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第二話

 「魔王を倒したなら、お前の望みをなんでも叶えよう」


 王座に座っている男がなかなか渋いよい声でそう告げる。数カ月前、魔王は自国の深刻な食物不足を他国の領土を奪うと言う方法で解決する事に決めたそうだ。そして魔国と隣接するこの国は侵略を受ることとなった。応戦するも相手は人よりも強靭な肉体と豊富な魔力を持つ生き物、状況は思わしくなくこのままだと自分たちの領土の半分以上を取られてしまのも時間の問題だった。そこでこの国の王は禁忌とされている「異界からの勇者召還の儀」を執り行ったそうだ。


 呼び出されし者は神の祝福を与えられた異世界の者。その者、魔力は魔王を凌ぎ、剣技はいかなる魔物も薙ぎ払う、そしてその祝福された容姿は全ての生き物を魅了する。

 

 まさにテンプレ、少年少女が憧れる異世界冒険譚、チート能力付。私だってそりゃ、ちょっとは憧れてましたよ。異世界に聖女として呼び出されたり、魔法使いとして召還されたり、そこでウハハのハーレムつくったりとかね。そんなのに憧れるほどはファンタジー脳でしたよ。でも、この展開は嬉しくない。


 勇者として呼び出されたのは兄、羽賀うがしょうであり、私は見事にまきこまれただけだったのでした。休日、兄に無理やり連行された映画館の帰り道。抵抗するのにも力つきされるがままに腕を組んであるいていると、兄の足下に光の穴が出現しそのまま一緒におちていったのだ。


 今さらだけれども願わくばあの時の私に伝えたい、抵抗しておけと。いくら疲れたからといって腕を組むのではないと。まだ手だったら振り払える可能性があった、でも腕をがっしり組まれたらお終いだと……


 「勇者よ、何が望みだ」


 あれよあれよと王の間に通され国の危機を説明されて、そして先ほどの台詞へとたどり着いた。まさに王道。この煌びやかな王宮や王様の横にいる魔法使いの厳めしさからいって、金銀財宝、不老不死まで何でも叶えられそうな雰囲気である。さすがは自称とはいえ最大国家。


 「なんでもと、いいましたね」

 「ああ、我が王冠にかけて誓う。我が国に出来る事なら何でも叶えよう」

 「ならば、魔王を倒したの後、3つお願いしたい事があります」


 兄の言葉に周囲が少々ざわめく。周囲といっても数人しかいないけど。


 「よい、何が望みだ」

 「先ずは、住む場所の確保とこの国での人権の保障を誓っていだだきたい。用が済だら、必要ないと捨てられたくありませんから」

 「もちろんだ。了承も無く異世界から呼び寄せ、そのうえ危険な任務に就いてもらうのだ。それなりの対応はさせていただく」

 「それはよかった。二つ目は魔王を無事に倒した後の生活の保障。といっても金だけよこせとは言いません。出来る範囲でいいので、給金のいい仕事をください」

 「それはこちらから頼みたいと思っていたぐらいだ」

 「できれば、長期休暇を申請した場合は、無条件で受理して頂けるとたすかります。妹が実家に帰りたがるでしょうから」

 「もちろん、善処しよう」

 「最後が、一番重要な願いになりますが……」


 一番重要な願い。その言葉に王様もそして周囲の人間も身構える。兄の顔が真剣そのものになり、一番重要な願いがいかに大切な願いかが伺いしれる。皆が固唾をのんで兄の次の一言を見守る中、私の第六感とも言える兄によって鍛えられた危険察知能力が警告をならす、兄に言葉を続けさせてはいけないと。警告に従い、私が手を伸ばし兄の口を塞ごうとした瞬間、兄が私を抱きしめて大声で叫んだ。


 「妹との婚姻を認めていだだきたい!」

 「もちろん叶えよう!!」

 「もちろん、じゃなぁい!!!」


 兄の言葉にとてもいい笑顔で即答する王様(推定50歳)。微笑ましそうに兄に抱き潰される私を見る宰相っぽい人(推定40歳)。何故か拍手をしだす魔導士っぽい人(推定30歳)。そして魔導士につられて拍手をしだす衛兵っぽい人達(推定30〜20歳)なにこれ、なんですかこれ、何故見なお祝いムード。まだ魔王も倒してないのに。


 「ちょっと待ってください。兄妹間結婚なんて邪道です。違反です、法律違反。モラル違反。道徳を小学校からやり直して下さいっ」

 「はははは、勇者の妹殿。我が国で余が法律でありモラルであり道徳なのだ。余がいいといえば、それが常識である」


 なんという独裁政権。民衆に人権は無いのか!横暴だ、横暴すぎる。


 「故に、勇者とその妹の婚姻は祝福されたモノとなろう」

 「それは、素晴らしいですね」

 「そうだろう、ははは」

 「あはははは」


 何とも和やかなムードが流れる中、私は必死にもがきこの狂った世界から逃げ出そうとした。しかし、2歳も年の上の男の力に逆らえるはずも無く、兄の腕の中にじたばたするしか無かった。


 「あぁ、良かった。日本ではアーたんと結婚できないから、もう羽賀うが家は終わりかと思ったよ」

 「はぁ?」

 「いやさ、俺アーたん以外とは結婚できないでしょ」

 「いや、普通に私以外とならだれとでも結婚できますから。それこそ海外に行けば男とでもできますから」

 「残念だけど。無理なんだよね。アーたん以外は……」

 「女じゃないなんて言わないでよね」

 「言わないよ。男女の差ぐらい判るし。女の子は可愛いと思うよ」


 女の子が可愛いと思うならそのまま可愛い女の子とお幸せになってほしい。義理でもいいから姉が欲しい、この兄の異常さに気がついてくれる姉が欲しい。もう100歩譲って、私の事を毛嫌いしている義姉でもいい。兄を引き受けてくれるなら何でもいい。そんな私の思いを無視して兄が嬉しそうに私の頭をスンスンかぎながら恐ろしい事をボソリという。


 「ただね……アーたん以外には勃起しないんだよね♡」

 (いやぁぁぁぁぁ)


 兄の生々しい話を聞くのですら嫌なのに、その対象が自分だなんて……なんのホラーですか。あまりの事に私の悲鳴は他人には聞こえない超音波級に成り果てました。


 「勇者よ。魔王討伐の暁には、盛大な結婚式を開かせてもらおう」

 「そうですねぇ、国中の人々の祝福の中、お二人が結ばれる様子を魔法で全ての国民にお見せしましょうねぇ」

 「いっその事、幸せそうなお二人の姿を銅像し、いい夫婦の代表として語り継ぐことにしましょう」


 口々に悪意の塊としか思えない言葉を言い放つ王とその一派。いや、私思いっきり拒否してますよね、全力で拒否してますよね。判ってるよ、何にも役に立たない妹の意見なんてハナから無視ってね。ここもアレだね、力ある者が正義で弱者は悪ってやつですかぃ。一人ぐらい、一人ぐらい味方がいたっていいじゃないか。


 最後の救いを求めて、味方になりそうな人を探すけれど、皆生暖かい目で私を見るだけだった。唯一、魔導士の弟子のような青年(推定10代後半)は私と目が合った瞬間気まずそうにそらした。コイツは少しだけ人間の心を持っていたようだ。しかし、その青年も長い物には巻かれる主義らしく、私が涙ながらに訴えても見なかった振りを決め込みやがった。


 「アーたん、よかったね。こんなに祝福されて結婚できるなんて」

 「いや魔王を倒さないと、叶わないから。ね、相手は魔王なんだし、最強のはずだし」


 私の最後の望み……それは魔王の強さにかけるしかない。兄の様な即席勇者に倒されないで下さい、この世界の魔王様。


 「大丈夫。俺、この世界では無敵だから。それに寿命以外では死ぬ事もないって神様がいってたから、すぐに倒して来れるよ」


 この世界の神は余計な事をしてくれる。いや、兄が死なないと聞いて少しは安心したけどね、妹としてやっぱり心配はしてたから。


 だから早く魔王を倒してアーたんと新婚生活送らないとね、と嬉しそうにいう兄の声と既に結婚式のプランを立て始めた王様と宰相を横目に私はある決心をする。


 私の世界の神様すみません。(この世界の神様は兄を無敵にした時点で敵です)人間の身でありながら私、自分の貞操を守るため……魔王サイドにつかせて頂きます。

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