表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【2】MK.2と呼ばれた少女
16/66

〔2-7〕勉強

 いやいや、まずいって。

 男子の夢みたいな状況ではあるけれども、しかしその状況がいざ突然、訪れるとなってしまうと……。


 しかし少女は、僕のそんな逡巡もお構い無しに、さらに念を押してきて。


「こんなにお願いしても、ダメですか?」


「……」


 そんな事を言う彼女の顔は、最高に可愛らしく。

 そして彼女が言う事は、否定の余地が無く。


「……分っかり、ました……」


「ありがとうございます」


 礼とか言われましたけど、何か……大事なものを捨ててしまった気がするよ?


「では取りあえず、先にあなたの傷を手当てしてください」


「……あー」


 あんまり衝撃的な事を次々と言われたもんで、すっかり忘れてましたわ。

 まったく痛まないって事は無いけれど、それでも全然気にならなくなるもんですな。

 はっはっはっ。


 笑い事じゃないけれども。


「でも、こんな怪我……絆創膏じゃダメだろうし、手当ての仕方とか判らんのだけれども……救急車、呼んじゃダメ?」


「その場合は私も搬送されてしまいますが、それはとても困ります。申し訳無いですが」


「やっぱりそうですか……」


「そんな風に身を起こしていられるなら、深い傷ではない筈です。私の手応え的にもおそらく、皮膚を少し深めにえぐっただけでしょう。何か、食品用ラップはありますか?」


「え。それは、あるけど」


「まずシャワーで、傷をよく洗ってください。その時ずいぶん痛む筈ですから、舌を噛まないように歯をしっかり食いしばってください。一分ほど洗い流したら水分を拭き取って、ラップで三重くらいにきつく巻いてください。手当てはそれで、問題無い筈です」


「なるほど」


 シャワー。


「……脱がなきゃ、まずいよね?」


「むしろ、そうしなければ難しいと思いますが」


 この狭い部屋に、脱衣所などという豪華なスペースも無く。


「脱ぐのも、まずいんだけれども……」


「どうしてですか?」


「いや……君の見ている前じゃ……」


「なるほど、恥ずかしいという事ですか。でも、恥ずかしがっている場合ではありません」


「あう……」


 仕方無く、寝巻きを取り払ってみる。

 しかし、美少女の目の前でストリップ、とか……あーあー、腰引けてる腰引けてる。


 それでも取りあえず、どうにかこうにかブリーフ一枚になったのだが……少女は、容赦無かった。


「最後まで脱がないんですか? 邪魔になりますよ?」


 うむ。

 段々、恨めしくなってきた。

 いっそ顔の真ん前で脱いで、見せつけてやろうか?


 ……いや、僕の心が死ぬから無理だけど……。


「中で脱ぎますわ」


「そうですか」


 僕はシャワールームに入り、ドアを閉める。

 浴槽は無く、半畳よりは少しだけ広いスペースのそこで完全に裸になると、外から声が掛かった。


「お湯よりも水のほうがいいですよ。温まると、出血が激しくなります」


 何となくお湯を出す所でした、はい。


 水色のマークが付いた栓をひねり、夏だから一応三十秒くらい流し捨てた。

 そうして取りあえず傷のまわりの血を洗ってみるが、固まってはいないから難無く流れていく。

 すぐに綺麗になってしまった。


 さて……痛いよね?

 当然。


 まず、一瞬だけ当ててみようか。

 歯を食いしばって……。


「ぎあああああああああ!」


 痛い!

 痛いよコレ!

 一分とか無理!


 でも……やらなあかんのよな?


「っっっっっっっ!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


「ぐううううっ! のおおおおおっ! がああああああっ!」


 痛いだけじゃなくて、意思に反して漏れる声が悪役の断末魔みたいな感じ!


 フィクションとかでは怪我だの傷だの普通にあるけど、みんなこんなに痛い思いをしてるって事なんか?


「っっっ! っっっ!」


 一分経ちましたか?

 まだですか?


 もういいよね!

 大丈夫だよね!


 水を当てるのを、やめる。


「っはあ……はあ……はあっ……」


 傷はまあ多分、綺麗になっているように思う。

 血は……ほぼ止まっているのかな?

 少なくともあまり、にじみはしない。

 彼女の言う通り重傷でもなかった、という事か。


 備え付けのタオルを水でよくすすぎ、栓をひねってシャワーを止めるとタオルを絞った。

 そしてそれを使い、体の水分を拭き取っていく。

 最後に、傷口に慎重にタオルを当てる。


「ふう……」


 こんなもんかな。

 棚に置いておいたブリーフを身に着けると、ドアを開けてシャワールームを出た。


 そんな僕を、さっきと変わらず壁にもたれたままの少女が迎える。


「よく辛抱しました。では、ラップを巻いてください」


「あ……うん。でも、このままで? 消毒とかしなくていいのかな」


「それは絶対にいけません。消毒は雑菌を殺しますが、それ以上に体の細胞を壊してしまって、回復力を著しく損ないます。傷が汚染されているなら話は別ですが、あなたは動物に噛まれたりした訳ではないので、綺麗に洗った後ではデメリットしか無いんです」


「そうなんだ?」


 台所に立ち、食品用ラップを取り出すと、お腹の周りにぐるぐる巻いてみた。


「こんなもんで?」


「いいと思います。何かテープがあれば、端を固定してください」


「あー……無いや」


「そうですか、それならいいです。今後一日三回、水で洗ってはラップを巻き直してください。それで傷は治ります。徐々にふやけて見た目は悪くなっていきますが、そのほうがかえって綺麗に塞がるんです」


「なるほど、そっか。手当てって意外と、シンプルなんだね」


「傷の手当ての鉄則は、乾かさない事と清潔を保つ事で、それ以上の事は基本的にしないほうがいいんです。動物なんかが傷を舐めるという行為をよくしていますが、これは不潔なようでいて実はかなり効果的なんですよ? 唾液にはむしろ、殺菌の効果がありますし」


「ふーん、勉強になるなあ」


「ただ実際の所、口の中にある程度の雑菌が生息しているのも確かですから、傷の洗浄には水道水以上のものは今の所ありません。……では次は、私をお願いします」


「……」


 うーん、取って付けたように言われたけれど、脱がせって事だよね……。


 気が進まないけどしかし、やるって言っちゃったしなあ。


「先に、ここで私を脱がせてください。シャワールームには、その為のスペースが無いようです」


 あうう。


「二言が、ありますか?」


 ……ええい、ままよ。


 と、ありがちな定型句を頭に浮かべつつ、彼女のその服に手を掛けた。

 よく解らないデザインの服だが、ボタンが付いている。

 それを外していけば、脱がす事はできるだろう。


 緊張と興奮に震える手を、どうにか抑えつつ。

 目に付くボタンを、外し終え。

 前開きになっているそれを、恐る恐るめくってみると。


 ……その下からは、次のボタンが現れた。


「ずいぶん……厳重な服だね?」


「はい。戦闘服ですから」


「はあ」


 どうしようも無いので、新たに現れたボタンも外していく。


「暑く、ないの?」


「命のやり取りをします。構っていられません」


「それなら逆に、何で手足むき出しなの?」


「場合によっては手足を変形させます。その時に邪魔になります」


「はあ。……あ。あーそっか、なるほど」


「何がなるほど、ですか?」


「最初に言ってた、合羽がダメっていうのは、そういう事だったんだ?」


「はい。ちなみに、傘が邪魔というのは……」


「あーそれは、もしかしていわゆる……死体の始末、ってやつ?」


「そうですね、大体そんなようなものです。若干違いますが、する事に違いはありません」


「……うーん……」


 東京湾の底まで運ぶつもりだったとか、そういう話だよねコレ……。

 何か、マルボーの世界に入り込んでしまったような感じがしないでもない。

 っつーか、もし殺されていたら本当にそうなっていたんだろうし、考えてみるとぞっとする。

 ちょっと冗談にはできそうにない。

 いや危なかった、今さらながら。


 そんな事を思いつつも、服のボタンを外し終えたので、再びゆっくりとめくってみる。


「……え」


「何か?」


「あの……下着、とかは?」


「見ての通り、着けていませんが」


 えーと。

 えーと。


「うわああああああああああああああ!」


 ム……ムネ!

 見えてる見えてる見えてる!

 っつーか下も見えてる!


「私の体はどこか、変ですか?」


「へ、変じゃない! 変じゃないから、だから……」


「また、恥ずかしいんですか。でも申し訳無いですが、覚悟は決めてください。こうなると分かっていて脱がせたのではないんですか?」


「……ごめん。覚悟してたつもりなんだけど、いきなり出てきたから……」


「そうですか。でもまだ、きちんと脱げていません。最後までお願いします」


「うん……」


 目の毒。

 そんな言葉がある。

 ラッキースケベというものを獲得した人間による、ノロケのような言葉だと考えていたが、この言葉の意味をまざまざと思い知らされた。

 これは確かに……毒だ。

 しかも今、その毒を開封したのは自分の手、ときている。


 どうしよう。

 どうしよう。


「それにしても、妙ですね」


「え……何が?」


「あなたくらいの男子は性欲が非常に強い筈ですから、相手の許可があれば喜んで裸にすると思ったんですが」


「性欲強いのは否定しないけど……普通は相当、抵抗あると思う……」


「矛盾しますね」


「そういうもんです……」


「なるほど、そういうもの、ですか。ところで私はその、性欲についての倫理というものに疑念を……いえ。ごめんなさい、あなたの作業を中断させてしまいました。続けてください」


「あー……うん」


 えっと……今、何を言いかけたのかな?


 それはそれとして完全に脱がせるのは、これといって難しい話ではなかった。

 壁にもたれた彼女の体を起こし、服から彼女の腕を引き抜くだけだ。

 もし彼女がぱんてーと呼ばれるモノを穿いていたら、それを脱がすのは至難の業だったに違いない。


 しかし、脱がせる折りにちらちらと、どうしても僕の手は彼女の肌に触れてしまい。

 それは何と言うか、なめらかで、やわらかで。

 あー。


 っつーか。

 彼女はこれで綺麗さっぱり、生まれたままの姿になってしまった訳で。

 それも、男子高校生の一人部屋の中で。

 どうするんだよこの状態?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ