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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【2】MK.2と呼ばれた少女
14/66

〔2-5〕迷い

「……どうして」


「え?」


「涙を流したいのは私なのに、どうしてあなたが涙を流すんですか?」


「……あ」


 あー。

 これはちょっと、格好悪いかな?

 泣いちゃってるわ、僕。


 っつーか、はは。

 何で僕は今、泣いているんだろうね?

 好きな子に振られても、そうはならなかったのに。


「私が怖いからですか? それとも、死への恐怖からですか?」


「……どっちでも、ないと、思うよ?」


「それでは?」


「そうだね……えーと。悔しい、からかな?」


「私から逃れられないからですか? それとも、ここで死ぬ事に無念があるからですか?」


「違うよ。僕は、君を助けてあげたいのに、何もできないから……謝るのは、僕のほうだよ。ごめん……」


「……何が」


「え……?」


「私を助ける、というのもよく解りません。しかしまず……あなたの命をおびやかす私を、あなたが助ける事について、何があなたにとってのメリットになるんですか?」


「……あー、来たよ、その質問……」


「はい?」


「それはね、よくあちこちで議論になって、それでも結局はっきりした答えが出ないで終わっちゃう議題なんだ」


「そうなんですか?」


「うん。例えば、人の財産を奪ってはギャンブルでジャブジャブ使い込んじゃう人が、病気の人に匿名で治療費を寄付するとか。人を容赦無く殺して回る殺人鬼が、捨てられた赤ん坊を守るのに命を掛けちゃうとか」


「そういう話も、時々聞きますが……確かに私には、行動原理が理解できません。あなたには、その理由が解るんですか?」


「そうじゃないんだ。理由なんか無いんだよ」


「理由が……無い、ですか?」


「そう。自己満足、って理由が出てくる事もあるけど、普段そうしたくてしてるのと全然逆の事やってるんだし、結局それが何で自己満足に繋がるのかまでは説明が届かない」


「それでは確かに、そうですね」


「だからもう、そういうもんなんだ、って思うしか無いんだよ、多分。リンゴが地面に向かって落ちるのとおんなじに」


「そういうもの、ですか」


「うーん……まあ、偉そうな事言ったけど、僕にはよー解らんです、はい」


 っつーか、モノのホン(ライトノベル)の受け売りでした。

 すいません。


「……例えば」


「え……?」


「例えば……私がその殺人鬼のように、あなたを助命したら……そういうもの、という事で済むものなんでしょうか?」


「それは……君に命令してる人に訊いてよ。まあ、僕としては是非、そういうものって事で済まして欲しいけど……あ、そういえば」


「……何ですか?」


「名前、やっぱり教えてくれない? 君って呼ぶのも何だかアレだし……」


「名前……ごめんなさい。私は、名乗る事ができません」


「えっと……やっぱ、どうしても秘密なの?」


「いえ。これは絶対に秘密という訳ではないんですが、私には……名前が、無いんです」


 え、マジか。


「えっと……通称みたいなのも、無いの?」


「それは、ありますが」


「教えてみてよ」


「マークⅡ」


 ……ごっつ過ぎます……無機質過ぎます……。


「私は、初代の改良版のようです。だから、マークⅡ。ちなみに初代は推測するにおそらく、私が作られるまで本当に名無しだったんではないかと」


「何か……嫌だな、それ」


「どうしてですか?」


「……道具みたいで」


「事実、私は道具として使われています」


「僕が君の主人だったら、そんな扱いしないのに」


「……道具として作られたものを道具として使う事に、特に疑問をはさむ余地は……」


「だって君……道具には、見えないよ?」


「! ……」


 んー?

 あれー?


 動揺したよね?

 今。


 これ。

 もしかして、説得で何とかなる感じ?


 さっきも助命だ何だ言ってたし。


 ……うん。

 感情とかいろいろ無いとは言ってるけど、完全に何から何まで無い訳ではないんだろうと思う。

 多分。

 だったら……どうにか、説得できる筈だけれども。


 しかし僕が、ではどうやって攻めたらいいのかな?

 と言葉を探していると、少女は不意に言葉を発した。


「……ごめんなさい。時間切れです」


「時間、切れ?」


「正確には、エネルギー切れです。もうすぐあなたに対する拘束は、解けてしまいます。その前に私はあなたを、殺さなくてはいけません」


 ……うわーん。


「その命令、どーしても聞かなくちゃダメなの?」


「はい」


「聞かないと、どうなるの?」


「おそらく私は閉じ込められて、エネルギーの補給を断たれます」


 ……ん?


「それだけ?」


「それだけですが、それが私にはおそらく、永劫の苦しみになるんです」


「どういう事?」


「私はマスターの作品ですから、命令に背いても破棄はしてくれないでしょう。でも補給を断つだけなら、いつでも再始動できる状態で動けないようにする事ができます」


「それって……眠るって事なんじゃないの? それなら別に、大した事無いんじゃないかと……」


 そんな理由で殺されるのはちょっと御免こうむりたいのだけれど、少女は予想外の説明を付け加えた。


「いいえ、眠りません。意識は続きます。止まっている間でも、ずっと」


「……え」


「それがどういう事なのか、私は体験した事はありませんが、想像はできます。そして、どんな理由でかは知りませんが……初代が今、実際にその状態にあります」


「……」


「あなたには、本当に申し訳無いと思います。今だってあなたは、私とたくさんお話をしてくれました。そんな相手の命など奪ったりなんかしたくはありませんが……でも私は、そんな風になるのはもっと嫌なんです」


 それは……それは確かに、ちょっと嫌だ。

 同じ立場なら僕も、誰かを殺してしまうかも知れない。


 けれどこのままじゃ、本当に殺されてしまうし。

 何か、何か言わないと。

 ええと……ええと。


「ごめんなさい……我が儘、ですよね?」


 あ。

 この線。


「そっか。我が儘ならしょうがない」


「……はい?」


「でもそれなら、僕も我が儘言う。君、可愛いから」


「可愛い……ですか? 私が……」


「うん。それはもう、とびきり」


「そうなんですか?」


 自覚、無いのか……。


「嘘言ってどうするよ。だから、君が泣いたり笑ったりしてるとこ、見てみたいんだ」


「……私に、それはできません」


「それは本当に? できないって教わってるだけとか、思い込んでるだけとか」


「……」


「だからさ。僕も死にたくないし。チャンスくれないかな?」


「チャンス……」


「まあ、僕なんかに何ができるかは知らないよ? 何もできないかも知れない。でも、君に、何かをあげられるかも知れない」


「何か……」


「取りあえず、僕の命を保留する事。あと、君のご主人様がちょっかいを出してきたら、追い返す事。それを約束してくれたら僕も君に、最大限の努力をするって約束する」


「最大限の、努力……」


「うん。どう?」


「……」


 どうだろうか。

 悪い提案ではない筈だ。

 もう後は殺されるというだけなら、言って可能性がある事は何でも言ってみるべきだ。

 そして言ってみたから、後は反応を待つしか無い訳だけれども……。


 これは正直……すり減る。

 今、まともそうな事言ったから、もしかしたら平気の平左のように思われているかも知れないが、その実……。

 どうしてこんな事になったのか、まったく以って解らない。

 解らないし、だからもう思考など働かないし、もういっぱいいっぱいだし、僕はこの災難がただ過ぎていくのをただ待つより無いし。

 ひたすら、助けて欲しいと願うばかりだった。


 会話が途切れて沈黙は訪れたが、静寂までもが訪れた訳ではなく、屋根を打つ雨の音は相当に強いものへと変化していた。

 その雨声に包まれる中、本当に長かったのか短かったのか僕にはよく判らないものの、体感的にはかなり長い時間の経過を感じ、その分僕の魂は削り取られていき。

 その果てに……。


 彼女の髪の毛は、動き……。

 落ちていたナイフの柄を、巻き取り……。

 もたげた。


「決めました。というより、最初から決まっています。……私は、命令を果たします」


 その鋭利な刃は次の瞬間、僕の喉元に迫る。


「あ……」


 短い、悲鳴なのか何なのか判らない声が、僕の口から漏れた。


 本当に……殺される。

 無駄と分かっていても、暴れて振りほどこうと思った。

 しかし体は、動かない。

 これは……これが、蛇ににらまれた蛙、という事なのだろうか。

 つまり、僕は……怖いのか。


 いや、まあ、そうなんだろう。

 この状況。

 あり得ない。


 自分で言うのも何だが、平凡な男子高校生である。

 平凡な一般市民である。

 今まで普通の、平凡だが安寧な生活を送っていた。

 遠く離れた土地では殺し殺されるなど当たり前な場所もあろうが、少なくともここでは無縁の筈だった。


 今、目の前に突き付けられたそれは、多分僕の命をあっさり奪うだろう。


 僕は、ここで、死ぬ。

 だとしたら、僕の今までの人生とは、何だったのか?


 生まれるのにも死ぬのにも理由は要らない、どう生きるかが問題だ。

 そういう言がある。

 しかし、だとしたら僕は、どう生きたか。


 何もしていない。


 何となく生まれ。

 何となく保育園に預けられ。

 何となく小学校で過ごし。

 中学校ではテストに多少苦労したけれど、それ以外は割といい加減に過ごし。


 その結果、僕は何もしていない。


 強いて言えば、つい今日……いや昨日の昼間、初恋の相手に告白してみるという一大イベントを敢行した。

 その結果は、どうしようも無いものではあったが……。

 その相手の顔が、思い浮かんだりした。

 さよならすら言えずに、僕は終わるのか。


「……」


 再び、長く感じる沈黙が訪れた。


 それは本当に長かったが、よく考えれば当初彼女が言っていた、せめて苦しまずという言葉に反している。

 けれどそれも、仕方の無い事なのだろう。

 彼女はいろいろ、迷っていた。

 今も、尋常ではないほどの葛藤があるに違いない。


 もっとも、それをやられるこちらとしては当然たまったものではなく、恐怖を味わう為に焦らされているのと何も変わらない。


 今か……今か。

 早く……早く。

 まるで、逆にとっとと自殺したい人間のような思考すら、芽生え始め。


 そんな風に憔悴させられてきたあたりで……不意に、僕の体は床に倒れ込んだのだった。

 そして、暗転。


 ああそうか、これで……終わり。

 終わってしまうか。

 なるほど何も、面白くない人生だった。

 後悔先に立たずって云うけれど、そのまんまだな。

 さよなら人生……。


 ……。

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