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殺人兵器が愛を知る方法  作者: たてごと♪
【2】MK.2と呼ばれた少女
11/66

〔2-2〕ホットミルク

「親方。空からじゃないけど女の子が」


「入っていいですか?」


「あ、えっと……うん」


 スルーされちゃった。

 親方ェ……。


「失礼します」


 少女はそう断って中へ入り、ドアを閉めると、しかし玄関でフリーズしてしまう。


「ん?」


「濡らしてしまいます」


「あ、そっか」


 慌ててバスタオルを取ってくると、少女に渡した。

 彼女は受け取り、その場でもそもそと体の水分を拭き取り始める。


 僕はその間、何もする事が無くて突っ立っていた。

 その時、これといってフラつきは感じられなかった。

 だから熱は、治まってくれたのかも知れないし、あるいは気のせいだったのかも知れない。


「ええと。着替え……女の子の服とか無いけど、何か貸そうか?」


「いいえ、多分すぐに済みますので。そうすれば、また濡れる事になりますから」


「え。って、あー……傘貸してあげたいけど、一本しか無いや……」


「いえ、それも。実は、済んだ後では傘がおそらく邪魔になるような用件なんです。だから私は今、濡れています。合羽をかぶるという手段が無くもないですが、それは別の理由があって避けています」


「そうなの? よく解らんけど……じゃあ、何か飲み物は? 雨に打たれたなら取りあえず……ホットミルクとか」


「それは……いただきます」


「了解、上がって。思いっ切り散らかってるけど」


「そうですね」


 おおおい。

 そこ、同意する所かな?


 靴と靴下を脱いでもらい、部屋の中央にある小さな一人用のコタツ台の所に落ち着いてもらい。

 冷蔵庫から牛乳を取り出しては鍋にあけ、それを火に掛けた所で、少女が口を開く。


「空から降ってくるには、屋根が邪魔です。それが無ければ、隣のマンションから飛び降りてくる事ができましたが」


 あー。

 スルーしたんじゃなかったのね、しかも生真面目に受けたのね。


「うーんそれ、もし屋根が無くても、危ないからやめてね?」


「そんな事はありません、大丈夫です。ご要望でしたら何とかします」


「えー? いやいや」


 おもろい女の子なのかな?


 とか思ったら、彼女はこんな言葉を継いだ。


「……なるべく、あなたの希望に沿うようにしたいので」


 んー。

 どういう事?

 これはまさか、僕の言う事を全部聞き届けて、ついでにエッチい事もいろいろして、その後コワーイお兄さんがやって来るアレ、とは違わんかな?

 いやいや、僕は貧乏なんだから、ゆすっても何も出ないよ?


 まあ、そんなこんなで牛乳は温まり。

 その半分はマグカップに、もう半分は茶碗に注ぐ。


 カップ二つ無いからな。

 貧乏万歳。


 それらを台へ運ぶと、マグカップのほうを彼女に勧めた。


「どうぞ」


「いただきます」


 ず。

 ず。

 ホットミルク、温まりますなあ。


「美味しいです」


「そっか、よかった。……ええと。取りあえず君は、どこの誰なの?」


「ごめんなさい。教えられません」


 ハッキリしている子は、好きです。


 でも今、この回答は困りますが。


「こちらも訊きます。あなたは宮前織彦。男性。十六歳。間違いありませんか?」


「うん。僕に、何か?」


「はい。実は、本当に申し訳無いんですが……」


「何か面倒事?」


「面倒という事は、ないとは思います。あなたはただ、じっとして居てくれればいいんですが……まあ、そうしているのが難しくは、あるかも知れません」


「はあ。何するの?」


「ごめんなさい。私は、あなたを殺しに来ました」


 ず。

 ず。

 ホットミルク、美味しいですなあ。


「ええと。今、ちょっと聴き慣れない言葉、言わなかった?」


「はい。あなたの生活環境を考えれば、おそらくそれで間違いないと思います」


「ええと。殺す、とか?」


「はい。ごめんなさい」


「ええと。ちょっとよく解らない」


「本当にごめんなさい。実は私も、あなたを殺す理由を知らないんです。ただ、命令には従わないといけませんし……」


「めーれい?」


「はい。あなたの希望に沿いたいと言ったのはつまり、そのせめてものお詫びという訳です」


「そうだったんだ。でもその、命令って誰の?」


「ごめんなさい。教えられません」


「うーん。よく謝る子、他にも知ってるよ? っつーか、その子に告白して、振られたんだけどさ。今日……あ、もう昨日か」


「……告白、ですか」


「うん。君も誰かに、告白した事、ある?」


「いいえ。告白とか、そういう事。私には……まったく解りません」


「え。解らない、って……女の子なのに珍しいね? 潔癖症、とか?」


「いいえ、そういう事ではありません。私は、殺人兵器として作られました。そのせいか、その為に必要の無いものは、私には具わっていないようなんです」


 ず。

 ず。

 ホットミルク、いいですなあ。


「……兵器? 作られた?」


「私は、人に普通ある筈の感情などを、持ち合わせていないんです。しかし私は、愛情。恋情。特にそういったものについて強く興味があるんです。だから、それが何なのか知ろうとしてきたんですが、でも結局は解らずじまいに終わっているんです。とても残念に思います」


「んー。本当に解らない?」


「はい」


「そっか。でも、そんなにいいものでもないよ? 振られると、めっちゃ苦しいし」


「そうなんですか?」


「うん。……あ、でも悪いものでも、ないかな? 人を好きになると、凄く元気になれる。わくわくもするし、それなりに楽しい事でも、あるかな」


「そうですか。やっぱり私は、それを知りたいです」


「うーん、でも……こういうのって教えられるものじゃなくて、自然に感じるものだし」


「説明は難しい、ですか?」


「そうだね。熱さ、冷たさ、痛さ。そういうのが言葉で教えられないのと同じだと思う」


「そうですか」


 ず。

 ず。

 ホットミルク、無くなってしまいました。


「ごめんなさい。私はそろそろ、命令を実行に移します」


「そう」


 少女は立ち上がる。

 脚に装着してあったナイフを引き抜く。

 こちらへ向かって構える。


 ……。

 えーと、あれ?


 これは……。


「あの」


「はい?」


「ひょっとして、それで僕を刺そうとしてる?」


「殺しに来た、と言いました」


 ……え。

 え。

 あ。


「のああああああああああああああああああああ!」

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