〔1-1〕少女M
松平瑞穂。
高校に入学して初めて見掛けた時から、何となく気になってはいた。
顔はとにかく愛らしく。
体躯も小柄で愛らしく。
烏羽色の髪は腰まで届く綺麗なストレート。
気質はとにかく活発はつらつ。
そしてどうやら家はいいとこらしい、それでいて誰にでも分け隔て無く優しい。
これだけ条件が揃えば否応も無い。
登校初日から彼女は、男女を問わずクラスを問わず、学年すら問わず人気を博した。
そんな彼女とはクラス分けで一緒になれたから、一度はラッキーと思いはした。
が、特に話し掛ける機会や勇気がある訳でもない。
別にラッキーでもなかったと思い直した。
しかし、入学翌日の事。
彼女は不意に、僕のほうをじっと見詰めてきたのである。
何の山も谷も無い、非常に無味乾燥な中学時代を過ごした僕にとって、その視線は強烈だった。
とは言っても別に、僕の顔に見とれた訳ではなかったらしい。
僕の肩へついと手を伸ばすと、彼女はこう言った。
「糸くず、付いてたから取ってあげたよ?」
「……あ、え、あ」
女子に話し掛けられた経験のほとんど無い僕だ。
返答にまごついていると、彼女は他の女子に話し掛けられ、僕の事を忘れたかのように応じ始めた。
僕も内向的ではあっても、高校男児である。
彼女へ惹かれるには、それで充分だった。
まあそれは、日が経つにつれて恋心へと変化していく訳だが。
何しろ眩しく、そして誰にでも分け隔て無く接する彼女の事だ。
引っ掛かった男子はごく多数、ついでに女子もちらほらと居たようだ。