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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
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〔3-3〕通学路にて

 少し困ったのが、リリィの着る物だ。


 彼女の戦闘服とやらは昨日の夜にやっと洗ったのだが、雨天たたって未だ乾いていない。

 実を言うと彼女の靴もきちんと乾いていないのだが、僕の物はサイズが合わず、今はこれしか無いので我慢すると彼女は言っていた。


 取りあえず上は僕のTシャツを下地に、さらに僕の制服の、半袖のワイシャツを選択。

 下着はNGとの事でノーブラであり、彼女のムネのまったくけしからんのがどうにも強調されてしまっている。

 加えて下はデニムのショートパンツ、ときた。

 その露出度に相まって、服の取り合わせとしてもあまりに事後感ありありで、正直もうエロさ全開過ぎるので別の物で勘弁して欲しかったのだが、いざという時の為に手足はなるべく露出させておきたいのだと言う。

 説得はできなかった。

 まあ彼女の足の傷だけは、長目の靴下でどうにか隠せたけれども。


 朝食も済んで早々に出発する事になったが、雨はやんでいない。

 しかし傘は一本しか無いから、相合傘をするしか二人が濡れないでいる手段は無かった。

 いずれにしても、足を怪我しているリリィには肩を貸さなければいけないから、二本の傘はかえって邪魔ではあるけれど……。

 これ、思いっ切り注目されるよなあ?


 自慢すればいいか!

 冴えてる!


 ……僕にそんな勇気が無い事を考慮しなければ。


 いや、でも。

 これって。

 いきなり目の前に現れた不思議少女が、無条件で慕ってくれるアレ。

 それそのものなんじゃないだろうか?

 確かにまあ、最大限の努力を、とかもっともらしい事は言ったけれども、しかし実際に何をしたという訳でもない。


 あれー、こんなもんなのかな。

 何だか拍子抜けしつつも、しかしすぐ隣の少女は可愛らしくひょこひょことやっている。


 ……いっか。

 可愛いは正義、という言葉もあるし。

 いや、知らないけど。


 しかしこれは、やっぱり歩きにくいし、歩きにくそうだし。


「怪我とか、都合よく治らないもんなんだね? 兵器なのに」


「そうですね。私も機械ではなく生体のようですから、修理という訳には行きません。その生体も、フィクションでは実に容易に怪我や病気が治ったりしますが、治癒というものはその本人が自力で行っているもので、医療というのはそれが滞り無くできるように手助けしているに過ぎませんし、実はそれ以上の事は何もできないんです」


「え……そうだったの?」


「魔法は存在しませんよ? ですから、人間そのものが変異してしまうか、物理の法則を覆すくらいに画期的な医療革新が起こらない限りは、そんな夢の治療法は実現しない。私はそう思います」


「結構、シビアな現実主義者なんだね、リリィは。でも、変形でどうにか……とかは?」


「私も液体ではありませんから。一度穴の開いた風船は膨らませようがしぼませようが、どう形を変えても穴は開いたままです。傷を隠す事くらいはできますが、塞ぐには至りません。そもそも、トランスフォームモードのままではエネルギーの無駄遣いです」


「なるほど。そうすると、これが治るのは……」


「完治するには少なくとも、一ヶ月は掛かると思います」


「ずいぶん扱いづらい兵器だね?」


「はい、非効率だと思います。私は運よく、滅多に傷を負ったりしませんでしたが」


「今回は、運が悪かった訳だ?」


「どうでしょうか。そのお蔭で今、私はあなたとこうしています」


「あー。それもそうだね」


「ただ、どうしてなのか……」


「え。何?」


「はっきりとした事は未だ、解りません。でも冷静に考えれば、あれは私が狙いを外すような距離ではありませんでした。私は絶対にミスを犯さない、などと驕る訳では決してありませんが、私はあなたの首筋を狙ったんですよ? いくら何でも、あり得ません」


「ふうん? じゃあ、何でだろうね?」


「はい。もしかしたら私は……そもそもあなたを手に掛ける事に、後ろ向きだった。つまり……最初から、あなたを殺すつもりは無かった、のかも知れません」


「そっか……それは、感謝しなきゃ……ね」


「いいえ、とんでもありません。私は今、申し訳無い思いでいっぱいなんです。こうしてあなたに付き添って守る事を決めたのには、その由も大きいんです」


「……そっか」


「私が、マスターの命令に従わない事を最初から決めていれば、あなたは怪我などしないで済んだ筈でした。本当に、ごめんなさい」


「いや、それは、もういいから」


「……そうですか」


 そこで一旦、会話は途切れる。


 ひょこり、ひょこり。

 隣のリリィは、とても健気だ。


 もうしばらく行って、ちょっと思い立って別の話をする。


「ええと、でも学校に行くって、勉強とかするの?」


「いいえ、ただあなたの傍に居ます。それに私は今さら学ばなくても、いろいろ知っていますよ? 専門的な事でなければ、一般大学レベルくらいまでカバーできると思います」


「うおい、言ってくれるなあ。みんなどんだけ苦労しああああああああああああ!」


 ヤヴァい……。

 すっかり忘れていたけど、そういえばヤヴァかったんだった……。


「どうしましたか?」


「もうすぐ、テスト……うあー……」


「不安があるなら、私が教えますよ?」


「え……でも僕、かなり……出来の悪い生徒だよ?」


「何とかします」


「じゃ……じゃあ、よろしく……頼んます……」


「分かりました。後で教材を見せてください」


 僕、ダメ人間かも知れず……。

 リリィが眩し過ぎる。


「でもリリィって、そんなに勉強したんだ?」


「それなりに。何が必要になるか判りませんでしたから」


「立派、だね」


「どうでしょうか」


 ここでまた会話は途切れた。

 二人、歩みを進めるが、早い時間だけあって通行人にはなかなか行き合わない。


 そうしてさらにしばらく行けば、リリィのほうから話題が挙がる。


「そういえば、私が学校へ行くにあたって決めておくべき事がありました。今、決めてしまいましょう」


「決めておくべき事?」


「私の正体を、どう誤魔化すかについてです」


「あ、そっか。忘れてた」


「それにはまず私の名前ですが、リリィだけでは不自然です。差し当たり、由来にちなんでリリィ・ウォーターを名乗ろうと思いますが、どうでしょうか?」


「それ、聴こえは悪くないけど、ウォーターって姓はあるのかな? 聴いた事無いような」


「無いかも知れません。ただ、ウォーターソンというのはありますし、何々ソンというのは何々の子孫という意味ですから、通らない事は無いと思います」


「へえ。じゃあ、いいかな?」


「では次に、生い立ちです。年齢は、あなたと同じ十六歳という事でいいでしょう。しかし、私が目覚めたのは日本でですが、どう見ても私は日本人ではありません」


「ウォーターって、どう聞いても英語圏だよね?」


「では適当に、アメリカ出身という事にしてしまいますか。そうですね、ロサンゼルスあたりで」


「あ、でも日本語ペラペラだよね? それ、どうしようか」


「たびたび日本へ訪れているか、半定住している事にしましょう。実はむしろ、英会話のほうが不得意なんですが、まあ簡単な日常会話くらいでしたらそれなりに」


「何でもできるなあ。ならそれで、問題無いか」


「そうしたら後は、私があなたの部屋に滞在している理由です。同棲はどうやってもバレるでしょうから、知られるのは時間の問題です。理由を考えておかないといけません」


「うーん。それは悩むなあ」


「はい」


「でも……あのクソ狭い男の一人部屋に、女の子が滞在する理由ってなかなか無いぞ?」


「そうですね……ではいっそ、こういう事にしてしまいますか?」


「どういう事?」


「私は家出少女。あなたは親切な人。そんな感じで」


「……うわお」


「そもそも私は通学する訳ではありませんから、きちんとした家も身分も必要ありません。それにその関係なら、あなたと私が親密にしていても何らおかしい点はありません。さらには、家出の経緯についてすぐに明かす必要はありませんし、他の経歴もそれを理由に内緒という事にできます。どうでしょうか?」


「凄い考えだね。突飛だけど、意外と穴が……あ。でもそれ、それこそ通報されない?」


「そこは、親は黙認しているという事で取り繕いましょう」


「それだと、親に確認しようとかいう事にはならないのかな?」


「私の見込みではそこまでの追及は受けないと踏んでいますし、そうさせない方向に話を持っていくつもりですが、もしそういう事になってしまった場合は、マスターに保護者役をやってもらいます。私の存在がおおやけになって困るのはマスターも一緒ですから、その程度は話を合わせてくれるでしょうし、実際にロサンゼルスに知り合いが居るようですから、委任状に見えるものや他のそれらしい書類もどきも用意できるでしょう」


「……なるほど」


 よくまあここまで、深読みできるものだなあ。

 それもたった今、ぽっと思い付いたような事に対して。


 もしリリィが本人の言う通りに改造人間であるなら、その頭脳もやはり人間のものである筈だ。

 つまりこれは完璧に、作られたという事を抜きにした実力として、この判断力を生来から持ち合わせている事になる。

 併せてその記憶力も、その学習力もだ。

 その上その年齢が僕と同じだというのであれば……いや。

 目覚めて六年と言うのなら、六歳と云ってしまってもいい。

 まあその、目覚めた時点での知力がどんなものだったかは判らないが、いずれにしてもこれは、もう。

 何と云えば、いいのか。


 ……天才。

 だろうか。


 人は完全を理想とするが、自身がそれに反して不完全であるがゆえに、完全な存在に対して親近感を覚えないと云う。

 僕も今、そんなような感想をリリィに持ってしまっていた。

 これはとても、不思議少女に慕われて、などという呑気を言っているどころではない。

 ギクシャクしないで、果たしてやっていけるのだろうか?


「もう一つ」


 僕のそんな戸惑いに気付いたかどうなのかは判らないが、リリィは話を続けた。


「え……あ。えっと、まだある?」


「二人の間では、あなたで通じます。しかし人前では、私はあなたをどう呼んだらいいですか?」


「あ、そっか。でもそれは、自由でいいんじゃない?」


「そう言われると迷います。あなたはどう呼ばれたいですか?」


「うーん……特に希望とか、無いけど」


「では、あなたは私をリリィと呼びますから、私もあなたをオリヒコと呼びます」


「あー。何か照れるな、それは」


「嫌ですか?」


「嫌な訳じゃ、ないけれども」


「では決まりです、オリヒコ」


 まあ結局、リリィが全部決めてしまったような気はする。

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