〔2-6〕お願いがあります
って、うーん?
それでこの意識は、いつ消えて無くなるのだろうか?
それとも僕は、幽霊とかになって漂い続けるのだろうか?
もしくは、ここは天国か地獄で、既に死後の世界に身を置いているのだろうか?
もちろん死んだ経験なんか無いからその辺はよく判らないが、まあ取りあえず目を開けてみようか。
……元、居た部屋だ。
という事は、ここは天国でも地獄でもない?
ならば僕は、幽霊に?
体を確認しようと、起き上がってみる。
その時、脇腹に痛みが走った。
見てみれば、着ている寝巻きは血を吸ったままだ。
んん?
幽霊ってこういうもの?
最期に受けた怪我とか痛みとか、引きずったりするのだろうか。
とすれば、僕の死因は喉への一撃の筈だけれども……そこからの痛みは、無い。
手で触って確認するも、特に異状は認められない。
ちなみにベタな確認ではあるが……足は、ある。
どういう事ですか? 先生。
ふと見やると、例の金髪少女が壁にもたれて座り込んでいる。
金髪といえばその髪の毛は、ごく普通の長さでごく普通に頭から垂れ下がっている。
動いたりもしていなければ、僕を拘束していたりもせず、ましてやナイフを操ってなんかすらいなかった。
まさか、夢か幻でも見ていたとか、そんなオチだったりするのだろうか。
いやしかし、それではこの腹の傷が説明できない。
もう、どこにもかしこにも、理解できるものが見当たらなかった。
「……ええと……僕は……」
「死んだと思いましたか?」
「……え?」
「私はただ、拘束を解いただけです。それだけで倒れ込んでしまうほど、あなたに思い詰めさせてしまった事は謝ります。ごめんなさい」
「あ、そうなの?」
「つまりあなたはまだ、生きています」
なあんだ。
「だから私は、命令を果たします」
ぎゃー。
「ただし命令に、期日の指定はありませんでした」
ええ……つまり?
「あなたは私に、最大限の努力をすると言いました。それを条件に、命令の遂行をしばらく見合わせようと思います」
「……ええと……あー……」
要するに、僕……助かりました?
状況をきちんと認識する事ができる前に、その安堵をきちんと噛み締める事ができる前に、しかしその少女は矢継ぎ早にセリフを継いだ。
「それで早速、お願いがあります」
「え……何?」
「卵と、牛乳は、ちょっと。身を綺麗にしたいんですが」
……おおう。
確かに彼女は酷い有り様に……っつーか、何かエロいです。
頭から卵の白身が垂れたりしてて、そういうプレイとかした後のような感が。
っつーかコレ、僕がやったのかよ変態かよ。
……ごめんなさいわたしです、わたしが悪うございました……。
って、そんな脳内一人ノリ突っ込みをやってる場合じゃなかった。
「あー、じゃあ、シャワー使ってよ」
「それをあなたにお願いします。私はしばらく、身動きできません」
「……え?」
これって、トイレ行きたいけど行けないから代わりに行ってとか、そういう話?
いやいや、それ意味無いし。
えー?
そう首を傾げていると、彼女は酷く親切丁寧な解説をした。
「説明しないと解りませんか? 私は今、エネルギー切れの為に体を動かす事ができないので、あなたが私の服を脱がせて、あなたが私の体をシャワーで洗ってください。私はあなたに、そういうお願いをしています」
……。
何ですとおおお!
「いっ、いいいいいい、いや! それ無理だから!」
「何か問題ありますか?」
「問題しか無いよ!」
「どんな問題が?」
「男が女の子の服とか脱がしたらまずいでしょうが!」
「それは公衆の面前だったり、相手に了解を得ていなかったりする場合でしょう。今はこれといって、まずくはないかと」
「了解しないで簡単に! っつーかそれとも、体がちゃんと作られてないから見られても問題無いとか、もしかしてそういうオチなの?」
「いえ、そういう事は無い筈ですが」
「違うのかよ! じゃあダメだよ!」
「どうしてですか? そのほうが、あなたも嬉しいのではないですか?」
「そんなんじゃ嬉しいどころじゃないってば! っつーか恥ずかしいでしょ!」
「私は、特に」
「僕が恥ずかしいの!」
「そうですか。それでも私は、あなたにお願いするしかありません。このままでは、傷に影響します。まあそのついでですが、包丁も抜いて欲しいと思います」
「……あ」
そうだった。
彼女の足には未だ、包丁が刺さったままであって……。
「いや……でも。それなら包丁ら辺だけ、という事で……」
「つまり私が回復するまで、汚れたままで居ろという事ですか? それは、ちょっと」
「……それは、そうだけとさ」
「でしたら、お願いします。最大限の努力を、という約束でしょう?」
「そうは、言ったけれども……動けない女の子を脱がすって、変態さんじゃないか」
「私のほうが、そうしてくださいとお願いしています。何なら、私のほうが変態だったという事にしてください」
「いや、無理でしょ? 絶対変態なんかじゃないでしょ?」
「そもそも変質的行為を変態と称するのは言葉としてどうかとは思いますが、事実私は、自分の服を脱がせる事をあなたへ要求しています。一般的な意味合いとして、立派な変態だとは思いませんか?」
「……」
何か、絶体絶命じゃないですか?
どーすんのコレ?




