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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【2】MK.2と呼ばれた少女
20/66

〔2-11〕ロリコンは正義

 ちょっと、のぼせてきていて。

 こないだ松平瑞穂へラブレター出した時なんかとは比べ物にならないくらい、喉は灼熱のようにやけていて。

 多分もう、顔なんて誤魔化せないほど赤くなっているだろうけど、どうにか誤魔化そうと質問をひねり出してみる。


「……え、えーと。あとどれくらい、こうしてればいいのかな?」


「もう少し、待ちですね」


「そっか。じゃあ他に、何か話す事は……」


「私のほうには差し当たり……そうですね、さっき言いかけた事がありました」


「え。何だっけ?」


「あなたの性欲は強い筈。そう指摘した時の流れで、私はそれに関する倫理というものに強い疑念を抱いている、と言いかけました。その話です」


「あ、それか……えっと、どういう話?」


 そう何の気無しに促した話の内容は、なかなかとんでもないものだった。


「その、性欲のピークがちょうど今のあなたくらい。女性についても、多くの年代の男性が押しなべて、あなたと同年代くらいの女性の肉体を最も好ましく感じるという話です。それも個々の嗜好にかかわらず、実際に性交に及べばそのように感じるとか」


「え、そういうもんなの?」


「きちんと調査をしたようですよ? そしてそれは、つまり男性も女性もその時期に、子を為すべきだと本能が教えているという事です。それを裏付けるように、実際にも女性の出産適齢期は十代後半、遅くとも二十代前半なんです」


「え、えええええ……それは早過ぎる気も、するけれど……そう、なんだ?」


「はい。医学的には常識ですし、法律としても女性であれば十六歳から結婚できる事になっています。ですから世に云う、ロリコンは正義という言葉は、実は非常に正当性のある主張なんですよ?」


「す、凄い事言うね……。でもああいうのって、どう見ても赤ちゃん産めないような小さい女の子とか、対象になってない?」


「それは、ロリータコンプレックスというもの対する誤解によるものです。これが実は、結構入り組んだ誤解なんですが……」


「誤解?」


「もともとこれは、語源となった小説において少女ロリータ本人が抱えていたとされるコンプレックス、つまり少女が同年代ではなく年上の男性を志向する、いわゆるオジサン趣味の事を指すものなんです」


「……そうだったの?」


「はい。やがては転じて、年上志向の若い少女に愛されたいとする男性を指しても云われるようになったんですが、それでもつまりは好かれたい、愛情を向けられたいという事であって、一方的に好きだとか性交に及びたいとか、そういう話ではないんです」


「へええ……何かまるで違うね? 今思われてるのと」


「そして、性的志向について云った場合はロリータシンドロームという別の言葉で云うんですが、その場合でも対象はあくまで妊娠能力のある少女に限定されます。そうではない幼女を対象としたものは、ペドフィリアという精神疾患による性愛異常で、ロリータシンドロームとは別物なんです」


「そうなんだ……まあ、そうだよね」


「他にもチャイルドマレスターと云って、支配欲や探求欲とか、ストレスやトラウマなど、そういった性愛ではないものを動機として、志向対象ではない筈の幼女に関係を求めてしまう人間も居ます。それはちょうど、窃盗行為が好きな訳でも必要がある訳でもないのに、ついつい万引きをしてしまう心理と同じようなものでしょう」


「あー。何かそれ、解る気がするかも?」


「さらには、暴力を好んで振るう訳でもない人がバイオレンスフィクションを好んだりするのと同じように、単に架空の題材として興味があるだけで本来の性的志向とは云えないものもあります。他にも、幼い性に美的価値を見出すというアートの分野であって、性愛とはそもそも無関係なものすらあります」


「確かにこう並べられると、みんなそれぞれ違うね……」


「はい。ところが、そういったものが一緒くたに混同されてしまっているんです。それが今云われているところの、ロリコンというものなんです」


「……ロリコンって、そんな複雑な事になってたんだ……」


「そんな事態になってしまったのは、みんなが言葉というものを大切にしてこなかったからですよ? 言葉はそれ自体が意味を持っているだけではなくて、つまりある特定の概念を表現したものなんです」


「……概念、っていう言葉って、よく聞くけどあんまり意味が分かんなくて」


「そうですね、難しい言葉かも知れません。云うなれば、同類の対象を指すもの、とでも云いましょうか。例えばロリータシンドロームとペドフィリアは同類とは云えませんが、それをそのまま別々の概念、と丸呑みすればいいと思います」


「そっか」


「そしてロリータコンプレックス、チャイルドマレスターなど、言葉の数だけ個別の概念が存在するんですから、その区別をきちんとしなければ混沌に至るのは当然ですし、だから通じればいいというものではありません。ロリコンの女性版、というだけの浅はかな意味合いで作られたショタコンという言葉など、もはや愚の骨頂です」


「それはまた……全国のオネーサンたちを、敵に回しちゃいそうな主張だね……」


「反論があるなら、私も訊きたいです。ではショタコンとはどういう概念ですか、と」


「……よ、容赦無いねホント……」


「事実、私はショタコンという言葉が何なのか、説明できないんです。本気で教えて欲しいと思う部分すらありますが、あなたにはそれができますか?」


「いや……僕も実はあんまり、はっきりとは……」


「そうですよね。ちなみにもっと複雑な事を言いますが、実はロリータコンプレックスもロリータシンドロームも、ペドフィリアやチャイルドマレスターも、ついでに単なる題材の趣味やアート観までがすべて、同一人物に混在できてしまうものなんです。そこが、混同に拍車を掛けてしまっている所はあります」


「うええええ……もう何が何だか」


「しかし、ロリータコンプレックスを抱えてはいてもペドフィリアではない、というような人たちにとってはその混同は、迷惑どころか災難でしかありませんし、もっと云うなら理不尽な迫害でしかないんです。まあ、私もロリータコンプレックスについて詳しい訳ではありませんし、そろそろ話を元に戻しますが……」


「……こんな詳しい話、聞いた事無いってばさ」


「そうですか。ともあれ、性欲は性交を促すものですが、性交の目的はもちろん出産にあります。その出産とは、常に何らかのリスクが付きまとう仕業ですが、両親が若いほうが元気な子どもが誕生して、母体も無事な可能性が高いのは判り切っています。そしてその結果は、誰もが当たり前に期待する事だと思いませんか?」


「あー、まあ、そうだよね」


「しかし、現実にはそれが当たり前に叶う訳ではなくて、まさかここまでという言葉が漏れてしまうくらい酷い不平等が存在するんです。そしてその成功率は、齢を指折るごとに低下してしまいます」


「うーん、そうなんだ」


「なのであれば、いわゆる高校生という人たちに未成年というだけの理由で、性交を禁じたり、出産を許さなかったりする。さらにはそれをした人たちを、非難したりする。そういう事はまったく不合理で、矛盾があって、筋が通らない話です。むしろ、推奨されるべきだと思いませんか?」


「……そ、それはなかなか過激な……。でも、結婚前に子どもとか出来ちゃったら、問題じゃあ?」


「いいえ。結婚していない状態で、子どもが出来ると社会的に困難があるのなら、結婚も許せばいいんです。それに未成年が、子どもを育てるのに教育面や経済面で問題があるのなら、援助を行えばいいんです。そもそも義務教育がそれそのものですし、成年カップルであっても経済的援助を受けているという実例がそこかしこにたくさんあるんですから、未成年の婚姻、性交、出産が禁じられなければいけない理由はどこにもありません」


「うーん……言ってる事は、分かるけど。それはなかなか、通用しないんじゃないの?」


「通用するしないではなく、おかしいという話です。成年未成年の定義すら怪しい所で、本当はもっと早くに成熟している筈のものが、教育体制や社会制度の不備によってしわ寄せを受けているだけではないのかと、私は思います。そもそも、人の成長の度合いなどそれぞれ違うものなのに、年齢で一律に線引きできる筈がありません」


「まあ確かに、その辺の基準はよく解らんね?」


「とにかくそういった、明確な根拠に欠ける禁則を産んでいるのが倫理というものなんです。性交とは汚らわしいものであるというのが根拠だという主張がありますが、それは単なるレッテル貼りです。欲に負けるのが汚らわしいからレッテルではないという主張もありますが、それは汚らわしい存在になりたくないという欲に負けているという事です」


「うーん、それはまあ、要するにそういう事だけど……」


「第一、欲というものは通常、そうするべきだからこそ発生するんですから、欲には正直であるべきですし、汚わしくなどまったくありません。逆に、欲に勝つというほうが生物として余程不自然な事なんですから、それを清いとする考え方は異常そのものと云えますし、その根底にある魂胆を穿てばむしろ、そちらのほうが汚らわしいと云えるでしょう」


「筋は通ってるけど……。でも、それだとみんな、好き勝手し放題なんじゃあ?」


「それで本当に困る事が起きるなら、倫理というものが形成される前に社会も文明も崩壊している筈ですが、現実にはそうはなっていません。それは、欲を最優先させればどんな事になるか、ほとんどの生き物はそれを本能的に知っているからです。本能も生き伸びる為にあるものなんですから、その本能をも信用せずに筋の通らないルールでがんじがらめにするというのも、また異常な事です」


「なかなか、ザックリいくね? 根本的な所まで」


「そうでしょうか。私は、至って当然の考え方と思いますが……」


「いやだって普通、自分の事を異常だなんて思えないでしょ?」


「それは、非常にまずい事なんですよ? 一つ認識に誤りがあれば、その次の認識も必ず誤りますから」


「そっか……」


「ところで異常といえば、その欲というものの扱いもまた、おかしいんです。欲というものは、欲求と欲望の二つに大別されるんですが……」


「えっと。それは、どう違うの? おんなじようなもの、って感じがするけれども」


「欲求の代表は食欲や性欲、欲望の代表は金銭欲や名声欲になりますが、簡単に云えば必要とする事と、期待する事の違いです。宣伝文句によくある、お求めくださいという言葉をお望みくださいという言葉に替えれば、およそ違いは把握できると思います」


「あー、そういう事か。それは解りやすいね」


「もう少し説明を加えれば、欲求はさっきから私が云うところの欲に相当して、生きる為に必要なものです。それゆえに本人の望む望まないにかかわらず発生してしまう、云わば仕方の無いものです。一方で欲望は、単にいい思いをしたいというだけのもので、本人が望んで発生させるものです。直接の害がある訳ではありませんが、生存するという事においてそれほど重要な訳でもありません。その点で、明確に違います」


「うん」


「ですから本来であれば、ルールによって規制されるべきは欲望のほうであって、欲求は満たされなければいけない筈ですよね? にもかかわらず一般には、欲求を露わにする人が非難されて、欲望を露わにする人がそしりを受ける事は稀なんです。例えば食べ物を欲しがる人と、名声を欲しがる人。どちらかといえば食べ物のほうが大事な筈ですが、天秤に掛けると不思議な傾き方をしますよね?」


「あ。それは確かに……何でだろうね?」


「はい。逆ではないのかと思いますが、それどころかこの二つはしばしば混同された上で、動物は欲に支配されるが、人間はそうではない。そんな事が云われます」


「あー。よく云うね、それ。キザ過ぎる、っつーかイヤミ過ぎる」


「その通りです。これを発言しようという動機は、自分は動物とは違う特別な存在だという事にしたいとか、あるいは至言をしていい格好を見せたいとかいうものであって、それはつまるところ欲ですから、ちょっと何を言っているのか解りません」


「そう整理されちゃうと、完全に意味不明だね」


「結局、禁欲したい、何かをしたくない、究極を言えば死なずに生きていたいと思う事、生きずに死にたいと思う事すら欲なんですから、欲から完全に解放されるのは不可能。そういう事です」


「でも実際、ストイックってカッコいいイメージあるけど……」


「いえ、それは意味が違う言葉です。ストイックというのは自らをコントロールするという事で、そう振る舞うというのは欲を諦めるという事ではなく別の目的、つまり別の欲の為にそれを保留するという事なんです」


「保留っても、結局は諦めるんでしょ?」


「動機が違うんです。例えば暑さを感じる時、禁欲の人の場合は禁欲するという目的以外の理由無しにエアコンを使う事をただ我慢しますが、ストイックな人の場合は省エネや経済的な節約などを目的にしてエアコンの使用を保留する。結果、禁欲の場合は酷い暑さでもそのまま使わずに熱中症などに陥りますが、保留の場合はそれを取り止めて健康を保つ事ができます」


「あー。なるほどね」


「それができるのは有能の証ですから、憧れるという事ですよ。それに比べて、禁欲をするというのは一方的な受け身で、何もしないという事です。つまり禁欲とは、単なる不能の証でしか無いんです」


「うーん、そういうもんなのか……」


「つまり欲についての最大の異常とは、欲を制御したいという欲を欲として認めていない所で、そこにいろいろとトラブルの種が潜んでいるんです。そしてその代表として、禁欲を善しとする考え方は大体が宗教によって発生するものなんですが、宗教というものは倫理というものをはるかに超える害悪だと私は思います。ただそれは別の話になるので、神も仏も実在しない。そのひと言で終わりにしておきます」


「……アグレッシブですなあ……」


「宗教を押し付けるほうがアグレッシブですよ。ところで出産の話に戻しますが、若い人とは逆に高齢出産においては、障碍児が生まれてしまったり、母体が死亡してしまう例が多く発生します。障碍が親子へ生涯にわたって苦難を与え続けるのはもちろん、実の母が居ない事も不幸の種です」


「あー。そういうのはちょっと、可哀相だよね?」


「まだあります。仮に母子共に健康であったとしても、その親子には大変な年齢差が生じますから、それが子どもの精神的負担になるとか、いじめを受ける原因になるとか、そういった悪い結果にしか繋がらないんです。あるいは自立する前に親が他界したり、介護が必要になったりして、困窮してしまう例もたくさんあります」


「あー。無事に生まれても、問題はあるんだ?」


「それこそ問題しかありません。それはその親が……それも、精神がより成熟している筈の高年者が、ですよ? 子どもや周囲に対する配慮をまったくせずに、自己満足のみによって出産した結果なんです。こんなものは、はっきり言って迷惑千万です」


「確かにちょっと、大人げ無いね? いい大人が……」


「そうなんです。間違ってもやろうすべきではない事の筈なんですが、そういう問題に歯止めを掛ける為にある筈の倫理というものが、これを禁止するどころか逆に応援へ回っています。構図的には、子どもには苦難を強いておいて、大人だけが好き勝手をするというものです。私には、その正当性がまったく理解できません」


「あー……なるほど。それは僕にも分からないよ……」


「結局、倫理とはそういういい加減なものなんです。以上が私の疑念ですが、ただ補足します。倫理学という分野の哲学があって、つまり倫理とは何かという事を追究する学問なんですが、そちらの内容については非常に立派なものだと私は思います。そしてだからこそ、学という字を取り去っただけでこの体たらくに至るのは意味不明ですし、理が皆無なのに理という字だけ残っているのはもはや滑稽です」


「はあ……なるほど……」


 うーん。

 ごめんね、ずっと適当に相槌打ってたけどあんまり理解が追い付いてないよ。

 まあせっかくだし、後で反芻してみるけど、でも……哲学なんて単語が出てきてる時点でちょっとくじけるよね……。

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