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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【2】MK.2と呼ばれた少女
22/66

〔2-13〕君の願いは

「……そろそろ、タオルを取ってみてください」


「あ、うん」


 思えば結構、長く喋った気がする。


 ゆっくり、タオルをどけてみた。

 あれだけ激しく血が流れたのが嘘であるかのように、傷口は穏やかだ。

 出血が止まっているかどうかは血だらけで確認できないが、少なくとも溢れてはこない。


「いいようですね。洗ってください」


「沁みないかな?」


「大いに痛むと思いますが、仕方ありません。それよりついでです、血だらけですから先に、私とあなたの体を流してください」


「了解」


 何となく、慣れてきた感じ。

 シャワーを開栓すると、手際よくそれぞれの血を洗い流していく。

 それが済むと、彼女の傷口に取り掛かる前に、尋ねた。


「ええと、掛けるよ?」


「はい」


 傷に流水を当て、手でやわやわとこすった。


「っ……」


「あ、痛い? 大丈夫?」


「痛いですが、大丈夫です」


 何か凄く無意味な問答をしているような気がしないでもないけど、しかし。

 我慢強いんだなあ、よっぽど。

 僕が、あれだけ痛かったのに。

 僕があれだけ、うめき声を上げたのに。


 まあ、やはり血は固まっていないから、それほど労せずに傷は綺麗になる。

 出血もほとんど収まっているようだ。


「これでいいでしょう。シャワーを止める前に壁の血を落として、それからタオルをもう一度洗ってください」


 あ、壁か。

 そこまで気が回らなかった。


「ずいぶん的確に指示するね?」


「そうですか? 特段の意識はありませんが、そうだとすればそれは……慣れでしょうか」


 うーむ。

 あまりこういうのは、慣れたくない。


 まあ、壁の血を洗い流すのも、やはりそれほど苦労しなかった。

 タオルを洗い、水を止め、絞る。


「んー。ええと君は、タオルで拭いたりしても大丈夫なんだろうか」


「ダメなので、ぬぐわずに軽く叩くようにしてください」


「あ、なるほど」


「その前に、先にあなたの体を拭いてください。私の出血はまだ完全に止まっていませんから、私が先だとタオルが汚れます」


「あ、なるほど」


「あと、それはやっぱり、脱いだほうがいいですよ? きちんと拭けません」


「あ、なるほど」


 ……。


「いや、あの……これは……」


「これから私と、するんでしょう? セックス。誰も咎めません、大丈夫です」


「……でも」


「それよりも早く拭いて、早くラップを巻いてください」


 ……ああ、もう。

 どうにでも。

 と、破れかぶれでブリーフを脱ぎ捨てたが、彼女は目撃しても特に何も言わなかった。


 しかし……若い男女が、お互い全裸で、狭いシャワールームに……ああああああああああああああああ……。


 とにかく僕の体をわしわし拭き。

 とにかく彼女の体をぽんぽん叩き。


 素早く。

 素早く。


「完了!」


「ラップを」


「ハイ」


 一旦シャワールームを出て、台所のラップを手にすると、取って返す。


「きつく、三重でお願いします」


 ぐるぐるぐる。


「こんなもんで?」


「はい。後は……はい。お願いします」


 ……布団まで、という事だ。


「また、引きずっても?」


「平気です」


「えっと、じゃあ」


 先に道を作り、再び彼女を羽交い絞め。


 きちんと、牛乳の匂いは取れていた。

 ただ……よく話に聞くような、いわゆる女の子の匂いというようなものも感じられなかった。

 まあ、丸洗いしたばかりな訳だから仕方無いんだろうけれども……。

 はっきり言って、シャンプーの匂いしかしない。

 何となく残念では、あった。


 いや別に、シャンプーの匂いが悪いという訳でもないんだけれど、これといって男好きする匂いでもないよね?

 よく、女性向けの商品には男性が好む香りを付けてあるとか云うけれど、正直はなはだ、疑問。

 まあ、僕が買ってるのは女性向けも男性向けも無い激安シャンプーだから関係無いんだけど、単なる洗脳じゃなかろうか?

 頭を洗うだけに。


 まあ、そんなこんなで布団に到達し、彼女を横たえる事には成功したのだが。


「……あー」


「何ですか?」


「いや、タオルや下着がダメなら、シーツは大丈夫なんだろうか、と……」


「不思議な事に、それは大丈夫なんです。すべてダメなら、これは綿アレルギーか何かだという当たりをつけられるんですが……かといって私の場合、どんな異常が検出されるか判りません。病院へ持ち込むのは躊躇われますし」


「それはちょっと、困ったもんだね……」


「はい。では、あなたのラップも水で少しずれ始めてますから、交換してください。その後は……」


「……」


「後は、私には判りません。お任せします」


 お任せします、か。

 こんな状況でこんな女の子からこんな事言われたら、男は舞い上がっちゃうよな。


 で、今、実際に言われてしまった訳だけれど。

 ……うん。


 取りあえず、今巻いているラップをはぐる。

 新しく、ラップを巻く。

 そしてその後、僕は……。


 服を、着た。


「え」


 まあもちろん彼女は、猛然として抗議する。


「どうしてですか! 約束は、やっぱり嘘なんですか! あんなにお願いしたのに……あんまりです」


「いや、リリィ落ち着いて。違うから」


 すいません僕は健康男子なものですから、こんな状況になったらもう止まれないです。

 そんな訳無いじゃないですか。

 そうじゃなくてね。


「違う……どういう事ですか?」


「ちょっと、買い物に行くだけだから」


「今になって……何を?」


「うん、やっぱりね。リリィはさっき、ちょっといろいろ言ってたけど……でもやっぱり、困る……っつーか、ちょっといろいろ考えちゃうから。今、子どもが出来ちゃうのは。だってそれ、リリィが産んでくれるにしても……僕の子どもだよね?」


「……そういう、事ですか。勘違い、してしまいました。ごめんなさい」


「いや、こっちこそごめん。ええと……それとあと、ガーゼとか」


「それは不要ですよ。活動時なら衝撃保護になりますけど、安静時は血を吸い取る以上の仕事はしませんから、血が止まっているなら無意味です。繊維が傷にこびりついたり、雑菌が溜まってしまったりするというデメリットもあります」


「そう? じゃあ他には……」


「ラップを押さえる為の、包帯かテープがあったらいいと思います。傷口を合わせる為の医療用接合テープがあればなおいいですが、それは今は手に入らないでしょう」


「了解。行ってきます」


 リリィに掛け布を掛けてあげ、そして今度は確実にチェーンを外し、玄関ドアを開ける。

 相変わらず降り続いているから、まあ傘を開いた。


 男子高校生たるもの、頭を悩ませるのは近藤さんを買い求める場所であろうが……いやいや、人身売買じゃないからな!

 実は僕のアパートのすぐ向かいがちょうど薬局で、もちろん真夜中に店舗が営業している訳ではないものの、そこには避妊具を扱う自販機が備え付けられていたりする。


 っつーかもし店が開いてたとしても、こんな時間に男子高校生がそんなモノ買いに行ったら、間違いなく面倒な事になるよなあ。


 しかし、いろいろと種類があるみたいだけれども。

 ……うむ。


 薄いほうが、いいよな! な!

 丈夫って書いてあるから、破れたりしないだろうしな! な! な!


 ……少し高いけどな。


 ちょうど千円也。

 なかなかの出費である。

 まあその分、内容数がいっぱいあるみたいだけれども……。


 たくさんいたしてくださいって事?

 コレってそういう事?

 ねえ答えてよ青春の疑問!


 しかし出費といえば……リリィ。

 彼女は今後、僕の部屋で暮らす事になるのだろうか?

 一人ででさえやっとギリギリの現状、彼女を食わせてあげる余裕などまったく無い。

 どうしようか……いや。

 それは後で、彼女と考えよう。


 取りあえず、避妊具の自販機で包帯やテープまで販売している訳が無いので、近くのコンビニへ向かう。

 そこまで片道、徒歩五分。

 本当にここは、都合がいい。


 店に到着し、時刻は深夜三時ほど。

 いわゆる丑三つ時というやつだが、それでも客足はあるらしい。

 商品搬入する店員の他、堂々と雑誌を立ち読みする客の姿が二名ほど確認できた。

 いや、立ち読みしかしないんなら客と云えるかも怪しい所だし、注意しなくていいのか店員。


 ええと、包帯の取り扱いは、無し。

 テープは……不織布製のホワイトテープとかいう物もあるけど、微妙に高いからセロハンテープでも、いいよね?

 コンビニに置いてある品物は基本的に安くないから、あんまり高い買い物はしたくない。


 でもそういえば、冷蔵庫の物をほとんど放り投げてしまったのだった。

 明日食べる物は、何か残っていただろうか?

 惣菜パンくらい買おうか。

 いやしかし、パンってあんまり腹が膨れないんだよな。

 ここはやっぱりおにぎりとか……お、おお。

 百円均一。

 これを一人、三個あてで買っていこう。


 それから飲み物。

 一リットルの紙パック物が意外と安価だ。

 玄米茶でいいか。


 しかしそれでも会計してみると、千円近くに達する。

 恐るべしコンビニ、とてもデザートとかには手が届かない。


 ……って、そんな事を考えている場合でもない。

 コンビニとの往復で、約十分。

 自販機とコンビニでの買い物で、合わせてやっぱり約十分。

 買い物へ出るほうとしてはそれくらい割と気にならないものだが、しかし一方で動けない体で一人寝かされて、二十分もじっと待つというのはかなり苦痛な筈である。

 これ以上長く待たせては可哀相だ。


 あー諸君。

 早くヤりたいからじゃないからな!


 あー諸君。

 早くヤりたいからじゃないからな?


 重要な事なので脳内で二回繰り返しつつ、急ぎ帰路をたどった。

 しかし……。


 リリィには何か言われたけれど、やっぱりケーケンするの、早過ぎないだろうか。

 そんなような固定観念は、なかなか打ち破るのに難しく。

 何か現実感無い感じと、期待と、不安と。


 ところが、そんな感じのものを抱えつつ雨の中を行き、アパートの部屋の前にたどり着けば……何やら部屋の中から人の動く気配がするのである。


 ……誰?


 リリィの例もあるし、また他の誰かが来ていないとも限らない。

 人は危険に晒されなければ警戒する事を覚えないと云うが、今はそれと逆の状況だ。

 少し緊張し、おそるおそるドアを開け……。


「お帰りなさい」


 それは果たして、リリィだった。

 力が抜けた。


 でも、よかった。


「はあ何だ、やれやれ……」


「どうかしましたか?」


「いや、何でも。……動けるの?」


「ホットミルクを振る舞ってもらったお蔭かも知れません。予想より早く回復したんですが、牛乳を放置するのもどうかと思いましたし、掃除をしていました。本当は片付けもと思ったんですが、その前にあなたが戻ってきてしまいました」


「そっか。何か、悪いね」


「いいえ」


「足、大丈夫なの?」


「かなり動かしづらいですが、どうにか」


「あーいやいや、そうじゃなくて……痛く、ない?」


「痛いです。でも、平気ですよ」


 何かもう……健気、という言葉で片付けてしまっていい、のかな?

 何かもう……いじらし過ぎて。

 何かもう……いろいろと。

 何かもう……僕は、松平瑞穂が、好きなのである訳だけど。

 何かもう……リリィにはさっきああ言ったけど。

 何かもう……実は僕の心は既に、彼女へ傾いたり……していたり、するのかな?


「あ、ええと。セロテープ買ってきたけど」


「では貼りましょう。脱いでください」


「いや、自分で」


「背中は無理な筈です」


「あ……そっか。お願い」


「貼ります」


 ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。


「終わりです」


 手際いいなあ。


「僕も、貼ってあげようか?」


「そうですね。座ったほうがやりやすいと思うので、布団のほうでお願いします」


 布団がある場所以外の床、ずいぶん散らかってるしね。

 移動。


「テープは長目に切って、縦にいくつも貼ってください」


「なるほど」


 ぺった、ぺた、ぺたり、ぺったん、ぺた。


「こんな、もんか、な……?」


「そうですね」


 いいのかな?

 あんまり綺麗にできなかったけど……。


「では……」


「あ。えーと。うん……えーと」


「……はい。お願いします」


 ちょっと、見詰め合った。

 その視線は、まっすぐ僕を捉え。

 その面貌は、可愛さと美しさを兼ね備え。

 その肢体は、すらりと神々しく。

 この子は……この子が、僕の、初めての人、に……。


「明かりは?」


「どちらでも」


「じゃ、消すよ」


「そうですか」


 それが僕の初体験になった訳だが……細かい部分は、よく覚えていない。

 何とか記憶に残ったのは……暗がりだったから、避妊具の装着に恐ろしく手間取った事。

 期待に反して……僕が彼女に何をしても、まるで無反応だった事。

 それでも彼女と一つになれた時……この世のものとは思えない、至福と感動を得た事。

 そうしてすべてが終わった後……彼女がこんな言葉を、漏らした事。


「私を……殺してください」

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