、今日の放課後は買い物という事にしませんか?」
そういえば例の戦闘服、洗う前にリリィはそこから何やら、いろいろ携行品を取り出していた。
今それらは僕がリリィへ貸し出したミニバッグに入っているが、きっとその中にキャッシュカードか通帳あたりもあるのだろう。
「いや、それは。僕のお金じゃないから、僕が意見言っても」
「なかなか分別がしっかりしていますね。ただ、それでもあなたの同意は必要です。私がオリヒコの傍から離れられない以上、付き添ってもらわなければいけませんから」
「そっか。じゃあ、そうしよう」
「はい」
そんな事を話しつつ、玄関に入っていった訳だが。
……これは?
僕の下駄箱に、白い封筒。
土曜日に帰った時に、こんな物は無かった。
「えーと……」
手に取ってみるが、その封筒には何も書かれていない。
下駄箱に置くような手紙だから当然ではあるが、見ただけでは差出人は判らなかった。
リリィも尋ねてくる。
「これは、ラブレターという物ですか?」
「いや、判らんけれども」
だったら困る……の、かな?
僕もリリィも。
取りあえず今、周りに誰も居ないし、開けてみようか。
「私も見ていいですか? ラブレターでしたら興味があります」
「あ、ちょっと待って。先に僕が」
「分かりました」
うーん……。
リリィの目的は知っているから、そうじゃないという事はもちろん解るんだけれども。
それでもちょっとこれは、野次馬っぽいね?
ともあれ開封すれば、中から出てきた白い便箋には短く簡潔に、こうあった。
『宮前織彦様 今日の放課後に北棟屋上で 松平瑞穂』
「松平、さん……?」
今日の、と書かれている。
つまりこれは今朝、僕が来る前に投函したという事だ。
まだずいぶん早い時間だというのに、一体どうしたんだろう。
「松平さんというのは、あなたを振ったミズホの事ですか?」
「あ、うん。そうだけど」
「それで、何とありましたか?」
「ええと……見ていいよ」
ちらり。
リリィへその便箋を向ける。
短い文章という事もあり、彼女がそれを読み取るのは一瞬の事だった。
「……これは、私もついて行っていいんでしょうか?」
「どうかなあ……? 振られたばっかだし、まさか告白とかじゃないだろうから、ダメでもない気はするけれども……」
「では、ついて行きます。それより、私は履き物をどうしたらいいですか?」
「え……ああ。向こうに来賓用の下駄箱とスリッパがある筈だから、それで」
「分かりました」
リリィがスリッパを取りに行くその間も、僕は便箋から目を離せずに見入っていた。
黒いボールペンで書かれたその文字に、特に乱れは無い。
うーん?
「オリヒコ。私を校長室まで案内してください」




