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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【3】超人と呼ぶべき存在
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〔3-2〕どうしようかと

 とっぷり暮れた頃、リリィが何の前触れも無く尋ねてくる。


「……明日は、学校ですね?」


「え。うん、まあ」


「私も行こうと思います。連れて行ってください」


「あ、そっか……うーんでも、連れて行く事はできるけれども……追い出されないかな?」


「はい。ですから、正面突破をします」


「正面、突破?」


「なるべく早い時間に出て、私を校長室へ案内してください。直談判を持ち掛けます」


「……校……長……」


 嫌な事を、思い出してしまう。

 せっかく忘れていたのに。


「何か?」


「あ、いや……説得材料とか、あるの? 僕には手伝えそうにないけれども……」


「どうにかします」


「そ、そう……」


 いや、無計画にそんな突撃をするような子じゃないのは解り切っているし、だから当然何らかの考えがあるんだろうけれど……言いたくないのか。

 まあ僕を口説いたのを見てもかなりの口達者だし、特に心配は要らないかな?


「でも、どうして学校なんか? あんまり知られないほうがいいんじゃ?」


「それについては後で、対策を練りましょう。同行したい理由は、二つほど」


「二つ?」


「まず、私への命令には期限が無いと言いましたが、マスターは監視を続けているかも知れません」


「え……えええええ。監視? また?」


「私ほどつぶさにはしていないと思いますが、それでも今の私を見れば当然、命令遂行の意思無しと判断する筈です。そうすればマスターが、何らかの手を打ってくる可能性が非常に高いんです。だからあなたの傍には常に、私が居る必要があります。私はあなたを……守らなければいけません」


「そっか。まあ背に腹は代えられないけれど、でも……女の子に守られるというのはちょっと、格好悪いかなあ……」


「あなたの命が懸かっています。面子を立てている場合ではありません」


「あ、うん。ごめん。それで……もう一つの理由は?」


「それが、自分でもこの理由はどうかと思うんですが……」


「勿体ぶらずに」


「……あなたの傍に居たい。そう思いました」


 お。

 おやおやこれは。


「それって、途方も無い成長じゃないかな?」


「成長、ですか?」


「うん、好きな人ができたらそう思うもんだから。普通に近付いたって事じゃん」


「いいえ。おそらく違います」


「え」


 あっさり否定されちゃった。


「どうして?」


「好きとか、そういう事。未だ解りません。だから違います。私はただ……あなたに、しがみ付いていたいだけなんだと思います」


「……しがみ付く?」


「昨晩、あなたは私を抱いてくれました。そのお礼が遅れましたが今言います、ありがとうございました。それからあなたを、かなり強引に誘ってしまいました。ごめんなさい」


「あ。それは、いいけど」


 ううむ、こっちが存分にいい思いをしているのだが、礼とか言われてしまった。

 こんなんでいいのだろうか。


「最大限の努力をする。あなたのそのセリフは私にとって、恐ろしく魅力的なものでした。その言葉に口説かれて、あなたに身を任せてみようと決めた時……それでも私は普通ではありませんから、普通の誘い方ではダメだと思ったんです」


「それで……あんな?」


「はい。どうしても私の裸体を目にして、かつ肌に触れなければいけない状況を作ってみればどうかと考えて……実は、この程度の負傷であれば、自力で対処できたんですよ?」


「……あ……さようですか……。あ、じゃあ肌が荒れるとか何とかってのも?」


「いえ、それは嘘ではありません。思い出してください、私がまだあなたを殺すつもりだった段階で、私は既に下着を身に着けていませんでした」


「あ……あー、そっか」


「確かにそれも、誘う為の演出にはなったのかも知れませんが……しかしあなたは実際、なかなか誘いに乗ってくれませんでした。だから直接にもお願いしましたけど、それにもなかなか応じてくれませんでした。もうどうしようかと、やっぱり私ではダメなのかと、そんな風に思いましたが……」


「いやそれは……仮にリリィが普通の女の子だったとしても、あの対応は変わらないって」


「そうですか。でもせっかく……あなたがせっかく、結局はその対応を曲げてくれたのに、私は……ごめんなさい。その時私は、どうしようも無い絶望を感じてしまったんです」


「……え」


「セックス以上に愛を交わす方法は、ありませんよね? 異性間の愛情はその為にある筈ですから、プラトニックを至高とする考え方には理解を示すつもりもありませんが、とにかくセックスは私にとって、最後の砦だったんです。そしてそれを体験すれば、私にも何かを感じ取る事ができる。そんな期待を抱いていたんですが、しかし……そんなものは、いとも簡単に打ち砕かれてしまいました」


「……」


「この行為に何の意味があるのか、私にはまったく理解できなかった。私は、あなたに何を与えられても、何も感じ取れなかった。愛と呼ばれるものはもとより、安らぎと呼ばれるものも、興奮と呼ばれるものも……そして性交への大きな動機となる、性的快感と呼ばれるものまでも。私は、感じ取る事が……できなかったんです」


「……」


「それどころか私は……円満な性交には不可欠な、愛液と呼ばれるものを分泌する事すらしませんでした。あなたにとってもそれは、あまり気持ちのいいものではなかったのではないですか?」


「あー、えっと、いやその……最高でしたけれども」


「そうですか? それならそれは、よかったですが……」


 まあ何だ、その……オリーブオイルとかいう単語がリリィの口から発せられた時には、ちょっとフリーズしたけれども。

 そして何だ、ちょっと奮発して買っておいてよかったけれども。


「とにかく私はそれで、つまりそういう事なんだと。私にはそういったものは感じ得ない。見付からないのは、そもそも目的のものが存在しないから。だから私の感じる空虚も永遠に、満たされる事は無い。そう考え至りました。だから私はもうこれ以上、生を長らえるのが……嫌になってしまったんです」


「リリィ……」


「そもそも私は最初から……あなたとの行為で自分の今後を、判断するつもりでした。それは要するに……失敗したなら、今世から身を退くという意味です」


「……え」


「そんな覚悟で臨んだだけに、この結果は私には、あまりに……。私はもう、嫌なんです。何もかも。誰かを殺すのも、空虚を抱えながらやっていくのも、答えを探すのも……もう、嫌なんです。もう……嫌なんです」


「……リリィ……」


「もう……嫌なんです……」


「……」


 それで……殺してください、と……。


「ただ、もう少し考えてみると私は……命を絶つ事すらも嫌なんだ、という事に気が付いてしまいました。私は、自分が考えていた以上に……浅ましかったみたいです」


 あ……。

 それはちょっと、追い込まれるかな?

 確かにそれは、どうしたらいいのか判らなくなるかも知れない。


 けれど、そういうのって。

 何か随分……人間、なんじゃないのかな。

 悪くないんじゃ、ないのかな。


「いいんじゃない? そういうのが普通だと思うし」


「そういうものでしょうか? 私にそれは、判断できません。ただ……それなら、今後どうしていこうか。そこに悩みました」


「あ、うん。そうだね」


「その結論は……残念ながら、出ませんでした」


「そっか……」


「それでも今、あなたが少しは私のほうを向いてくれているみたいだったので、ちょっと甘えてしまおうかと。方針が決定するまで、ちょっと寄り掛からせてもらおうかと。そんな風に思いました」


「僕に、寄り掛かる……」


「……迷惑ですか?」


「あ、それは全然。いいよ?」


 僕の即答に、リリィは慎重に確認を重ねる。


「本当に? 私があなたの傍に居たいと思うのは、あくまで打算なんですよ?」


「打算?」


「はい。私はあなたに、愛情というものなど感じてはいません。あわよくば貪ろうという、そのような厭らしい魂胆がただ、ただあるだけです。それでも……ですか?」


「あー。いや、大丈夫だよそんなの」


 っつーか、さ。

 こんな状況で、こんな子を見捨てられたりできる人物が、この世に存在するとか全然思えないんだけれども。


「そうですか」


 リリィは少し間を置いてから……身を起こし、ちょこなんと座り込んではこちらへ頭を下げた。


「ありがとうごさいます。ふつつかにもほどがありますが、今後よろしくお願いします」


 おおー。

 ちゃんと正式に、三つ指ついてるなあ。

 いや、本当に正式かどうかは判らないけれど……。

 でも多分、リリィの事だしね。


「こちらこそ、リリィ」


 しかしその何か、普通にカップルになってしまってる気はするけれど……。

 松平瑞穂にはもう、振られてしまった訳だし。

 まあ、いいよね?


 と、そのリリィはこう継いだ。


「明日は学校です。部屋を片付けて、明日の準備をして、傷のラップも交換して。それから、腹ごしらえをしませんか?」


「あ……あー、うん。そうだね」


 うーん。

 白状すればもっと、リリィと布団で抱き合っていたかったんだけど……。

 言われてしまった、な。


 と、そわそわした様子が見て取れたのか、リリィはこう尋ねてくる。


「あなたは……ひょっとしたら」


「え?」


「もう一度、したいんですか? 私と」


「あ、え、いやその……っつーか、いいよそれは」


「私は構いませんよ? むしろ、あなたのほうが構うのではないですか?」


「確かにまあそりゃあ、した……いいいいい、いや。いやいや、その。だからさ……リリィは、気持ちよくないんだよね? 全然」


「それはそうですが、あなたは私に、最大限の努力を約束してくれましたから。私もあなたに、最大限の努力をします」


「そういう事じゃなくて、さ。つまり、僕一人がいい思いするだけなら、リリィが本物のダ……ええっと、ラブドール、になっちゃうからさ……」


「……なるほど。確かにそう云われてしまうと、ちょっと。ただ……気遣いはありがたいとは思いますが、それにしてもあなたは本当に、私へ遠慮をしますね?」


「……もう放っておいてよそれは」

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